研究実績の概要 |
スピネル酸化物磁性体AB2O4について、Aサイトを高エントロピー化した(n-A1/n)B2O4 (n = 4, 5, 6)と、Bサイトを高エントロピー化したA(n-B1/n)2O4 (n = 4, 5, 6)の単相多結晶の合成を試みた。スピネル酸化物AB2O4は、Bサイトがパイロクロア格子を形成する典型的な幾何学的フラストレート磁性体の結晶構造を有するが、高エントロピー化により幾何学的フラストレーションとボンドフラストレーションの競合が生じてユニークな新物性が発現すると期待される。 Aサイトを高エントロピー化したスピネル酸化物(n-A1/n)B2O4については、クロムスピネル(n-A1/n)Cr2O4 (n = 4, 5, 6; A = Mg, Zn, Cd, Mn, Fe, Co, Ni, Cu)の合成を試み、(Zn1/5Mn1/5Fe1/5Co1/5Ni1/5)Cr2O4など11種の物質の単相多結晶の合成に成功した。また、これらの物質は、Aサイトの元素の組み合わせに依存して異なる磁気基底状態を有することが明らかになった。具体的には、(n-A1/n)Cr2O4の中には反強磁性転移を示す物質、強磁性転移を示す物質、スピングラス転移を示す物質、低温まで磁気転移を示さない物質が存在することが明らかになった。 Bサイトを高エントロピー化したスピネル酸化物A(n-B1/n)2O4については、亜鉛スピネルZn(n-B1/n)2O4 (n = 4, 5, 6; B = V, Cr, Mn, Fe, Co, Ga)の合成を試み、Zn(V1/5Cr1/5Mn1/5Fe1/5Co1/5)2O4など8種の物質の単相多結晶の合成に成功した。また、これらの物質はいずれもスピングラス転移を示し、その転移温度はBサイトの元素の組み合わせに依存して異なることが明らかになった。
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