研究課題/領域番号 |
21K03552
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
重森 正樹 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60608256)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | AdS/CFT対応 / TTbar変形 / ホログラフィー / TTbar deformation / holography / AdS/CFT / random geometry / string theory |
研究開始時の研究の概要 |
AdS/CFT 対応によると、或る種の共形場理論 (CFT) はAdS 空間と呼ばれる時空における重力理論と等価である。近年TTbar 変形と呼ばれるCFTの変形が興味深い性質を持つとして注目を集めている。本研究では、CFT側でのTTbar変形がそれに対応するAdS重力理論側でどう実現されるかをランダム幾何の方法を用いて解明する。そして、導かれたホログラフィーの辞書を用いてTTbar変形された理論における物理量を計算し、通常のCFTとTTbar変形された理論の違いを調べる。TTbar変形を足がかりにして、AdS/CFT対応がもっと一般な時空に適用できるものに変形・拡張され得るのかを探る。
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研究実績の概要 |
本研究では、TTbar変形をAdS/CFT対応の文脈で考察し、CFT側での変形が、ホログラフィック双対であるAdS重力理論側ではどのように実現されるかを明らかにする。特に興味のある研究テーマの1つとして、TTbar変形によりAdS時空における重力理論が非ユニタリになるメカニズムを明らかにするということがある。昨年度に引き続き、R4年度は、これと関係して、TTbar変形した理論における相関関数が非ユニタリになる原因を調べるため、TTbar変形した理論において、一般的な演算子を挿入したときにどのように物理量が振る舞うかを解析した。 昨年度は、TTbar変形された理論において演算子を挿入したときのストレステンソルの振る舞いを場の理論側で調べたが、今年度は、ホログラフィック双対であるAdS重力理論における場の振る舞いを調べた。挿入された演算子のもつストレステンソルによるバックリアクションのため、AdS時空は変形を受ける。Fefferman-Graham (FG)座標系においては、その変形により、演算子の挿入点を頂点とする円錐状の領域において時空が切り取られたように見えることを我々は明らかにした。ただし、時空の端には曲率がデルタ関数状に発散する特異点が存在する。これは、TTbar変形した理論がFG座標系において同径方向の座標をカットオフするというMcGoughらの主張と辻褄が合うように見える。そして、この結果は、TTbar変形が、通常のAdS/CFT対応を、一部が切り取られたAdS時空を用いることによって拡張するということに対応することを示唆する。したがって、一部が切り取られたAdS時空を用いてTTbar変形された理論の物理量を計算するホログラフィーの辞書の拡張が存在すると期待され、そのさらなる追求が望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R4年度は、TTbar変形した場の理論において一般的な演算子を挿入することに対応するAdS重力側の解析を行い、演算子のもつストレステンソルのバックリアクションによって時空が円錐状に切り取られるように見えることを明らかにした。ただし、時空の端には曲率がデルタ関数状に発散する特異点が存在する。これは新しく興味深い結果であり、TTbar変形されたホログラフィーの辞書を構築するための重要なヒントとなると期待される(おそらく、通常のホログラフィーを、一部が切り取られたAdS時空を用いるものに変更・拡張するものであると予想される)。いっぽうで、ストレステンソルの生成汎関数であるLiouville作用のTTbar変形を表す汎関数微分方程式の解析や、TTbar-Liouvile理論の解析は進んでいない。しかしながら、それとは異なる新しい方向性での進展が見られたので、全体としてはおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、一部が円錐状に切り取られたAdS時空を用いることにより、TTbar変形されたホログラフィーの辞書を導くということが第一に挙げられる。この円錐はその上で曲率が発散するような特異的な時空の境界を導入する。これは、いわゆるAdS/BCFT対応におけるend-of-the-worldブレーンや、あるいは笠-高柳公式をレプリカ法によって導出する際に現れる時空と類似しており、それとの類推から正しいホログラフィーの辞書を導きたい。その際に、Cardyによって導出された、TTbar変形された場の理論における相関関数の(いわゆる leading-log 近似における)振る舞いとの比較が有用となると期待される。さらにまた一方、非常に最近Aharonyらにより大きな運動量のもとで相関関数がCardyの結果とは違ってくるのではないかという指摘もされている。どちらの結果が正しいのか、我々のアプローチで明らかにしたい。
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