研究課題/領域番号 |
21K03809
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分18020:加工学および生産工学関連
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
神崎 昌郎 愛知工業大学, 工学部, 教授 (20366024)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 高温潤滑性 / 複合膜 / ホウ素 / スパッタリング / 切削加工 |
研究開始時の研究の概要 |
研究代表者は,TiB2+α-MoS2複合膜の超低摩擦特性の発現を可能としてきた.これはMoS2により低摩擦低摩耗が維持された状態で,ホウ素の酸化反応によるB2O3の生成溶融の効果が重畳したためと考えられる.ただし,600℃以上でホウ素が脱離消失し摩擦特性は悪化したため,現状では複合膜を温度上昇が顕著になる加工用の工具には適用できない.本研究では,①ホウ素を600℃以上で残存させる,②ホウ素の反応により低摩擦低摩耗を維持した状態で窒素を供給し,900℃まで潤滑性を有するh-BNを生成させる,③温度上昇が顕著な高効率加工に対応可能な複合膜コーテッド工具利用加工技術を開発する,これらを目的とする.
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研究実績の概要 |
本研究の目的は『工具表面にコーティングしたTiB2+α-MoS2複合膜と切削加工時に供給する窒素との反応により900℃まで潤滑性を有するh-BNを生成させ,それを用いて高効率加工技術を開発すること』である. 研究代表者は,耐熱性を有するホウ素含有セラミックスにMoS2を添加した複合膜の開発に取り組んできた.その中で,200℃・無潤滑下において摩擦係数0.01の超低摩擦特性を発現するTiB2-MoS2複合膜を開発した.これは添加したMoS2による低摩擦の効果に,ホウ素の酸化反応による摩擦最表面におけるB2O3(融点470℃)の生成溶融の効果が複合化したためと考えられる.ただし,600℃以上ではホウ素が脱離消失し摩擦係数は0.8程度まで上昇したため,現状ではTiB2-MoS2複合膜を600℃以上の高温状態になり得る切削加工用の工具には適用できない.そこで本研究では,①超低摩擦特性発現に必須のホウ素を600℃以上で残存させる,②ホウ素の反応により低摩擦低摩耗を維持した状態で窒素を供給し,摩擦(加工)時に発生するせん断力を利用して複合膜表面に900℃まで潤滑性を有するh-BNを生成させる,③温度上昇が顕著な切削加工の高効率化(切削速度上昇・切削油供給量削減)にも対応可能なTiB2+α-MoS2複合膜コーテッド工具利用加工技術を開発する,これらを目的とする. 2023年度はTiB2膜の摩擦試験時に窒素ガスを供給することにより,摩擦係数が低下することを見出した.これは上記研究目的の③に関わる結果である.また,ホウ素を過剰に添加したTiB2+α-MoS2複合膜においては,600℃における摩擦係数の上昇を0.4程度に抑えることが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年4月に研究代表者が東海大学から愛知工業大学に異動し,現在でも研究室学生の教育を通して研究体制の再構築を継続中である.そのため,本研究の根幹となるTiB2+α-MoS2複合膜の創製に用いるDCマグネトロンスパッタリング装置を学生が取り扱う際,不注意により装置の故障が頻発している.このことが研究を当初の予定通りに進めることができていない理由となっている.本研究の申請時には,東海大学高度物性評価施設にある共用装置(XPS,薄膜XRD,SEM,AFM,微小硬度計等)を活用することにより,本研究に関わるTiB2+α-MoS2複合膜の高性能化に必須の分析・観察・評価が可能と考えていたが,愛知工業大学には共用装置が少なく,研究の遅れに繋がっている状況にも変わりはない. ただし,600℃以上の高温で摩擦試験を実施できる装置は稼働させることが可能となり,徐々に研究室全体として本研究に取り組む体制になりつつある.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は2021年度から進めている研究体制の再構築を継続し,TiB2+α-MoS2複合膜の創製および高温潤滑性の向上,さらには窒素雰囲気中での低摩擦特性発現に取り組んでいく.特に,安全かつ安定な(化学的に不活性な)窒素雰囲気中において,摩擦最表面で600℃以上の高温下でも低摩擦特性を有するh-BNの生成を可能とすれば,学術的に意義があるだけではなく,本研究の目的である「温度上昇が顕著な切削加工の高効率化(切削速度上昇・切削油供給量削減)」の実現に繋がる.先に述べたように,現時点では摩擦係数の大きいTiB2膜の摩擦試験時に窒素ガスを供給することにより,摩擦係数が低下することは確認しているが,この要因がh-BNの生成によるものかは不明である.さらには,低摩擦特性を有するTiB2+α-MoS2複合膜に対しては,窒素ガス供給による低摩擦化の効果は明らかとなっていない.TiB2+α-MoS2複合膜の低摩擦特性を600℃近傍でも安定的に発現可能にした上で,h-BNの生成に繋がる窒素ガスの供給量および摩擦試験条件(試験荷重,摩擦速度)の把握を行っていく. TiB2+α-MoS2複合膜の高温潤滑性向上に関しては,高温でのホウ素残存に適切なホウ素含有量を探索していくとともに,低摩擦成分であるMoS2の含有量低減を目指していく.低MoS2含有量でTiB2+α-MoS2複合膜の低摩擦化が可能となれば,複合膜自体の硬度・耐熱性の向上に繋がり,切削工具への応用の可能性を高めることになる.そのためには,MoS2の結晶性向上(層状構造の発達)が必須であり,成膜温度の制御や成膜時のバイアス電圧(0~-300V)の印加による結晶性向上を検討していく.
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