研究課題/領域番号 |
21K03286
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12010:基礎解析学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
福島 竜輝 筑波大学, 数理物質系, 教授 (60527886)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | ランダムウォーク / ランダム媒質 / 高分子模型 / 局在 / 確率過程 / 測度の集中 / 統計物理 / 有効抵抗 / パーコレーション / 最速浸透問題 / 大偏差原理 |
研究開始時の研究の概要 |
物理現象の数理解析は,古典的には媒質が均質であることを仮定して行われてきた.一方で現実に存在する物質は不純物などに起因する不規則性を含んでいることが多く,その影響を理解することは重要な問題である.とくに1980年代ごろから,僅かな不規則性が系の性質を大きく変える場合があることが分かってきて,物理量の不規則性の強度に関する連続性などの明らかに見える問題もそう単純な問題ではないことが明らかになった.本研究では,確率論の「高次元空間の解析学」という側面を活用して,高分子模型のような統計物理学に起因する模型の基本的問題を解決することを目指す.
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研究実績の概要 |
本年度はまず,Mott variable range hoppingと呼ばれるランダム媒質中のランダムウォークについて研究を行った.これは空間中にランダムに配置された点の上を,距離に依存する飛躍率で移動するランダムウォークであり,Anderson局在が起こっている状況での電子の稀な飛躍を記述する平均場模型と考えられている.前年度までに,飛躍率が距離について指数的に減衰する場合に拡散・劣拡散の相転移が起きることを示し,後者の場合のスケール極限を決定していた.本年度は飛躍率が優指数的に減衰する場合に,より特異なスケール極限が現れることを示すことに成功した.具体的には,ランダムウォークのいわゆる最大値過程と最小値過程がそれぞれ独立な極値過程に収束することと,その間での挙動は異なる時間スケールに支配されていることを明らかにした.
この他に,ランダム媒質中の向きづけられた高分子模型について,Stefan Junk氏が得ていた「媒質の影響が強い相」のモーメントによる特徴づけを,有界な媒質の分布から非有界なものに拡張する研究も行った.一般の非有界な媒質にまで結果を拡張することはできなかったが,正規分布やPoisson分布などの標準的な確率分布は全て含むような家庭のもとで,先行研究と同じ判定条件を示すことができた.この研究は,有界な媒質の場合に上述のモーメントによる判定条件を使って得られた,確率熱方程式の解の漸近挙動の研究や高分子模型に対する局所極限定理の,非有界な媒質への拡張の第一歩となる意味でも重要な結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mott variable range hoppingに関する研究については,スケール極限を標準的に考えうる全ての場合に決定することができたので,この方向は予定以上に研究が進展し,ひと段落したと考えている.ランダム媒質中の向きづけられた高分子模型の「媒質の影響が強い相」のモーメントによる特徴づけも,研究開始当初には無かった問題意識であるが,着想を得てからは順調に研究が進んだ.一方で前年度から懸案になっている「ランダムに荷電した高分子模型」の研究については,共同研究者のFrank den Hollander氏を招聘するなどして議論を進めたものの,いまだに問題の新たな難しさを認識したという段階に留まっている.これらを総合して,全体としては予想外の進展も含めれば順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は補助事業期間延長の制度を利用しての研究である.5月20日から24日にドイツのミュンヘンで開催されるランダム媒質中のランダムウォークに関する研究集会に招待されており,その旅費として延長が認められた経費を利用する.この研究集会には関連分野の多くの研究者が参加する予定であり,これまでに直接的な成果が得られていない「ランダム媒質中の拡散過程の大偏差原理と線形応答の関連」と「ランダムに荷電した高分子模型」の研究に関して意見交換をすることで,部分的にでも進展を得られると期待している.
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