研究開始時の研究の概要 |
曲率は, リーマン多様体と呼ばれる滑らかに曲がった空間の性質を捉えるための基本的概念である. 近年, 測地的距離空間と呼ばれる任意の二点を二点間の距離と一致する長さの曲線で結ぶことができる(滑らかとは限らない)空間に対して, CAT(0)空間と呼ばれる「曲率が0以下の測地的距離空間」というべきものが定義され, 重要な役割を果たしている. 一方, 測地的とは限らない一般の距離空間に対し, 「曲率が0以下」という概念を拡張するためにはCAT(0)空間へ距離を保つ埋め込みが可能な距離空間を特徴付けることが基本的な課題となるが, 未解決である. 本研究ではこの問題の解決, あるいは部分的解決を目指す.
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研究実績の概要 |
2021年度までの研究成果を受けて, 2022年度は, 4点間の距離に関する不等式のみから導かれる(あるいは, それらのみからは導くことができない)非正曲率距離空間の性質を明確にすることを目指して研究を進めた. その一つの成果として, 以前から考察をしていた, 任意の頂点数のサイクルグラフに関する「グラフ比較」で表される非正曲率距離空間の性質が, すべて, 4点間の距離に関する不等式のみから導かれるという結果を論文にまとめた. この結果は年度末には掲載紙のウェブページ上に公開された. さらに, サイクルグラフ以外のグラフに関する「グラフ比較」で表される距離空間の性質と非正曲率性との関係について研究を進め, 一般のグラフに関する「グラフ比較」で表される距離空間の性質と非正曲率性の関係について, いくつかの新たな見通しを得ることができた. さらに, それらを考察する過程で, 2つの有限距離空間の間の距離に関して考察を行い, いくつかの新しい事実を発見した. ただし, これらの新たな問題に関する成果に関しては, 現段階においては, 得られた研究成果を公に発表するには至っていない. また, 他の研究者とも継続的に議論を行い, 前年度まで運営していた非公開の研究セミナーを引き続き運営したほか, 国内外の研究集会で, 計2件の研究発表を行った.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度までの研究では, いくつかの成果を上げることができたものの, 本研究の中心的課題である6点以上を含む距離空間がCAT(0)空間へ距離を保って埋め込み可能であることの特徴付けに関しては, 明確な進展を得られていない. 今後はこれまで得られた成果を, 本研究の中心的課題に結び付けていくことを目指したい. 中でも, サイクルグラフ以外のグラフに関する「グラフ比較」で表される距離空間の性質と非正曲率性の関係について2022年度までに行った考察をより深めていきたいと考えている. この観点からのアプローチに関しては, 国外の研究者による最近の先行研究が知られているため, 彼らとの間で議論を深めることも意識していきたい.
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