研究課題/領域番号 |
21K03530
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
慈道 大介 東京工業大学, 理学院, 教授 (30402811)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ハドロン物理 / カイラル対称性 / ストレンジクォーク / カイラル対称性の部分的回復 / K中間子 / K中間子核子散乱 / インスタントン液体模型 / インスタントン液滴模型 / ハドロン物理学 / ダイクォーク / 中間子原子核 |
研究開始時の研究の概要 |
動的に破れているカイラル対称性は標準核密度程度の有限密度系において、部分的(不完全)に回復していることが、π中間子原子核系の解析から分かってきた。今後は、π中間子以外の系でも部分的な回復が系統的に起こっていることを検証する必要がある。本研究では、K中間子などストレンジクォークをプローブとして、QCDの真空構造に対するストレンジクォークの役割を明らかにする。そのために、有限密度3フレーバーカイラル有効理論を構築し、K中間子(K+, K0)に対する媒質効果を理論と現象論の両面から明らかにする。また、ハドロンにおけるダイクォーク相関の役割、SU(3)の破れの起源に対し、新しい観点から明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、K中間子などストレンジクォークをプローブとして用いて、QCD真空構造に対するストレンジクォークの役割を明らかにすることを目的とし、K中間子(K+, K0)に対する媒質効果を理論的と現象論的の両面から明らかにする。本年度は、主に以下の項目ついて進展があった。これらの業績は研究協力者である大学院生との共同研究によるところが大きい。 1. 核媒質中でのストレンジクォーク凝縮の変化は相関関数法によりK中間子核子散乱振幅のソフト極限から見積もることができる。ソフト極限への外挿のためカイラル摂動論を用い実験データを再現することで、ストレンジクォーク凝縮を見積もっている。本年度はこの研究成果を学術論文に発表し掲載が決定した。I=0の散乱振幅を重陽子散乱データから引き出すための理論計算の整備を行った。 2. K-と重陽子の散乱過程において終状態相互作用を分析することは、直接散乱が難しい散乱過程の相互作用を引き出すのに適している。本研究では、飛行K-と重陽子の散乱過程を用いてΛpとΛnにおけるアイソスピンの破れを観測する方法を提案した。また、同じ散乱過程でΛN終状態におけるΣNしきい値近傍のカスプ構造を理論計算し、そこからΣN相互作用を引き出すことを見いだした。 3. カイラル有効理論の研究により、カイラル対称性の自発的破れのパターンの中でカイラルアノマリが主体的な役割を演じる場合があることが知られており、その場合σ中間子の質量が軽くなることがわかっている。本研究ではこの知見が他のモデルでも一般的に見られるかどうかを調べるために、アノマリ効果が主体的な役割を演じるインスタントン液体模型を用いて調べた。その結果、Nf=3のインスタントン液体模型ではアノマリ効果が主体的にカイラル対称性を破ることがわかり、一方でクォークの効果を取り除くクエンチ近似ではアノマリの役割が小さいことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は、当初の予定より順調に進んでいる。ハドロン複合性の定式化では相互作用のエネルギー依存性の起源が重要であることを突き止め、その成果を学術論文に投稿し掲載されることが決定した。今後、量子力学の範囲を超えたエネルギー依存性の起源を場の理論に基づく計算によって具体的に書き出し、ハドロン複合性のより信頼できる定式化を進めていきたい。ハドロン複合性に関しては、格子QCDで得られる状態についてそこで得られるポテンシャルに基づいて複合性を計算する方法を構築している。この方法は新しい提案であり、複合性が明らかな系に対して正しく機能するかを簡単な模型を用いて確認をしている。インスタントン液体模型の研究は既に論文を学術雑誌に投稿し査読を受けている最中である。K-重陽子散乱では、ΛNの終状態相互作用からΛNのアイソスピンの破れだけでなく、ΣNしきい値近傍でのカスプ構造からΣNの相互作用を引き出せることがわかったが、さらにこのことを応用してπΛの終状態相互作用における反K中間子核子のしきい値近傍のカスプ構造から、反K中間子核子相互作用のI=1成分を詳細に議論できることもわかった。今後、そのような実験も行われるので理論計算の重要性も増してくる。K中間子核子散乱の振幅に関して、アメリカの実験グループと共同研究が始まった。米国の Jeffarson Laboratory では中性K中間子であるKLをビームとして生成する実験を進めておりKLと陽子の散乱実験が可能になってくる。この実験ではS=+1を持つΘバリオンの存在可否を確定するだけでなく、低エネルギーのI=0KN散乱振幅の決定に強い制限を与えることになるので、核媒質中でのストレンジクォーク凝縮の見積もりにも応用ができる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、研究成果が出ている分については早急に研究論文として発表をしたいと思っている。特に、K-重陽子散乱におけるΛNのアイソスピンの破れの計算は論文原稿がほぼ完成していて、論文発表までの最終段階に来ている。また、この過程に付随したΛN終状態相互作用におけるΣNしきい値近傍のカスプ構造の研究では、計算はほぼ終了していてあとは論文執筆をする段階まで進んでいる。早急に論文として成果をまとめたいと思っている。η’中間子原子核の質量スペクトル計算ではη’核子相互作用に吸収の効果をとりれた計算が済んでおり論文としてまとめる段階に来ている。考えられる吸収効果はそんなに大きくないことがわかって来たので、得られた束縛状態の波動関数とエネルギースペクトルを用いてη’中間子原子核の測定散乱断面積の計算へと進めて、測定実験への知見を得たいと思っている。重陽子標的を用いたKN弾性散乱振幅の決定については、散乱断面積計算の定式化は済んでおり実験データと比較できる段階に来ている。終状態相互作用を計算に取り込むことで終状態相互作用の重要性を確認し、KN散乱振幅の決定に進みたい。インスタントン液体模型を用いた真空の有効エネルギーの計算では真空構造に対する知見が得られてきたので、これらとσ中間子の質量など観測可能量との関係を明らかにしたい。
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