研究実績の概要 |
物性研究において, 極低温環境により物質の基底状態を実現させ, 基底状態をもたらす相互作用機構を解明することは, 物性物理学の学問の発展だけでなく, 新規物質の発見や利用などの応用にもつながるため, 極めて重要である。極低温と高磁場を合わせた多重極限状態での物性研究は困難になるが, 磁気モーメント間の相互作用の異方性を明らかにする上で極めて有効である。 本研究では, 温度10mK, 磁場8Tの極低温強磁場がなければ実現できないf電子の秩序状態の研究として, 電気四極子が秩序変数となる希土類カゴ状物質と巨大磁歪を示す絶縁体スピン系物質の研究を行った。特に, 多重極限環境に試料回転機構を導入し, 結晶軸に対する磁場方向を変化させた熱膨張・磁歪測定を行うことで, 四極子間相互作用や磁気弾性係数の異方性を明らかにし, f電子間相互作用の機構の解明を行う。この目的のため, 回転機構により極低温強磁場環境下において歪測定セルを回転させ磁場方向が変化可能な測定システムの開発を行うとともに, 交流インピーダンス測定による磁場中帯磁率測定装置の開発を行った。 熱膨張・磁歪測定については, ピエゾ回転駆動素子を用いる方法と機械回転式駆動機構を用いる方法の2通りの装置の試験を実施した。その結果, ピエゾ回転素子の回転トルクが十分でなく, 歪測定装置を十分回転させることが困難であることが判明した。一方, 機械回転式駆動機構では, 歪測定のバックグラウンドの温度・角度依存性を明らかにし, 測定歪に換算し最大10^(-5)程度の影響があることなどの測定性能を明らかにした。 研究対象のカゴ状希土類化合物PrIr2Zn20の極低温超伝導状態の解明には磁場中交流帯磁率測定が不可欠であるため, 希釈冷凍機への搭載可能な交流インピーダンスブリッジを用いた帯磁率測定システムの開発を行なった。
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