研究課題/領域番号 |
21K03475
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
水戸 毅 兵庫県立大学, 理学研究科, 教授 (70335420)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | ディラック半金属 / トポロジカル近藤絶縁体 / 強相関電子系 / NMR / トポロジカル絶縁体 |
研究開始時の研究の概要 |
ディラック半金属に特有の電子特性と強相関トポロジカル絶縁体に出現するディラック電子の検出を高圧下において可能にするため、核磁気共鳴測定を用いた手法を構築する。フェルミ準近傍の状態密度を反映する核スピン格子緩和時間T1とナイトシフトの温度・磁場・圧力依存性を第一原理計算に基づいて解析し、バンド分散の詳細を特定する。また、T1測定から検出されるスピン拡散成分から表面伝導に関する情報を抽出する。
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研究実績の概要 |
〇 圧力の印加によって半導体-半金属転移を示す黒リンは、この転移圧力以上(P>1.3-1.5 GPa)にてディラックフェルミオンが生じると期待される物質である。転移圧力直上のP=1.63 GPaにおいて31P-核磁気共鳴(NMR)測定を行って得られた核スピン-格子緩和率1/T1の温度・磁場依存性の測定結果について、低温下で1/T1が3次元系ディラック物質に生じるランダウ準位ゼロモード状態密度を検出していると考えることで良く理解できることが明らかになり、Physical Review Letter誌に論文報告を行った。また、続いて測定を行っているより転移圧力に近い1.40 GPa下においても1.63 GPaでの結果と同様の磁場、温度依存性が観測されたが、定量的には差があり、その差はディラックフェルミオンのフェルミ速度の違いとして理解可能と考えられることが分かった。 〇 トポロジカル近藤絶縁体の候補物質されるSmSについて、圧力誘起磁気秩序が現れる高圧領域(P>2 GPa)で、4.2 GPaまでの測定をほぼ終え、新たに価数揺動かつ非磁性半導体領域にある1.5 GPaでの詳細なNMR測定データを追加、さらに2.6 GPaまでの直流率磁化測定も行った。その結果、この物質の2 GPa近傍では局在性を示す実験データが全く得られなかった。にもかかわらず、磁気秩序が生じることはSmSの特異性を示している。NMR測定で得られる1/T1とスペクトルの解析には、データが多成分を含む場合に長けているベイズ推定の手法を初めて適用した。また、1/T1 (P= 1.5 GPa)は高温と低温領域でそれぞれ特異な温度依存性を示すが、逐次摂動理論を用いた動的平均場理論に基づいた計算で、定性的には狭いバンド幅と低温下でのバンドギャップの形成を考慮することによって説明できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒リンについて、1.40 GPa下での強磁場下(15-24T)NMR測定を計画しているが、測定を予定している東北大学金属材料研究所の強磁場施設において装置不良が生じたために、半年以上延期となっており、研究推進の遅れの原因となっている。 SmSの様々な圧力下で測定した1/T1とナイトシフトのデータについて、それらの温度・圧力依存性について解釈を付けることに、予想以上の時間がかかっている。しかし一方で、研究プロジェクト開始時には予定していなかったが、データ駆動型の解析(ベイズ推論)を専門とする研究グループと協力関係を築く機会に恵まれ、思いがけず先進的なデータ解析法を研究に導入できたという成果も得られた。また、SmSについては、高圧下での直流磁化測定のデータが、予想外に早期に得ることができた。さらに、SmB6の薄膜試料もごく最近入手することができ、近くそのNMR測定に着手することが可能な状況にある。総じて、研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
〇 黒リンの研究について、P=1.40 GPaでのこれ以上の議論には、強磁場(15 T以上)の測定を必要とするが、計画していた東北大学金属材料研究所での測定が装置不良のためにしばらくは使用できないとの連絡があり、今後の研究計画について関係者と協議する。一方、単結晶試料を用いたNMR測定の準備を始めており(具体的には、高圧下NMR測定により効率的なNMRコイル設置方法の改良など)、ディラックフェルミオンが生成されるP>1.3 GPa高圧領域の低温下における異方性を調べることで、ディラック分散の形状についてより詳しい同定を試みる。 〇 SmSについて、1/T1(P=1.5 GPa)の温度依存性について、理論家の協力を得てより定量的な議論を進める。また、高圧下価数揺動状態での結晶構造について情報を得るため、SmSの単結晶試料(同位体33S濃縮処理)の準備を研究協力者に依頼する。この試料が準備できたならば(現在、国際情勢の悪化のために33S原料の入手が難しくなっており、可能かどうかを調査中)、P>1.0 GPaの圧力領域にてNMR測定を行う。また、これまでの解析において導入したベイズ推定法についてまとめ、他の研究課題への導入を図る。 〇 上記の試料に加えて、新たにEu化合物EuMg2Bi2の測定を計画する。この物質では、約7 K以下で反強磁性磁気秩序を示すが、その自発磁化によって物質中に発生する内部磁場がバンド構造に影響し、フェルミ準位近傍にスピン分極したワイル点が形成されることが先行研究によって期待されている。この物質を研究に用いる利点は、比較的大きな単結晶試料が作りやすく、またワイル点形成に寄与するBiのNMR測定が可能であることにある。既に試料提供者との打ち合わせを済ませ、6月より測定を開始させる予定である。
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