研究課題
基盤研究(C)
日本列島及び周辺のテクトニクス研究では,1700~1300万年前の本州弧,太平洋プレート,それに伊豆弧を含むフィリピン海プレートの位置関係が大きな争点の一つになっている。この問題は,関東対曲構造と呼ばれる地質構造の形成過程を解明することによって解決できると考えられる。本研究の目的は,地質と古地磁気の調査によって対曲構造東側の回転運動史を詳細に明らかにすることである。本研究では形成年代の異なる複数の岩体から古地磁気データを取得して地殻回転運動を解析する。本研究の成果はプレート位置関係の論争に重大な制約を与えるとともに,対曲構造が段階的に成長したという描像の検証にもなると期待される。
関東対曲構造の核心部である伊豆衝突帯及び関東山地を調査フィールドとして、17 Ma以降の関東対曲構造東翼側(糸魚川-静岡構造線の東側)の回転運動史を詳細に明らかにするために、本研究は関東対曲構造東翼側に分布する約15 Ma以降の火成岩類の古地磁気方位を決定することを計画している。本年度は山梨県の円井花崗岩体(円井岩体、約16~15 Ma)、甲斐駒花崗岩体(甲斐駒岩体、約13 Ma)、および東山梨火山深成複合岩体(約4 Ma)について地質と古地磁気の調査を実施した。円井岩体では複数の地点から逆極性で約90°の時計回り回転を示唆する残留磁化方位が得られた。また、岩体に隣接する母岩の玄武岩からも部分熱残留磁化として同様の逆極性方位が得られたことから、円井岩体の残留磁化は初生的な熱残留磁化と判断される。今回の調査により、円井岩体が大規模な構造回転運動を受けたことが初めて明らかになった。甲斐駒岩体では、チタン鉄鉱系花崗岩であることを踏まえて主に塩基性包有岩から試料を採取し詳細な段階消磁実験を行った。いくつかの試料から初生磁化の可能性であることを示唆する残留磁化が得られたものの、大部分(90%以上)の試料からは二次磁化と考えられる残留磁化しか得られなかった。東山梨火山深成複合岩体では、花崗岩体である小烏岩体とその母岩の一部をなす溶結火砕岩層の残留磁化を調査した。いずれも20~30°の時計回り回転を示唆する信頼度の高い残留磁化方位を示した。この結果は昨年度得られた甲府花崗岩類のデータ、および一昨年度得られた長野県南佐久地域の火成岩類のデータと調和的である。
3: やや遅れている
実施計画書に記載した山梨県の東山梨火山深成複合岩体の地質調査と古地磁気測定を予定通り実施できた。調査結果から、この地域の地殻が受けた回転運動を明らかにすることができた。昨年度の結果と合わせることで、関東山地全体が中期中新世以降に40~30°の時計回り回転運動を受け、その回転運動は4 Ma以降も継続していた可能性が高いことが判明した。糸魚川-静岡構造線近傍の回転運動を探る目的で、本年度は円井岩体と甲斐駒岩体の地質と古地磁気も調査した。円井岩体の回転運動が明らかになったのはおそらく初めてと思われる。しかし、研究計画書に記載した埼玉県の秩父石英閃緑岩の調査が未完了であるため、研究期間を一年間延長し令和6年度に実施することにした。成果の一部を日本地質学会学術大会で発表した。また、本課題に関連するテーマとして実施した本州中部の研究を論文として発表した。これらの達成度を総合すると、現時点ではやや遅れていると判断できる。
令和6年度は埼玉県の秩父石英閃緑岩の地質調査、年代測定、古地磁気測定などを進め、この岩体の古地磁気方位を高精度で明らかにしたいと考えている。はじめに地質調査を行い、岩相分布などを明らかにする。その後、測定用の岩石サンプリングを行う。岩石磁気実験も行い、古地磁気を記録する強磁性鉱物の種類や磁気的性質も明らかにする予定である。また、本年度はこれまでに得られたデータを総合し、17 Ma以降の関東対曲構造東翼側(糸魚川-静岡構造線の東側)の回転運動史の解明を目指す。研究成果の公表作業(学会発表と論文発表)も引き続き積極的に進める。
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