研究課題/領域番号 |
21K03390
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 隆史 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (40444096)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | キタエフスピン液体 / 数値計算 / 量子スピン液体 / キタエフ模型 / 数値シミュレーション / 量子スピン系 / 励起ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では, Kitaevスピン液体候補物質の有効磁気模型である蜂の巣格子Kitaev(K)-Γ-Heisenberg(J)模型の基底状態に注目する.この模型では,創発マヨラナ粒子と関連が深いKitaevスピン液体相以外のスピン液体相を含む,未知の相が多数存在することが指摘されている.本模型で期待されるスピン液体ならびに多彩な秩序相の個々の性質を,励起ダイナミクスや熱力学的性質の観点から明らかにする.そして本研究を通して得られた知見から,スピン液体相固有の特徴を実験でいかに捉えるかや,Kitaevスピン液体物質の実現に向けた方策の提案を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究では,キタエフスピン液体の候補物質,蜂の巣格子磁性体αーRuCl3の有効磁気模型とされるスピンS=1/2キタエフ・ガンマ模型に注目し,その基底状態相図を調べてきた.これまでの研究は蜂の巣格子を形成する三方向のボンド上の相互作用の大きさが等方的な場合に対するものが中心であったが,本研究では相互作用の異方性が存在する場合に注目した.すなわち,蜂の巣格子を形成する特定方向のボンド上の相互作用の強弱を変えることで,模型がキタエフ・ガンマスピン鎖となる極限から,相互作用が蜂の巣格子上で等方的キタエフ・ガンマ模型となるパラメータ空間内で現れる量子相に注目した.このような拡張されたキタエフ・ガンマ模型においてキタエフ相互作用とガンマ相互作用の比,スピン鎖間をつなぐ鎖間相互作用の大きさを変えて数値計算を実施した. 一昨年度,昨年度,キタエフ相互作用が負,ガンマ相互作用が正となる場合に注目したが今年度,それ以外のパラメータ領域についての基底状態探索を行なった.その結果キタエフ・ガンマスピン鎖では,先行研究[W. Yang, et al., Phys. Rev. Research 2, 033268 (2020)]で示された相図より,より複雑な相図になっていることを見出した.特にキタエフ・ガンマスピン鎖の極限では,負のキタエフ相互作用を持ち,かつ正のガンマ相互作用が非常に小さい場合にVBS状態,TL液体相と強磁性相の間にインコメンシュレート相があること,先行研究で指摘されていた議論の余地あり,unknownとされていた領域には2つの相があることを明らかにした.本研究で見つけたそれぞれの相は,基底状態を反映した特徴的な低エネルギー磁気励起で特徴づけられることがわかった.これら新しく見つけた各相はキタエフ・ガンマスピン鎖間をつなぐ鎖間相互作用を大きくしても有限に残るをことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度,昨年度まで報告した朝永ラッティンジャー(TL)液体につながる量子液体相(pTLL相)の低エネルギー励起を改めて詳細に調べた.これまでは動的構造因子に対する計算やエネルギーの微分の振る舞いからエネルギーギャップの有無について議論してきたが,大規模な密度行列繰り込み群法に基づく数値計算から転送行列の固有値を調べ,そのサイズスケーリングからエネルギーギャップの有無を議論した.その結果,pTLL相内でもエネルギーギャップが閉じていることを確認できた.これに加えて,スピン鎖極限における基底状態相図についても昨年度の結果に加えて新しい知見が得られた.すなわち,先行研究[W. Yang, et al., Phys. Rev. Research 2, 033268 (2020)]で議論されていたUnknown相は2つの領域に分かれていること.そのうちの一つでガンマ相互作用が比較的大きいところでは格子点上の各スピンが平行状態から少しずれてそろう長距離秩序相(cLRO1),とガンマ相互作用がゼロとなるキタエフ極限に近いところではcLRO1とは相転移点で区別されるcLRO2と呼ぶ長距離秩序相あるいは拡張キタエフスピン液体相が期待されることを見出している.また比熱のピーク構造の変化を調べた.スピン鎖極限ではシングルピーク構造であるが,キタエフ相互作用が負,ガンマ相互作用が正の場合,相互作用が等方的な場合,創発マヨラナ粒子を連想させるダブルピーク構造をとる.このピーク構造変化は相互作用がほぼ等方的となるところで現れ,高温側のピークがスピン鎖のシングルピークに対応することを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
近年,キタエフ模型やそれに関連する模型についてスピンの大きさがS=1/2に限らず任意のスピンSに対する研究が,理論研究だけでなく物質合成の面からも進んでいる.特にスピンの大きさが半奇整数と整数の場合でキタエフスピン液体の性質が異なることが明らかにされている.これまで,本研究では相互作用の異方性に注目してS=1/2の場合に現れる基底状態相図に注目してきたが,今後,S=1の場合について注目していく.例えばS=1とすることでTL液体はハルデーンギャップ状態というトポロジカルな状態に置き換わることが容易に予想される.S=1のキタエフ模型の場合,異方性が強い場合にエネルギーギャップの開いた非磁性状態が現れることが知られている.従ってガンマ相互作用の大きさによって両者が移り変わることが予想される.また,S=1/2とS=1で基底状態相図に本質的な違いがあるのかに注目する.S=1/2の場合,三重縮退した基底状態を持つ相が現れるがS=1でも現れるか,等方的な相互作用を持つ場合,S=1/2では相境界になるケースがあったがS=1の場合はどうかなどに注目する.
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