研究課題/領域番号 |
21K03461
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田久保 耕 東京工業大学, 理学院, 特任助教 (30738365)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 光誘起相転移ダイナミクス / 電子回折 / 共鳴軟X線散乱 / スピンダイナミクス / 電子線回折 / 強相関電子系 |
研究開始時の研究の概要 |
強相関電子系物質の電子およびスピン構造のダイナミクスの研究を目的として、時間分解型の共鳴軟X線散乱測定および電子線回折測定を行う。光照射・光誘起相転移に伴う構造と電子・スピン状態変化のダイナミクスを観測する。特に反強磁性体のダイナミクスに着目し測定対象として、BaFe2S3等の揺らぎの大きな1次元系の超伝導体、及びBa3CuSb2O9やNiGa2S4等の2次元系のフラストレーション化合物を計画する。フェムト秒からピコ秒領域の超高速ダイナミクスの観測により、これらの物質の示す非従来型の超伝導やスピン液体状態などの量子現象と結合する軌道/磁性の秩序状態を時間軸で分離して観測する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、時間分解型のパルス電子回折および放射光X線を用いた共鳴軟X線散乱測定という世界的にも最先端の手法を用いることで、反強磁性体の結晶構造やスピン状態の超高速ダイナミクスを研究することである。特にフェムト秒領域の超短パルスレーザー照射下でこれらの物質の示す光誘起相転移に伴う構造と反強磁性状態変化に着目した研究を行う。 本年度はスピン偏極したパルス電子線源を導入し、主にマルチフェロイクス化合物BiFeO3/SrTiO3(111)薄膜のフェムト秒領域の時間分解型スピン偏極電子回折測定を行った。スピン偏極電子線を用いて反強磁性秩序に相当する回折ピークを観測し、その長周期的変調と対応するスピン偏極依存性を確認した。電子線ビームのスピン偏極方向に対する強度依存性はスピン偏極中性子回折と類似するものであった。 さらに200フェムト秒程度の時間分解能で時間分解測定を行い、フェムト秒レーザー光照射後、200フェムト秒以内にスピン偏極方向に対する強度差が消失することを確認した。すなわち、光照射によってスピンの長周期的秩序が超高速に回転し反強磁性が消失することを直接的に確認することに成功した。 また、ポンププローブの分光測定も行い、電子状態の変化もほぼ同じ時間スケールで起こることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピン偏極した電子線源の装置を導入し、フェムト秒領域の時間分解測定を実現した。 特に実際に強誘電-磁性材料として期待されるマルチフェロイクス化合物BiFeO3/SrTiO3(111)薄膜の光誘起ダイナミクス測定を行い、この材料の反強磁性の長周期的変調を消失させたと考えられる信号を観測した。また、光学測定も行い、電子状態の変化もほぼ同じスケールで起こることを明かにした。これらの変化は光誘起ダイナミクスにおいて電子線磁気回折の超高速変化、すなわちフェムト秒領域のスピンダイナミクスを捉えることに世界で初めて成功したと解釈できるものであり、研究の目的を達成しつつあると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
出張制限などが不定期に起こる現在の状況では、当初の研究計画のように国内外の放射光光源のビームタイムを安定して確保することは難しくなっている。計画のように、国内外の放射光やXFEL施設を用いた測定を年に複数回行う形で、一連の光誘起の構造・スピンダイナミクスの全体像を確立していくのは非常に困難である。一方でフェムト秒領域の電子回折装置の開発はかなり順調である為、大学の実験室内のレーザー光源・装置を用いて、物質の測定を数多く行うことで、光誘起ダイナミクスを考察することを重視する形で研究を行っていく方針に切り替えた。その結果、強誘電-磁性材料として期待されるマルチフェロイクス化合物BiFeO3/SrTiO3(111)薄膜のスピン構造の光誘起ダイナミクス測定を実現した。しかし、得られたデータは世界初のものであり、論文にまとめるにあたり、少し時間をかけてさらなる解析をしていくことが不可欠であり、また測定・実験条件の確認なども必要である。状況に応じて実行可能な研究をその都度見定めて、さらに研究を推進していく計画である。
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