研究課題/領域番号 |
21K03303
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12010:基礎解析学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藤家 雪朗 立命館大学, 理工学部, 教授 (00238536)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 行列シュレディンガー作用素 / エネルギー交差 / 量子共鳴 / 半古典解析 / 超局所解析 / 行列シュレディンガー方程式 / WKB解析 / シュレディンガー作用素 / スペクトルシフト関数 / 半古典漸近理論 / シュレディンガー方程式系 / 準古典理論 |
研究開始時の研究の概要 |
シュレディンガー及びディラック作用素の固有値、量子共鳴の準古典極限における漸近分布の研究を、これまで研究が未開発であったいくつかの問題に焦点を当てて行う。一つの方向は、作用素が自己共役でないことによる特異な現象を解明することである。非自己共役なZakharov-Shabat作用素の固有値が複素平面上で分岐した曲線上に半古典極限で収束することが、数値実験で報告されているが、これをストークス曲線の情報から完全WKB法を用いて量子化条件を厳密に求める。もう一つの方向は、シュレディンガー作用素エネルギー交差するが、量子共鳴の分布にどの様に影響するかを明らかにすることである。
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研究実績の概要 |
Santiago大学のMarouane Assal氏、愛媛大学の樋口健太氏との共同研究で、1次元の行列シュレディンガー作用素の量子共鳴の分布についての共同研究を行った。量子共鳴の半古典極限における漸近分布は、対応する古典力学系を密接な関係にあることが、Bohrの対応原理として予想されている。行列値ポテンシャルを持つシュレディンガー作用素は、量子化学におけるBorn-Oppenheimer近似によって導出される。このモデルにおいて、最も重要で興味深い問題は、エネルギー交差の問題である。行列値であることによって、古典軌道が行列のサイズの数だけ定義されるが、これらが互いに交差するときに量子現象として何が起こるかを、量子共鳴、特にその虚部の大きさ(状態の寿命の逆数を記述する)に焦点を当てて調べた。この問題はこれまで、Andre Martinez, 渡部拓也との共同研究でも探究してきたが、古典軌道の交差が接触的(tangential)である場合を扱ったのは、本研究が初めてである。接触的な交差点において、2つのincomingな古典軌道上の超局所解から2つのoutgoingな古典軌道上の超局所解を対応させる転送行列の半古典漸近展開を、subprincipalな項まで求めることが、この研究の鍵であり、本研究ではこれに成功した。転送行列のprincipalな項は単位行列で、交差点で軌道を変えずに伝播する確率振幅を記述し、subprincipalな項は接触字数に依存するhの多項式オーダーで、交差点で軌道を変える確率振幅を記述する。交差点が変わり点ではない場合については、すでに論文掲載が決まっている。交差点が変わり点の場合は、現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項でも述べたように、共鳴の半古典漸近分布の問題は、古典軌道の交差点での転送行列の漸近挙動がわかれば良い。今年度の研究で、交差が有限次接触的である場合に超局所的な転送行列の漸近挙動がわかったことで、1次元の場合のエネルギー交差の問題はほぼ解決したと言える。その方法は、一次元の特殊性を生かした形になっていて、多次元に拡張するのはいまだに難しいが、その反対に、転送行列の漸近展開の問題を、2つの古典軌道の母関数の差を相関数とする停留位相近似の問題に帰着させたことは、問題の本質を明解にしたという意味で大きな収穫であったと思う。次項で述べるような2024年度以降の研究につながる研究成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
行列シュレディンガー作用素の研究は、これまで空間1次元のモデルに対して詳しい解析を行なってきた。今後の研究の一つの方針は、これまでの研究成果の空間多次元の場合への拡張である。もちろん1次元での研究成果には、1次元の特殊性をフルに生かしたものも多く、そのまま多次元に拡張することは難しい。最初のステップとして、基礎的な事実として使ってきた「特異性の伝播」の問題を拡張することを考える。これはスカラー作用素の場合によく知られた事実であるが、行列値の場合、古典軌道の交差点における特異性の伝播は私の知る限りほとんど知られていない。これまでのAssalと樋口との共同研究で、1次元の場合に、1次元の特殊性を用いて証明した事実の1部を拡張して、以下の命題を証明することを第一の目標とする:相空間上の点が二つの異なる古典軌道上にあ離、この点において作用素Pのシンボルが超双曲型であるとする。この時、Pu=0の解uがincomingな二つの古典軌道上で超局所的に0であるならば、outgoingな二つの古典軌道上でも超局所的に0である。
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