研究課題/領域番号 |
21K03477
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
下川 統久朗 沖縄科学技術大学院大学, 量子理論ユニット, スタッフサイエンティスト (20633853)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | Frustration / Spin nematic state / Exact diagonalization / スピンネマティック / フラストレーション / スピン液体 / 数値計算 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では種々の二次元量子フラストレート磁性体で実現することが期待されているスピンネマティック状態の基本的性質を数値的に明らかにすることを目的とする。申請者らが近年独自に開発した高磁場に特化した厳密対角化コード-Quantum Spin Solver near Saturation (QS3)-では、従来の厳密対角化コードの限界(~40サイト)を大きく超え、100サイト以上の大規模な系を一切近似することなく取り扱う可能である。大規模な系で数値的厳密に得られた熱力学的データに基づき、この状態が実現する物質設計の理論構築に取り組む。
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研究実績の概要 |
リング交換相互作用があるS=1/2正方格子磁性体で実現するスピンネマティック状態の研究を行った。昨年度までの研究でスピンネマティック基底状態が実現するパラメータ領域の特定が行われていたので、動的構造因子の振る舞いを厳密対角化法が実装されている量子スピンソルバーQS3を用いて引き続き解析した。特に共同研究者の密度行列繰り込み群法による計算結果では非整合波数点にギャップレスな振る舞いが現れており、その原因を明らかにする必要があったため、境界条件や空間次元が動的構造因子に与える影響をスピンラダー系を含めた幅広い模型において調べた。また励起状態と有限温度下の物理を明らかにするために、thick-restarted Lanczos法などを用いた研究を行った。現在までに比熱や磁化率、スピン相関関数など実験的に測定可能な基本物理量の振る舞いを調べており、ネマティック秩序パラメータの温度依存性と調和的な振る舞いを得ている。
また量子ハニカム磁性体Cu2(pymca)3(ClO4)における常磁性的な振る舞いの起源を明らかにするために、3種類のHeisenberg相互作用を持つハニカム格子有効模型の基底状態性質を厳密対角化法と量子モンテカルロ法を用いて調べた。また実物質の実験に関しては大阪大学萩原グループと埼玉大学の本多グループが担当した。大規模数値計算の結果、本物質におけるスピンネマティックの存在は少なくともゼロ磁場では期待出来ず、基底状態としては局所ハニカム格子上にplaquette-singletが存在する量子常磁性状態が実現していることが数値的には明らかになった。また実験的にこの状態を同定する上では動的構造因子を用いることが有用であることも明らかにし、出版論文として纏めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はネマティック状態に対する有限温度効果の影響や励起状態の性質を調べることが出来た。これらは実験結果との比較を行う上で非常に有用である。また共同研究者の密度行列繰り込み群法による計算結果とのギャップを埋めるための追加計算から、ネマティック基底状態およびその動的性質をより深く理解することが出来た。論文作成に取り掛かれる段階に来たと言う意味で概ね順調に進展していると評価している。
また従来型の磁気秩序がないことが報告されていた実物質Cu2(pymca)3(ClO4)のゼロ磁場基底状態として実現している量子状態の実験的同定する問題に対して、上記の動的構造因子から得られた知見を活かした上で一定の解答を得ることにも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
ネマティック状態を既存の実験手法を用いて同定する方法を確立するために、有限温度下における動的構造因子の振る舞いを調べることが可能な数値計算コードの開発を進める。特に近年の量子情報の発展から得られた知見を利用することでネマティック状態におけるエンタングルメント構造を調べ、動的構造因子を用いた同定法が構築出来ないか調べる予定である。
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