研究課題/領域番号 |
21K03558
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 獨協医科大学 (2023) 慶應義塾大学 (2021-2022) |
研究代表者 |
藤森 俊明 獨協医科大学, 医学部, 講師 (60773398)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | リサージェンス / 非摂動効果 / 経路積分 / リサージェンス理論 / 場の量子論 / リノーマロン |
研究開始時の研究の概要 |
物理学において、問題の答えが正確に求まるということは非常に稀で、通常は何らかの近似に頼ることになる。中でも「摂動論」は最も基本的な近似計算の一つで、取り入れる補正項の数を増やしていくことによってより精度が高い近似解が得られる仕組みになっている。しかし場合によっては、この「摂動論」にも限界があり、それによって捉えることのできない、いわゆる「非摂動効果」が存在する。そのため「摂動論」だけではある程度以上に近似の精度が高められないという問題が発生する。この問題に対する解決策として、本研究では摂動論と非摂動効果を結びつけることで正しい答えを探る「リサージェンス理論」の物理学への応用を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、量子論における非摂動効果をリサージェンス理論を通して解析し、その応用の可能性を広げることを目的としている。2023年度における研究では 「可積分な量子力学模型におけるリサージェンス構造」、「2次元ヤン=ミルズ理論におけるリサージェンス構造」および「旗多様体シグマ模型におけるインスタントン」について研究を行った。 「可積分な量子力学模型におけるリサージェンス構造」では、リサージェンス理論を用いた量子論の解析手法の確立を目指して、厳密計算可能で最も単純な量子力学模型において、「経路積分の複素化」などのアイデアの明示的な適用を行った。その結果、自由度の数と保存量の数が一致する可積分な模型において、リサージェンス理論の解析手続きの実行および経路積分の明示的な評価が可能であることが判明した。この研究成果によって、少なくとも量子力学系(1+0次元系)においては、経路積分であっても通常の積分と同様なリサージェンスの手続きを用いて評価することが可能であることが示された。今後の場の量子論への応用という観点からも有用となる結果を得た。 「2次元ヤン=ミルズ理論におけるリサージェンス構造」では、場の量子論におけるリサージェンス構造の解析手法の確立という観点から、厳密計算が可能である、2次元ヤン=ミルズ理論においてリサージェンス構造の解析を行った。厳密に解析可能な場の量子論の模型では、その特殊性のためリサージェンス構造が見えなくなっていることが多い。本研究では種数の解析接続を行うことでリサージェンス構造が明示的に現れることを示した。 「旗多様体シグマ模型におけるインスタントン」では、ターゲット空間が旗多様体である非線形シグマ模型において非摂動効果やリサージェンスに重要な役割を果たすインスタントンについてその自由度を記述するために必要となるモジュライ空間を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は概ね順調に進展している。本研究課題では、リサージェンス理論の応用可能性を探ることを目的としており、リサージェンス理論が量子論において実際に機能することを明示的に示す必要があった。「可積分な量子力学模型におけるリサージェンス構造」の研究では、リサージェンス理論を適用する一連の手順が実行可能であり、それが厳密な結果を与えることが示された。これはより一般の量子系へのリサージェンス理論の応用へ向けた大きな進展である。 また、「2次元ヤン=ミルズ理論におけるリサージェンス構造」では、特殊な例であるが、2次元理論におけるリサージェンス構造を明示的に解析することで、場の量子論におけるリサージェンス理論の適用可能性を探る上で重要な成果を示している。量子力学模型と比較して、場の量子論へのリサージェンス理論の応用には大きなギャップがあるため、2次元系における議論は今後の研究の発展に向けて有用となるであろう。 さらに、旗多様体非線形シグマ模型におけるインスタントンの研究では、非線形シグマ模型がリサージェンス理論の実験場とも言える環境であることを踏まえ、非摂動効果に需要な枠割を果たすインスタントンについて調べた。この過程でモジュライ空間の構造を明らかにし、今後の旗多様体非線形シグマ模型におけるリサージェンス構造の研究、及びそれを踏まえた強結合場の量子論における非摂動効果の研究への道筋を示している。これもまた、今後の研究にとって重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、これまでの成果を基に、「可積分な場の量子論におけるリサージェンス構造」、「旗多様体非線形シグマ模型におけるリサージェンス構造」、そして「フロケ系に対するリサージェンスの応用」の三つの研究テーマを中心に展開していく。 「可積分な場の量子論におけるリサージェンス構造」:近年、可積分な場の量子論におけるリサージェンス構造の研究は大きく進展しており、場の量子論でありながら、リサージェンス理論を適用することで非摂動効果の詳細な情報を引き出せることが明らかになっている。これまでの可積分な量子力学系でのリサージェンス理論の研究成果を応用し、特に複素化した経路積分における「複素特異点」から生じる非摂動効果の解明を目指す。 「旗多様体非線形シグマ模型におけるリサージェンス構造」: QCDなどの4次元の強結合ゲージ理論のトイモデルとしての2次元非線形シグマ模型のリサージェンス構造解明を目指す。この研究では、旗多様体シグマ模型におけるインスタントンのモジュライ空間に関するこれまでの研究が重要な基盤となる。特に、リノーマロン問題や分数インスタントンが引き起こす非摂動効果の解析が中心的な課題である。 「フロケ系に対するリサージェンスの応用」:時間周期的に駆動される量子力学系、いわゆるフロケ系へのリサージェンス理論の応用を探る。フロケ系における物理量の低周波展開がプランク定数による摂動展開と等価であるため、リサージェンス理論が有効であると考えられる。特に、完全WKB解析を活用して、フロケ系における有効ハミルトニアンの詳細な解析を進めることを目指す。
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