研究課題/領域番号 |
21K03473
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高畠 敏郎 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 特任教授 (40171540)
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研究分担者 |
梅尾 和則 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 准教授 (10223596)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 強相関電子系 / 磁気フラストレーション / 低温高圧実験 / 量子臨界現象 / キタエフモデル / ハニカム格子 / 希土類化合物 |
研究開始時の研究の概要 |
近藤効果を示すセリウムがハニカム格子を組むと,磁気フラストレーションに加えて,キタエフ型のボンドフラストレーションが期待される。その様な場合に予言されている部分無秩序反強磁性状態や特異な超伝導状態を実験的に検証する。具体的には,CePt6Al3という新規物質に元素置換を施した試料を作製し,低温での比熱と磁化率の測定によりバルク磁性を調べ,核磁気共鳴,中性子散乱,ミュウエスアールというミクロな手法で電子スピンの揺動と相関を調べる。これらの実験結果を理論と比較し,ハニカム近藤格子系の新奇な量子状態を見出す。
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研究実績の概要 |
Ceイオンがハニカム格子を組むCePt6Al3は重い電子的挙動を示し,そのPtを同族元素のPdで5%置換すると反強磁性転移が発現することを我々は先に見出した。本研究では,この系における磁気的フラストレーションの役割を明らかにすることを目的とした。 CePt6Al3に5d正孔/電子をドープするために,周期表でPtの左右に位置するIr/Auで置換し,4f正孔をドープするために,CeをLaで部分置換した試料を作製した。Ir/Au置換によって近藤温度は上下したが,固溶限まで置換しても磁気転移は現れなかった。この結果はPd置換による磁気秩序は,近藤効果の抑制ではなく, Ceハニカム格子の磁気フラストレーションが弱められた為であることを意味している。常圧で磁気臨界点近傍に位置すると期待されたPd(x=0.024)の単結晶について,分担者の梅尾は,比熱測定で比熱係数C/Tの低温での発散傾向を確かめ,ハニカム面に垂直方向に一軸圧を印加して交流比熱を測定する準備を進めた。研究協力者の北川はCe(Pt1-xPdx)6Al3のAl核の核磁気共鳴実験を行い,スピン緩和率の温度依存性がx=0での重い電子系の挙動からx>0.1では反強磁性秩序の挙動に変化することを見出した。研究協力者のD.T. Adrojaはx=0.2, 0.3の中性子回折実験を行ったが,磁気秩序に対応するBragg回折ピークは観測されなかったため,秩序モーメントが小さいと考察した。 スピンS = 7/2をもつGdがハニカム格子を組むGdPt6Al3の単結晶を育成し,その磁性を調べた。Tm = 7.4 K以下での反強磁性的秩序状態での磁化は,磁場をハニカム面内に印加したとき,小さな自発磁化を示した。これは,スピンが,ジャロシンスキー・守谷(DM)相互作用によってわずかに傾いたためであると解釈した。結晶が反転対称を有するにも拘わらず,DM相互作用がはたらく原因は,面内で隣接する二つのGdイオンの中点で反転対称が無く,2回回転軸を有するためであると考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハニカム格子系化合物CePt6Al3に5d正孔・電子をドープすると,近藤温度は上・下するが,磁気秩序の発現には至らなかった。これは,電荷キャリアをドープしないCe(Pt1-xPdx)6Al3における磁気秩序発生が磁気フラストレーションの抑制に起因するという我々の主張を支持している。この結果を低温物理国際会議で発表するとともに,JPS Conf. Proc.に公表した。また,GdPt6Al3単結晶を育成して,c面内で強磁性成分をもつ傾角反強磁性秩序を見出した。その原因をジャロシンスキー・守谷相互作用であるとした論文を,J. Phys. Soc. Jpn.に公表し,日本物理学会2022年秋季大会で発表した。以上の成果から,おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
・ハニカム近藤格子CePt6Al3の結晶対称性を制御し,量子臨界線を過ぎる際の量子臨界現象を観測し,特異な磁気秩序相と超伝導相を探索する。そのために,Pdドープによって常圧で磁気秩序寸前にした単結晶試料を用いる。ハニカム面に平行と垂直方向に加圧して交流比熱をより高精度で測定し,対称性の低下による磁気フラストレーションの変化を追跡する。加圧による磁気秩序の発生あるいは特異な超伝導の発現が見出されたら,その原因を他のバルク物性(磁化率,電気抵抗)測定とミクロプローブ(核磁気共鳴,中性子散乱,ミュウエスアール)測定で調べる。 ・Ce(Pt1-xPdx)6Al3で長距離磁気秩序が起こるx>0.1の核磁気共鳴と中性子回折実験の結果を照らし合わせて磁気構造モデルを提案し,磁気フラストレーションの効果を見極める。 ・Ce以外の希土類がハニカム格子を組むRPt6Al3 (R= Pr, Nd, Sm, Gd, Tb)の単結晶試料を育成し,低温でのバルク物性を調べる。その磁気構造を粉末中性子回折実験で,結晶場スキームを中性子非弾性散乱実験で決める。これらの結果を基に,希土類ハニカム磁性体におけるジャロシンスキー・守谷相互作用と磁気フラストレーションの役割を明らかにする。
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