研究課題/領域番号 |
21K03435
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
長谷川 尊之 大阪工業大学, 工学部, 講師 (00533184)
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研究分担者 |
金 大貴 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (00295685)
小島 磨 千葉工業大学, 工学部, 教授 (00415845)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 光励起過渡現象 / テラヘルツ波 / 表面電場 / 半導体 / 超高速分光 |
研究開始時の研究の概要 |
半導体表面をフェムト秒レーザーで励起すると電子・原子の超高速な過渡現象が生じる。過渡現象は、光学定数の高速変調やテラヘルツ波放射をもたらすことから、制御することができれば様々な光機能性に結びつく可能性がある。本研究では、過渡現象と関連のある表面電場を制御する機構を確立する。さらに、過渡現象の超高速ダイナミクスを多面的に観測するための独自の分光システムを構築する。以上のアプローチにより、過渡現象ダイナミクスと表面電場との関係を新たな視点から調査して解明し、超高速光機能性の制御を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は半導体結晶中に光励起される電子系・格子系の超高速過渡現象を表面電場の観点から探究し、過渡現象の本質解明と制御を目的としている。2023年度の主な研究実績を述べる。 光励起キャリアによる表面電場の遮蔽を利用して、電場強度に依存するテラヘルツ波放射成分を選択的に計測する方法を見出した。実験では、表面電場を有するGaAs多層膜を試料として、時間差を制御した超短光パルスのペアを励起源とした。先行する光パルスを強度変調することで光励起キャリアによる電場遮蔽が周期的に生じ、後続光パルスで発生するテラヘルツ波振幅がそれに同期して変調された。このテラヘルツ波振幅の挙動は、後続光パルスで誘起される分極の大きさが先行光パルスの電場遮蔽により変化して、過渡現象ダイナミクスに反映されたことに起因する。以上の電場変調条件での計測は、過渡現象ダイナミクスの電場依存性の調査に極めて効果的である。 バックグラウンドキャリア濃度の異なるInP試料を対象として、励起光強度を系統的かつ幅広く変化させた条件でのテラヘルツ波計測から、各試料のテラヘルツ波放射特性を調査した。GaAs多層膜と同程度の表面電場強度を有する非ドープInP試料では、プラズモンの関与が示唆される信号が観測され、本結果はキャリア輸送とプラズモン・フォノン結合モードによるテラヘルツ波放射が重畳したモデルで説明された。一方、n ドープInP試料については、ドープキャリアが関与したプラズモンによる放射が支配的であった。以上の結果は、プラズモンによるテラヘルツ波放射の制御に関する重要な知見である。 弱い歪みを有するGaAs/AlAs多重量子井戸を試料として、量子ビートによる瞬間的量子干渉と過渡反射応答との関係性を光パルスペア励起実験により調査した。励起光エネルギーの制御により励起子間の量子干渉を誘起することで、超高速の光応答が生じることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光励起キャリアの電場遮蔽現象と光パルスペア励起を組み合わせた表面電場制御法から、これまでに様々な成果が得られている。物性面では、動的に電場強度を制御できることを活かして、静的な電場制御とは異なる過渡現象ダイナミクスの電場依存性についての知見を得た。特に、電場の遮蔽が進展するサブピコ秒の時間スケールでは複雑なダイナミクスを示すことが明らかとなり、過渡現象の新たな一面と制御性が期待される。応用面では、電場強度に依存したテラヘルツ波放射成分を選択的に観測することが可能な電場変調テラヘルツ波計測法を着想し、実験と理論の両面でそれを実証することに成功した。 上記と並行して、InPを対象としたテラヘルツ波放射の研究を推進した。励起光強度(光励起キャリア密度)に対するテラヘルツ波放射の依存性を精密に観測するために、弱励起条件から強励起条件までのテラヘルツ波時間波形を観測できるように実験システムを整備した。また、時間分解ポンプ・プローブ法によるサブピコ秒領域での緩和ダイナミクスの観測や、光変調反射分光法によるバンドギャップエネルギーと表面電場強度の見積りを行い、テラヘルツ波放射特性を多面的に考察した。重要な結果として、プラズモンによるテラヘルツ波放射が表面電場プロファイルに強く依存することを明らかにした。 その他に、量子井戸構造を対象とした光パルスペア励起実験を行い、量子ビートの瞬間的量子干渉に起因した超高速な過渡反射応答などを明らかにした。 上述した電場変調テラヘルツ波計測の検証に多くの時間を要したことから、表面電場制御についての論文投稿に遅れが生じた。この理由から、本研究課題の研究期間を延長した。一方、当初計画していた実験等はおおむね計画通りに完了していることから、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べたように、論文発表のために研究期間を延長した。よって、今後は研究期間中のデータを集約して解析・考察を進め、必要に応じて追実験や理論計算などを実施し、新知見は論文や学会発表等で積極的に発信していく(本報告書作成時点で論文1報の掲載が決定している)。また、新たな実験の着想が得られた際には、本研究課題のさらなる発展を目指して、それに積極的に取り組む。
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