研究課題/領域番号 |
21K03563
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
佐藤 弘一 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 講師 (10610991)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 原子核構造 / 大振幅集団運動 / 理論核物理 / 対相関 / 時間依存平均場理論 |
研究開始時の研究の概要 |
原子核の大振幅集団運動の微視的理論の構築は、核物理の長年の課題である。従来の理論は、超流動性の取り扱いと慣性質量の評価について問題があった。申請者は最近、断熱的自己無撞着集団座標理論という理論に基づき、従来の理論が持つ問題点を完全に解決する新たな理論を提案した。この理論を発展させ、大次元の自由度の中から集団的自由度を抽出し、原子核の量子ゆらぎが大きい集団ダイナミクスを記述する新しいアプローチの完成を目指す。
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研究実績の概要 |
断熱展開の2次の集団演算子を入れた断熱的自己無撞着集団座標(ASCC)理論と、それと密接に関連する断熱的時間依存Hartree-Fock(ATDHF)理論についての理論的・数値的解析を行った。1970年代に提案されたATDHF理論が抱える問題の一つとして、基本方程式を集団ポテンシャルの極小点から解いた場合、数値的不安定性のため解が得られないことがある。ASCC理論は、ATDHF理論が持つ問題点を克服する方法として提案されたものの、断熱(運動量)展開の2次の項からの寄与を十分に取り込めない可能性があった。そのため、本研究では2次の集団演算子を入れた新しいASCC理論の開発に取り組んでいるが、この場合、集団座標演算子に対する常微分方程式を解く必要がある。これまでの研究でこの微分方程式をポテンシャル極小点から解いた場合、模型に依らず解の一意性が破れることを示し、それが数値的不安定性をもたらすことを示した。一方、従来のATDHF理論では、状態ベクトルに対する初期値問題を考える。本研究では、従来のATDHF理論の基本方程式に加え、断熱展開の0次の方程式をq微分した式を用いることで、ATDHF方程式を集団座標演算子に関する微分方程式に書き換えることが出来ることを示した。ATDHF理論でのこの方程式は、上述のASCC理論での微分方程式と数係数の違いを除いて全く同じ形をしており、定性的に同じ振る舞いをすること、特に、ASCC方程式とATDHF方程式で、数値的不安定性の原因が同じものであることが示された。ここまでの研究で、Taylor展開を利用することでポテンシャルの平衡点近傍でATHDF/ASCC方程式の解を一意に決定する方法を開発し、極小点近傍での集団経路を抽出することに成功した。この結果は、日本物理学会2024年春季大会で報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度までの段階で、ASCC方程式はポテンシャル平衡点で解の一意性が破れており、注目しているモード以外のモードの成分が混ざりこむ自由度が存在するということを一般的に示すことができた。これは、過去のATDHF計算がうまくいかなかった原因でもあることが分かった。本年度は平衡点近傍での解の一意性の破れに伴う数値的不安定性を回避するための処方の開発に取り込んだ。この解の一意性の破れは、通常の初期条件だけでは決まらない任意定数が平衡点近傍での解の中に現れることから示せる。この定数の任意性こそが数値的な不安定性を生じさせる原因だが、逆に言うと、この任意定数を決めれば、数値的不安定性を除くことができる。そこで、平衡点近傍での解の表式のうち、任意定数項以外の部分を決定するための処方を開発し、必要であれば後から任意定数項からの寄与を加えることで、数値的不安定性を伴わず解を一意に決定する方法を開発した。これにより、ポテンシャル極小点近傍での数値的不安定性の問題は解決し、極小点近傍では安定してATDHF/ASCC方程式を解くことが出来るようになった。 ところが、ポテンシャル極小点から方程式を解き進めてみると、さらに別の数値的不安定性が生じることが判明した。これまでに、この不安定性が生じる原因は、数値誤差のために注目しているモードとは別のモードの成分が初期値に混ざってしまうと、その成分が時間発展とともに指数関数的に増大してしまうためであることがわかっており、一部の状況ではこの問題を回避し、ポテンシャル極小点から鞍点まで集団経路を決定することに成功している。数値計算の進捗自体は当初の予想よりも遅れているが、長らく解明できていなかった過去のATDHF理論が抱える問題の原因の全容の解明に繋がる重要な発見があったという点で、研究全体の進捗としては「やや遅れている」程度と判断するのが妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
2次の集団演算子を入れたASCC理論をSU(3)模型に適用した場合に、数値的不安定のために解が得られないという状況が続いていたが、これまでの研究で、数値的不安定性の原因が次の2つであることをようやく突き止めた。1つ目は、ポテンシャル平衡点近傍で解の一意性が破れることで、これについては、解を一意に決定する処方を既に開発済みである。 2つ目は、通常点、つまり、ポテンシャルの非平衡点での数値的不安定性であり、こちらこそがより深刻な問題である。ATDHF/ASCC方程式では、集団経路上で定義された集団座標演算子に対する微分方程式を初期値問題として解く。初期値としては、通常、Hartree-Fock方程式を解いて得られるポテンシャル平衡点をスタート地点として選び、そこでRPA方程式を解いて得られた解を集団座標演算子の初期値として用いる。集団経路を決定するのに必要なのは最低エネルギーのモードの解であるが、この時、数値誤差により、他のエネルギーのモードの成分が混ざってしまうと、経路上を時間発展させるとともに、その余分な成分が増大していってしまう。これが通常点での数値的不安定性の原因である。これまでに、この問題を解決するためのアルゴリズムの候補を考案し、ある状況の下ではポテンシャルの最小点から鞍点、そして別のポテンシャル極小点に至る集団経路の抽出に成功している。しかしながら、このアルゴリズムはうまくいかない場合もあるので、より一般的な状況で通用するロバストな処方の開発に取り組みたい。その処方を用いて、2次の集団演算子を入れたASCC理論と従来のASCC理論、および、ATDHF理論との結果を比較し、(本来、単純な次数勘定では無視できないにも関わらず)従来の計算で無視されてきた2次の集団演算子がダイナミクスに与える影響を検証したい。
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