研究実績の概要 |
層状磁性体CeSbTeは結晶構造の対称性から多重バンド縮退点の存在が期待されているが、その他のバンドに属するキャリア数が多いために特徴的な物性は遮蔽されて観測できていなかった。我々はSbとTeの比率を変えることによりキャリア密度を激減させた真性半導体の単結晶CeTe1.83Sb0.17を合成して、低温領域(2K)において電気抵抗率が磁場方向に対して4桁程度の巨大な異方性を示すことを発見した。この起源について調べるために層状磁性半導体CeTe2-xSbxについて、組成比xを変化させてキャリア密度を6桁の範囲で制御した単結晶を合成して低温領域において磁気抵抗効果の大きさを調べた。その結果、キャリア密度が10^18cm^-3以下の試料では2K,0.4テスラにおいて2桁超の負の磁気抵抗効果が観測された。一方で10^20cm^-3の試料では磁気抵抗効果は1%以下であったことから、本物質における巨大な負の磁気抵抗効果は希薄なキャリア密度においてのみ発現することが明らかとなった。また、磁気抵抗効果が顕著に観測される10K以下で電気抵抗率と磁化の関係を調べたところ、磁化の飽和とともに電気抵抗率は一定値に収束することが示された。これらの結果から、本物質中では自由電子は磁気ポーラロンを形成しており、強制強磁性状態に至るまでの磁気ポーラロンの移動度の変化が巨大な負の磁気抵抗効果の起源であることが実証された。バンド縮退点の効果を反映した物性は明確に検出されなかった。Ceの他にもPr,Nd,Sm,Gd,Tb,で同様の単結晶を合成したが、桁で変化する磁気抵抗効果を示したのはCe化合物のみであった。それぞれの磁気特性を比較することにより、強磁性秩序と反強磁性秩序の安定性が競合し、強い1軸異方性を示す状況が、磁気ポーラロンを形成して異方的な巨大磁気抵抗効果を発現するために必要な条件であることが示唆された。
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