研究課題/領域番号 |
21K03403
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西野 友年 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00241563)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | テンソルネットワーク / エンタングルメント / 木構造ネットワーク / 構造最適化 / 波動関数 / 確率密度関数 / 枝の組み換え / 縮約 / 数値解析 / 木構造 / 繰り込み群 / 自動最適化 / エネルギースケール / フラクタル |
研究開始時の研究の概要 |
テンソルネットワーク形式は、量子物理系の波動関数や統計物理系の確率密度関数を、局所的なテンソルの縮約で表現するものである。系の特徴をうまく捉える、自然な形のネットワーク形状が探し出せれば、少ない自由度のテンソルを用いて状態を効率よく表現することができる。本研究では量子系のあらゆる2分割を考慮し、対応するエンタングルメント・エントロピーを指標として、最適なネットワーク構造を自動的に決定する計算手法を開発して行く。特に、直交性が担保された木構造ネットワークに着目し、実空間繰り込み群の描像に基づく計算アルゴリズムの開発にあたる。フラクタル格子上の古典統計系についても、臨界現象の解明を進めていく。
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研究実績の概要 |
量子物理系や統計物理系の数値解析において、波動関数や確率密度関数を精密に数値表現する目的でテンソルネットワーク形式は形成されて来た。そして近年では物理学の垣根を越えて、機械学習など応用数学や工学などの分野でも確率分布関数を表現する道具として幅広くテンソルネットワークの応用が進みつつある。扱う系の自由度に対して指数関数的に次元が増加する線型空間上のベクトルを、幾つかの脚を持つ局所的なテンソルの「縮約の網目」により表現することにより、大域的に期待値を求める計算量を大幅に抑えることが可能となるのだ。但し、ネットワークを形成するテンソルの組み合わせ方には膨大な選択肢があり得て、その中からどのように最終的なネットワーク形状を決定するかという積年の課題がある。可能な限りテンソルの脚の次元を小さく選ぶことが現実的な計算処理からの要請であり、対象となる系の特徴や内部構造を把握した上で、それに見合った結合の幾何学構造を構築する必要がある。但し、系の性質は計算による解析を通じて知り得るものであるから、幾何学構造を予め決めることは不可能であり、計算の経過とともに逐次的にネットワークの接続を改変して行く必要がある。本年度は、枝分かれのみでループを含まない木構造ネットワークを用いて格子上の量子模型の変分基底波動関数を表現する場合について、2分エンタングルメント・エントロピーを指標としつつ枝分かれのパターンを何度も局所的に組み換えるアルゴリズムの構築を試みた。その結果として、密度行列繰り込み群を自然に拡張する形で、目的とする構造最適化が可能であることが判明した。得られた自然な木構造ネットワーク上には大きなエンタングルメントを示すリンクは存在しないので、本研究の目的の一部が達成されたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
木構造ネットワークはループを含まないことから、密度行列繰り込み群で使われる行列積状態と同じように、直交性を持つテンソルのみで構成する正準な形を、枝の幾何学構造によらずに保つことができる。この性質により、木構造ネットワークを変分基底波動関数として用いる場合に、それぞれのテンソルの局所的な最適化はいわゆるスーパーブロック・ハミルトニアンの対角化により速やかに行うことが可能であり、最適化を行う場所を格子中に巡らせるスイーピングを通じて変分エネルギーを極小化することも容易である。さて、木構造は直交性を満たす1対の3脚テンソルにより組まれていることから、スーパーブロック・ハミルトニアンの固有ベクトルは4脚テンソルとなる。これを木構造に戻して1対の3脚テンソルを再び得る際に脚の選び方は4C2=3通りあり、それぞれについて特異値分解を行い、エンタングルメント・エントロピーが最小となる脚の組み合わせを選ぶと、木構造を局所的に構造最適化したことになる。そのままスイーピングを続けると、格子全体を一巡する間に次々と構造最適化が進み、大域的にも最適化が進んで行く。この反復的な枝の組み換えを繰り返し行い、新たな組み換えが起こらなくなった時点で、ある意味でエンタングルメント・エントロピーの極小化がなされたと考えられるはずだ。結果として得られた木構造は、少なくとも初期に与えられた構造よりは最適なものになっている。アニーリングなどを用いると、より注意深くエンタングルメントの極小化を実行できるはずだ。計算処理が正しく行われたかを確認する目的で、ダイマー化したスピン鎖や、隣接相互作用が階層的に変化するスピン系に対して実際にネットワークの構造最適化を行い、相互作用の構造が正しく反映されることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
木構造についてエンタングルメント・エントロピー極小条件を満たすネットワーク構造が自動的に得られる様になったことから、これを実際の問題解決に用いることが、まず手始めに着手すべき今後の課題である。対象としては、相互作用にフラストレーションがあり、基底状態の性質が予測し辛い有限サイズの量子スピン系や、ランダムネスにより生じる遠距離のペアリング現象などが考えられる。量子系のみならず、古典統計モデルにおいても相互作用のランダムネスにより生じるスピングラス状態の、エンタングルメントを通じた解析などが現実的に着手し得る直近の課題として考えられる。機械学習の分野を見渡すと、文字など画像の自動認識・自動分類問題に対して木構造ネットワークを用いることが考えられる。例えば末端の一部を可視変数に、残りを隠れ変数に取ることにより、制限ボルツマンマシンの代用として用いる場合に、学習するデータの性質に応じた枝の組み換えを行うことにより、学習効率を高めることが期待できる。より進んだ検討課題としては、ループを含むネットワーク構造の取り扱いを視野に入れておくべきであり、まずは木構造ネットワークにディスエンタングラーを挿入した、MERAネットワークから検討を始めたい。平面グラフとして描かれるMERAネットワークのみを相手にするのが最も簡単な選択肢であり、この場合は枝の組み換えに従って更新するべきディスエンタングラーを容易に特定できる。より一般的には、平面グラフとはならないMERAネットワークの自動的な構造最適化も検討するべきである。更に先には、量子測定モデルのテンソルネットワークによる構築が考えられる。これは、有限の時間の間は測定装置に似た働きをする量子系と、測定対象の接触を扱うもので、その構築条件からまず解明して行きたい。
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