研究課題/領域番号 |
21K03937
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分20010:機械力学およびメカトロニクス関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 卓見 九州大学, 工学研究院, 教授 (40274485)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 自動同調 / 共振 / 振動発電 / 受動型制御 / 非線形振動 |
研究開始時の研究の概要 |
車両や人間の通行,機械の運転などにより不可避的に発生する振動を利用した振動発電はメンテナンスフリーであることが大きな特徴であり,機械装置やインフラ設備のモニタリングなどスマートシステムの個別電源としての利用が多い.一方で,振動発電は加振の振動数が振動体の固有振動数に一致する共振状態では高効率の発電が実現できるものの,加振振動数が固有振動数から離れるにつれ急激に発電効率が低下する.本研究では,加振振動数の変化に対して非常に簡単な機構で振動特性を変化させ,制御装置などを組み込むことなく自動的に共振状態に同調する振動機構を提案・実現し,高効率の振動発電に有効な装置の基本原理を確立する.
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研究実績の概要 |
車両や人間の通行,機械の運転などにより不可避的に発生する振動を利用した振動発電はメンテナンスフリーであることが大きな特徴であり,機械装置やインフラ設備のモニタリングなどスマートシステムの個別電源としての利用が多い.一方で,振動発電は加振の振動数が振動体の固有振動数に一致する共振状態では高効率の発電が実現できるものの,加振振動数が固有振動数から離れるにつれ急激に発電効率が低下する.本研究では,加振振動数の変化に対して非常に簡単な機構で振動特性を変化させ,制御装置を組み込むことなく加振振動数に自動的に共振状態が追従する振動機構を提案・実現し,高効率の振動発電に有効な装置の基本技術を確立する. 本研究で提案している装置の主要要素は,曲げとねじりの連成振動が生じる板状振動体であり,この連成振動に起因して振動体が振動方向と垂直にも動き板状の長さが変化することで,加振振動数に追従するようにその固有振動数を変化させる特徴を持つ.ただし,この現象が生じる基本原理が不明であり,現象の再現も不安定であることが課題である. これまでの研究から,板状振動体の中間に存在するクリアランスに加え,根元支持部に存在するわずかなクリアランスが自動共振追従現象,特に共振に近い状態の保持に効いていることがわかってきた.令和4年度は,これらのクリアランスを考慮した数値解析モデルを構築し,これまでの数値シミュレーションでは不可能であった共振に近い状態の保持を再現できた.また,この機構の動作が根元支持部に存在するクリアランスに極めてセンシティブであることも数値シミュレーションから判明し,実験において安定した自動共振追従現象の再現が困難であったことの証左ともなった.この数値シミュレーションの成功は研究進展の画期となり,自動共振追従現象を解明して設計法を確立する上で大きなステップとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度(令和3年度)の年度末になって根元支持部のクリアランスの存在とその重要性が判明したため,令和4年度はこの要素を組み込んだ振動解析モデルを構築して数値シミュレーションを行った.解析モデルは鉛直方向の曲げねじり振動と水平方向の回転運動を伴う振動の連成であり,連成項は非線形関数となる.さらにクリアランスによる非線形性も加わるため難しい数値計算が要求される.一方で,鉛直方向振動の振幅は水平方向運動の大きさよりかなり大きいため,まず鉛直方向振動を計算し,これによって生じる非線形連成項を水平方向運動へ考慮することで簡便な数値計算を実現した. 数値計算の結果,これまでの数値シミュレーションでは不可能であった共振に近い状態の保持を再現できた.提案した装置は,運動学的には固有振動数が低下する方向に動こうとするが,振幅が大きくなると振動体の弾性力によって逆方向の力が作用し,大振幅,すなわち共振に近い状態で振動を保持することを見出した.また,提案する装置の動作が根元支持部に存在するクリアランスに極めてセンシティブであることも判明した.これは,以前の実験において自動共振追従現象の再現性が不安定であったことの証左であり,現状の装置のディメンションでは効果的な実験が難しいことがわかった.そこで,装置の寸法や構造の大幅な見直しを図り,根元クリアランスが高速度カメラの拡大画像で確認できる程度の大きさで自動共振追従現象を実現できる装置の構造,規模,寸法を新たに検討した.その際には数値シミュレーション積極的に活用し,様々な構造,形状,寸法でのモデルを採用して新しい装置の設計諸元の設定を進めた.現在制作している新しい装置は,以前の装置と比較してかなり安定的に自動共振追従現象を再現できており,今後の研究がスムーズに進むと期待している.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究結果から,提案する装置の動作が根元支持部に存在するクリアランスに極めてセンシティブであることが判明し,これまでの実験装置では自動共振追従現象の再現性が不安定であったことが数値解析上でも明らかになった.そこで,数値シミュレーション積極的に活用することで,様々な形状,寸法でのモデルを検討し,根元クリアランスの大きさに対して自動共振追従現象の再現が過度に敏感でない新しい装置の設計諸元の設定を進めた.令和5年度は以下の手順で研究を遂行する. (1)新しい装置を用いた実験を行い,根元クリアランスの影響を実験的に確認する.特に,根元,中間のクリアランスと振動体との接触タイミングの相対的関係が,自動共振追従現象,特に共振に近い状態の保持に大きく関わっていると見込んでいる.高速度カメラ等を用いた実験でその現象を確認・検証する.さらに,実験結果と数値シミュレーションとの比較検討を行い,共振に近い状態へ近づく理由および共振に近い状態を保持する理由が,シミュレーションと実験で整合しているか否かを確認する. (2)上記の結果をもとに自動共振追従現象に対する最適設計法を確立する.構築した振動解析モデルを検討し,数多くのパラメータスタディを行うことで共振追従現象の物理的本質を見極める.その上で,根元クリアランスを含め,自動共振追従現象に本質的な影響を与えるパラメータを抽出し,同現象を効果的に実現するための最適値を導くことで本装置の最適設計法を確立する.
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