研究課題/領域番号 |
21K03421
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
金本 理奈 明治大学, 理工学部, 専任教授 (00382028)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | オプトメカニクス / 多体量子論 / 冷却原子気体 / ナノ粒子 / 非線形ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
光共振器中にトラップされた原子気体のボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)や、誘電体微粒子を用いたオプトメカニクスの量子多体理論を展開する。原子気体や微粒子を用いたオプトメカニクスの先行研究では、従来オプトメカニカル結合に由来するダイナミクスの解明に注力されてきた。本研究ではこの結合に加え、 (i) 原子間相互作用、(ii) 共振器光子が媒介する微粒子間の散逸型非線形相互作用、(iii) 中性原子と微粒子表面間にはたらく分散力相互作用、に由来する量子多体効果を解明する。
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研究実績の概要 |
冷却原子気体や誘電体微粒子を用いたオプトメカニクスは、熱源との接触無しに光で振動子を捕捉・浮遊が可能であり優れたコヒーレンス特性を有するため超精密測定等の量子技術応用への期待が高まっている。しかし既存研究は主にオプトメカニカル結合のみに由来するダイナミクスの解明に注力しており、他種の相互作用の評価は不十分であった。 本研究では多体系の運動状態の制御技術とオプトメカニカルセンシング感度の向上を目的として、光共振器中にトラップされた原子気体のボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)や微粒子を用いたオプトメカニクスにおける多体相互作用や異種物質間の相互作用が物質の重心運動のダイナミクスに及ぼす影響を解明する。 2022年度は次の研究を実施した。 1)円環上の原子気体超流動流と、ポンプ光・プローブ光との結合を利用することで、量子コヒーレンス効果の一つであるオプトメカニカル誘導透明化の観測や、光の群速度の制御が高精度で可能となることを理論的に提唱した。特にプローブ光の透過スペクトルのピーク位置や形状が超流動速度を反映すること、更に超流動流の角運動量の値によって光の群速度を速める・遅らせるという制御ができることを見出した。この成果は超流動流のプローブ法や光の群速度の制御に新しい手法を加えるものである。 2)昨年度に引き続き、誘電体微粒子と中性原子の相互作用を解析した。2022年度は特に共振器内にトラップした誘電体ナノ粒子と単一原子の複合量子系に対して、共振器電磁場を断熱消去できる領域で、電磁場に媒介されるナノ粒子-原子間の有効相互作用を定式化した。有効ハミルトニアンと散逸を考慮した量子マスター方程式を導出し、これらに基づいてナノ粒子と原子間の量子エンタングルメントおよび振動量子状態の状態転送の忠実度について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時の当初計画は(i) 原子間相互作用を厳密に考慮したBECのオプトメカニクス, (ii) 共振器光を介してグローバルに結合した多振動子集団, (iii) 冷却原子とナノ粒子の混合系の3課題からなる。各々の進捗と当初計画からの変更は以下の通りである: (i) 当初計画通り、原子間相互作用を含めたBEC-共振器系の定式化が概ね完了した。この定式化をもとにして超流動角運動量の準非破壊測定に加えて、ソリトンの準非破壊測定、発振現象やカオスの発現等、多種多様な現象を解析できるようになっただけでなく、新種の量子状態検出法の提出も可能となった。 (ii) 複数の振動子が共振器光子と結合することで、振動子間にはグローバルな非線形結合が生じ、複数振動子間の同期現象などの集団運動が発現し得る。当初計画では振動子としてナノ粒子を想定し、複数ナノ粒子の非線形ダイナミクスを解析する予定であったが、2021年度中に競合する類似研究が発表され始めたことから、本研究ではナノ粒子を原子気体の集団運動に変更した。(i) の成果に基づいてこの課題を更に発展させることが可能となった。 (iii) 2021年度は原子とナノ粒子の分散力相互作用を明らかにし、2022年度は共振器電磁場が媒介する一原子とナノ粒子の集団運動の間接的な相互作用を明らかにした。これにより、状況に応じて異なる起源の相互作用強度の比較や、いずれの相互作用が支配的であるかが明確化できた。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度は引き続き次のように三課題を発展させる。 (i) 原子間相互作用を厳密に考慮したBECのオプトメカニクス:駆動された共振器ラゲール・ガウス光と円環上の原子気体超流動流が結合するオプトメカニクス系を対象とする。所望の状態検出や興味ある現象に応じて、これまで構築した手法を適切に使い分けることにより、原子間相互作用を考慮した共振器中のBECの非平衡ダイナミクスを解析する。特に原子間相互作用に由来する有効非線形性に起因して生成されるソリトンの安定性解析や準非破壊検出に取り組む。 (ii) 共振器光を介してグローバルに結合する多原子集団:共振器中にトラップされたBECの非線形ダイナミクスを解析する。共振器光と原子の相互作用、原子間相互作用、および駆動光の強度のパラメータとして、BECの自励振動の発現条件とカオス相を明らかにする。またこのような発振状態のBECを含む共振器を多数連結させた際に生じ得る位相ロック相を特定する。 (iii) 原子とナノ粒子の共存系:2021年度に明らかにしたナノ粒子-冷却原子間の分散力相互作用の知見、および2022年度に定式化した共振器電磁場を介した単一原子とナノ粒子の間接的相互作用の知見に基づき、原子とナノ粒子の混在系における様々な結合領域における状態転送の忠実度を向上させる方法を探る。光を介したナノ粒子の量子状態測定という従来のオプトメカニカルセンシングとは異なる、原子を介したナノ粒子の量子状態の精密測定法の可能性を開拓する。
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