研究課題/領域番号 |
21K03410
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
原山 卓久 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70247229)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 波動カオス / 非線形ダイナミクス / 2次元マイクロキャビティレーザー / 共鳴波動関数 / カオス系の普遍測 |
研究開始時の研究の概要 |
従来のレーザーは細長い1次元的な形状のレーザーキャビティを用いている。これに対して、2次元形状を有するマイクロキャビティレーザーでは、不規則な光線軌道を描く光線カオスを生じ、それを反映して共鳴波動関数は乱流のように複雑になる。このようなキャビティ形状に起因する非線形性に加え、複数の共鳴波動関数が発振モードとしてレーザー媒質を介して相互作用し、非常に複雑で豊かな非線形ダイナミクスを呈するというもう1つの非線形性をも含んでいる。本研究では、このような従来の波動カオス研究では扱われてこなかった2重の非線形性が、どのような新しいカオス系の普遍則をもたらすのか、理論と数値計算により解明する。
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研究実績の概要 |
2次元マイクロキャビティレーザーは、幾何光学としての性質により、光線軌道が規則的で予測可能なものとなるもの、不規則で全く予測不可能な完全カオスとなるもの、規則的な光線軌道と不規則な光線軌道が混在する混合相空間となるもの(近可積分、弱いカオス)に分類される。昨年度、カージオイド形状、Bunimovichのスタジアム形状、およびD形状という異なる形状を用いて、完全カオス2次元マイクロキャビティレーザー(カオティックビリヤードレーザー)では、共振器サイズが発振波長よりも十分に大きく、利得媒質への注入エネルギーが十分に大きくなると、1つの共鳴波動関数だけがレーザー発振するシングルモード発振が普遍的に生じる現象であることを明らかにした。今年度は、この普遍的シングルモード発振が光線軌道の完全カオスの波動光学的性質としての顕在化であり、共鳴波動関数の量子エルゴード性に起因していることを解明し、この普遍現象の生じるメカニズムの詳細を明らかにした。共振器サイズが大きくなると、複素固有値である共鳴の実部の平均間隔は縦緩和係数よりも狭くなる。このとき、各共鳴波動関数は他の共鳴波動関数と強く相互作用することが可能となることを理論と数値計算により解明した。そして、カオティックビリヤードレーザーでは規則的な光線軌道群は全く存在せず、量子エルゴード性によりすべての共鳴波動関数はキャビティ全体に広がるため、すべての共鳴波動関数が強く相互作用する。その結果、1つの共鳴波動関数だけが注入エネルギーを獲得しレーザー発振することになり、他のすべての共鳴のレーザー発振を完全に抑制することを理論と数値計算により示した。また、半導体により作製されたカオティックビリヤードレーザーの実験では、シングルモード発振だけでなく、2モード発振が観測されることがあるが、その原因が温度の揺らぎであることを理論と数値計算により解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、従来の量子・波動カオス研究の枠組みを越えた、波動カオスとレーザー媒質の2重の非線形性が、エネルギー準位統計に関するBGS予想に代表される従来の量子・波動カオスの普遍則とは異なる、どのような新しい普遍則をもたらすのか、を明らかにすることである。そのための、最も重要な基盤となるものとして、昨年度、境界要素法を、半開放系である微小光共振器の定常状態に関する波動方程式の複素固有値である共鳴を求める数値計算方法に拡張することに成功した。今年度はこれを利用して多数の共鳴とそれらに対応する共鳴波動関数を数値的に求め、これらに基づいてカオティックビリヤードレーザーの非線形ダイナミクスを記述することの有効性を十分に検証することができた。また、レーザー媒質が存在する場合に、光場とレーザー媒質の両方の時間発展を記述するために昨年度開発したシュレディンガー=ブロッホ方程式を解析する数値計算方法と、今年度の半古典摂動法による理論解析の進展により、レーザー媒質の特性である縦緩和係数と、共鳴の実部がどのような関係となるときに複数の共鳴が強く相互作用するかを解明することに成功した。さらに、半導体カオティックビリヤードレーザーの実験でシングルモード発振の普遍性に反して2モード発振が観測されることについて、実験状況として温度制御が困難で、その揺らぎのために2モード発振が観測されてしまうことがあることを、理論と数値計算により解明し、シングルモード発振の普遍性には矛盾していないことを明らかにした。このように、2次元マイクロキャビティ形状とレーザー媒質の2重の非線形性に起因するシングルモード発振という新しい普遍則に関して、理論と数値計算による詳しい解析を着実に進めており、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究により、光線軌道が完全カオスとなるような2次元マイクロキャビティレーザー(カオティックビリヤードレーザー)では、シングルモード発振が安定なレーザー発振状態となることの普遍性が確認できた。今後は、カオティックビリヤードレーザーでアクティブなレーザー媒質がキャビティ全体に広がっていない場合にどのようなことが起きるかということと、光線軌道が不規則で予測不可能となる軌道と規則的な軌道が混在する近可積分(弱いカオス)となるような2次元マイクロキャビティレーザーで、キャビティ形状とレーザー媒質の2重の非線形性がどのような普遍的な現象をもたらすのかということを解明する必要がある。どちらも、カオティックビリヤードレーザーの普遍的シングルモード発振が観測される場合とは異なる状況設定であるため、新しい現象が期待できる。前者は、主に半導体レーザーの研究で確立されている選択励起という方法で実際のレーザーを用いたデバイス作製・実験検証が可能であり、後者も適切な形状の2次元マイクロキャビティレーザーを作製することで実験による検証が可能である。前者は、共鳴波動関数が注入エネルギーを獲得したり、他の共鳴波動関数と重なったりする領域が減少するため、アクティブなレーザー媒質がキャビティ全体に一様に存在している場合よりも複雑な現象が起きることが予想される。後者は、規則的な光線軌道に対応する波動関数の局在が臨界角条件を満足するように設定することで、規則的な光線軌道からトンネル現象を通じてカオス軌道へと遷移することを経てキャビティ外部へと出射することになるものと予想される。このような方向で研究を推進することによって、今年度までとは異なる設定での2次元マイクロキャビティレーザーにおいて、キャビティ形状とレーザー媒質の2重の非線形性による新しい普遍則の発見が期待できる。
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