研究課題/領域番号 |
21K03463
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
鈴木 勝 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20196869)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | He膜 / グラファイト / 水晶マイクロバランス / 超流動 / KT転移 / He固体膜 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでの研究から,グラファイト基板上のHe固体膜は大きな慣性力により,非超流動膜においても基板振動に追従しないすべり運動を起こすこと明らかになった。本研究では,4He固体膜4/7整合相のすべり運動の性質に現れる量子効果を明らかにすること中心課題とし,a) 液体膜,不整合固体膜と4/7整合膜との比較,b) 4/7整合膜の温度依存性,c) 4He固体膜の統計性の効果の実験を行う。
|
研究実績の概要 |
吸着膜のすべり運動は潤滑膜の原子・分子スケールの理解に重要でありナノトライボロジーの研究分野のひとつとして発展している。その中で3He膜と4He膜のすべり運動の研究は特異な地位を占める。3He膜と4He膜は,ともに揺らぎの大きな低次元の量子物質であり,さらに,ある面密度以上では4He膜は膜上部の液相が超流動となる。本研究の目的は,グラファイト基板に吸着した3He膜と4He膜のすべり運動を測定し,すべり運動での量子効果についての知見を得ようとするものである。 令和5年度は,単結晶発泡グラファイト基板を利用して32kHz音叉型水晶振動子により,4He膜の膜上部が超流動に転移する3原子層膜を中心に実験を行った。測定から以下の結果を得た。(1) 超流動転移温度より十分に高温の温度領域では,膜下部の固相膜での大振幅の低摩擦状態から小振幅の固着状態への緩和は,温度の低下とともに遅くなる。緩和時間の温度依存性はアレニウス則に従う。(2) 温度が低下し,膜上部の超流動転移温度に近づくにつれて,膜下部の固相膜の低摩擦状態から固着状態への緩和は速くなり,超流動転移温度以下では低摩擦状態は観測されない。また固着状態へ変化量の経過時間依存性は指数関数的ではない。(2)についての緩和の振る舞いは,平衡値からのずれの2乗に比例する項の存在で説明できる。また,その項の係数の大きさの対数は,超流動転移温度からの温度差の逆数に比例する。この振る舞いは膜上部の液相の超流動発現機構であるKT転移のコヒーレンス長の温度依存性と一致し,低摩擦状態から固着状態への緩和が速くなる現象は,KT転移の前駆現象であると結論できる。以上,本研究により4He膜のすべり運動にKT転移の前駆現象が現れるという興味深い知見が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究から4He膜の固相膜の低摩擦状態からの固着状態への緩和は,膜上部の超流動転移温度より高温の温度域においても膜上部の超流動性が大きく影響し,KT転移の前駆現象と考えられる振る舞いが観測された。4He膜のすべり運動にKT転移の前駆現象が観測されることは新たな知見であり,(2)おおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度として令和5年度に引き続き, 単結晶発泡グラファイト基板を利用して32kHz音叉型水晶振動子によるHe膜のすべり運動について以下の研究を実施する。(1)4He膜のこれまの研究により,固相膜の低摩擦状態から固着状態への緩和にKT転移の前駆現象の存在が明からになったが,4He膜の面密度、その他のパラメータを変えて,その詳細を明らかにする。(2) 4He膜,3He膜ともに,1原子層膜ならびに2原子層膜では面密度によりさまざまな膜構造を取ることが知られている。特に2原子層膜を中心に膜構造とすべり運動の関係を明らかにする。
|