研究課題/領域番号 |
21K03476
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
渡辺 忠孝 日本大学, 理工学部, 教授 (70409051)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 高エントロピー物質 / ボンドフラストレーション / 超音波測定 / カンター合金 / スピネル酸化物 / 量子臨界現象 / スピンクロスオーバー / ペロブスカイト酸化物 / 磁性 / 物性実験 / フラストレーション / 超音波 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、材料科学の分野では、高エントロピー合金とよばれる多元系合金(狭義には5成分以上の元素からなる等比組成の合金)が、構成元素の単純な足し合わせを超えた多様な物性を示すことから高い注目を集めている。高エントロピー合金については、現在のところ室温~高温での優れた力学特性が関心の中心となっているが、低温でユニークな電子物性を示す物質としても高い潜在性が期待される。本研究課題では、3成分以上の遷移元素からなる中~高エントロピー物質の磁性体について、ユニークな強相関物性の探索研究を行う。本課題では、格子の弾性異常を検出することで電子物性に関する情報を得ることができる超音波測定を研究に適用する。
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研究実績の概要 |
カンター合金系中エントロピー合金CrxCoNi (x = 0.5-1.2)について、単結晶および多結晶を用いた超音波音速測定を行った。CrxCoNiはCr組成xで制御される強磁性量子臨界性がx ~ 0.8で発現するランダム磁性体であるが、量子臨界性を示すCr0.8CoNiにおいては磁場印加により量子臨界相からフェルミ液体相へのクロスオーバーが生じることが知られている。本研究での実験の結果、Cr0.8CoNiにおいて磁場誘起の量子臨界相-フェルミ液体相クロスオーバーに由来する弾性異常が観測された。 スピネル酸化物AB2O4について、AサイトあるいはBサイトを高エントロピー化した物質の多結晶合成を試みた。スピネル酸化物AB2O4は、Bサイトがパイロクロア格子を形成する典型的な幾何学的フラストレート磁性体の結晶構造を有するが、高エントロピー化により強いボンドランダムネスを導入することにより、幾何学的フラストレーションとボンドフラストレーションが競合・共存する磁性体が得られると期待される。本研究での実験の結果、高エントロピー型スピネル酸化物(Zn0.2Cd0.2Mn0.2Fe0.2Co0.2)Cr2O4とZn(V0.2Cr0.2Mn0.2Fe0.2Co0.2)2O4の単相多結晶の合成に成功した。これらの物質について磁化測定を行ったところ、前者は約50 Kでフェリ磁性転移を示し、後者は約30 K以下でスピングラス挙動を示すことがわかった。 スピンクロスオーバー物質であるペロブスカイト酸化物LaCoO3について、単結晶を用いた超音波音速測定を行った。本研究での実験の結果、LaCoO3においてスピンクロスオーバーに伴うボンドフラストレーションの増強が生じていることを示唆する弾性異常が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超音波測定による物性研究については、カンター合金系中エントロピー合金CrxCoNiの超音波音速測定で量子臨界性由来の弾性異常の観測に成功した。また、スピンクロスオーバー物質LaCoO3の超音波音速測定でボンドフラストレーション由来の弾性異常の観測に成功した。LaCoO3の研究は当初計画にはなかったものであり、LaCoO3は中~高エントロピー物質には該当しないが、LaCoO3の研究で得られた知見は本研究課題を今後進展させる上で参考となる重要なものである。以上の研究成果から判断して、本研究課題での超音波測定による物性研究は、おおむね順調に進展していると考えている。 新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究については、本年度は当初計画ではラーベス化合物を対象に研究を進める予定であったが、方針を変更して当初計画にはなかったスピネル酸化物を対象に重点的に研究を進めた。その結果、新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体である中~高エントロピー型スピネル酸化物の単相多結晶の合成に成功した。このことから、新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究についても、研究はおおむね順調に進展していると考えている。 以上、当初計画を変更して進めた研究は多いものの、中~高エントロピー型ランダム磁性体の研究に超音波測定を適用する、あるいはボンドフラストレーションを有する新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究を行うという本研究課題の主旨から判断すると、本研究課題は当初期待していた水準の研究成果を挙げており、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、当初計画では研究対象物質としていなかったスピネル酸化物AB2O4において(Zn-Cd-Mn-Fe-Co-Ni)Cr2O4やZn(V-Cr-Mn-Fe-Co)2O4などの高エントロピー型スピネル酸化物の単相多結晶の合成に成功した。そこで今後は、スピネル酸化物AB2O4の高エントロピー型ランダム磁性体について重点的に研究を進めていく予定である。単相多結晶の合成手法を確立した物質については、フラックス法による単結晶合成も行う。高エントロピー型スピネル酸化物の多結晶および単結晶について超音波測定を始めとする物性測定を行い、ボンドフラストレーションが誘起する新奇物性の探索研究を行う。 当初計画で研究対象物質としたラーベス化合物AB2については、現在も中~高エントロピー型ラーベス化合物の単相多結晶の合成と物性評価を進めている。ラーベス化合物については、引き続き当初計画に沿って研究を進める予定である。
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