研究課題/領域番号 |
21K04196
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
有吉 哲也 福岡工業大学, 情報工学部, 准教授 (60432738)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | X線センサー / シリコン / PN接合フォトダイオード / 深掘り加工 / フォトンカウンティング / X線 / センサー / 光子 / フォトダイオード / 半導体 / 光子計測 / フォトンカウンタ |
研究開始時の研究の概要 |
低被曝線量で被検体内の元素濃度マッピングやk吸収端イメージングが高速で実現可能な、新たなフォトンカウント方式のシリコンX線検出器を開発する。シリコンはごくありふれた半導体材料であるが、他で研究されているCdTe、TlBr材料よりも電荷輸送特性や価格や環境負荷や加工性の面で優位である。シリコン中に、トレンチ状のPN接合型フォトダイオードを形成し、X線検知効率を大幅に改善した上で、①従来のエネルギー積分方式よりも1/80の被曝線量、②数10Vの低印加バイアス電圧にてセンサ内を完全空乏化し、1000万カウント/秒、③高X線エネルギー側へのダイナミックレンジの拡大を実現していく。
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研究実績の概要 |
X線イメージングは人体や物体の内部構造を得る手段で幅広く利用されている。従来のエネルギー積分方式では透過X線のエネルギー情報はX線検出器にて積算されて失う。また、暗電流も積算されるので、この暗電流を凌駕するために過剰なX線照射量を必要とし、被験者の被曝線量が増加する。新たなX線イメージング法としてフォトンカウント方式が提案されている。この方式では透過X線光子を一つ一つ計測し、エネルギー情報も取得する。従って、X線イメージング像はそのエネルギー情報から元素マッピングが可能となる。また、波高値の閾値を超えたX線パルス信号のみを計測するので暗電流などの雑音を除去でき、高SN比でのX線イメージングが可能となる。また、照射X線量を抑えることができ、人体への被曝線量を少なくできる。 本研究では安価で良加工性で信号キャリアの輸送特性に優れたシリコンをフォトンカウント方式でのX線検出器材料として利用する。P型シリコン基板中にPN接合型フォトダイオードをトレンチ状に形成する。このような素子構造を採ることで数十ボルト程度の低バイアス電圧にて検出器を完全空乏化できる。また、センサー基板の側面方向からX線を照射することでX線を効率よく検出することができる。加えて、検出器全体が空乏化しているので、光電生成した信号キャリアを高速収集することができる。 以前、試作した提案シリコンX線センサーにアメリシウム241から放出される59.5keVの単色γ線を照射し、立ち上がり時間が12ns程度の検出信号パルスを得た。プロセスデバイスシミュレータ(TCAD)と回路シミュレータを用い、提案シリコンX線センサーの形成、ポテンシャル分布の計算、γ線の吸収による信号電荷の光電生成とその信号電荷の収集を模擬した。その結果、実測の検出信号パルスと合致することを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
厚さ550μm、比抵抗1500±500ΩcmのFZシリコンウエハ基板に、深さ300μm、幅15μm、長さ20cm、ピッチ幅166.6μmのトレンチ状PN接合型フォトダイオードをMEMS技術によって形成し、提案X線センサーとして動作させた。フォトダイオードとしての電流電圧特性を示し、-20Vの逆バイアス電圧のもと、暗電流は55nAを観測した。現状ではテスト用照射X線として、アメリシウム241線源から放出される、人体向けフォトンカウンティング用X線帯域に含まれる59.5keVのγ(X)線を利用した。 信号処理回路として、試作センサーがX線検出時に生成するパルス信号電流を帰還容量に収集してパルス信号電圧に変換するトランスインピーダンス回路を設計・試作した。用いたオペアンプはスルーレートが+1500V/μsと-1000V/μsで、利得帯域幅積が4GHzであった。帰還容量は0.025pF、帰還抵抗は1MΩとした。これらのトランスインピーダンス回路(オペアンプと帰還容量と帰還抵抗など)と試作X線センサーをプリント基板上に実装した。59.5keVのγ(X)線を試作センサーに照射し、12nsの信号立ち上がり時間、230nsの信号立下り時間、104mVの信号波高値のγ(X)線検出パルス電圧信号を観測した。 シリコンの一つのイオン対を作るときに費やされる平均エネルギー3.6eVを考慮したところ、信号波高値が予測通りの104mVであり、光電生成信号電荷を損失なく収集できたことを実証した。また、信号立ち上がり時間は信号電荷収集時間に比例する。試作センサーの形成、ポテンシャル分布の計算、二次効果を考慮した生成信号電荷の収集、パルス信号電流の生成を一貫して模擬できるTCADによるプロセスデバイスシミュレーション及び回路シミュレーションを行った。その結果、観測パルス電圧信号とほぼ合致した。
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今後の研究の推進方策 |
一般的にフォトンカウンティングで必要とされているX線光子計数率は100万カウント/(mm2・s)とされている。本研究ではこの必要とされているX線光子計数率を現状では辛うじて満たしている。しかし、より広いダイナミックレンジを得る、あるいは経時変化などを考慮すると、もっと高いX線光子計数率を達成する必要がある。そのためには現状のトレンチフォトダイオードのピッチ幅166μmをより狭くして、光電生成電荷の輸送距離の短縮化や空乏層内のポテンシャル分布の急傾斜化による高速信号電荷収集を実現し、より高速な信号処理の検討をTCADによるシミュレーションおよび実際にデバイスを試作して評価を行うことを今後の研究の推進方策とする。 これまでは単一画素での評価を行ってきた。今後は複数画素での評価実験を行う必要がある。一例として、画素の境界付近での光電生成電荷の隣接画素への漏出を防ぐために、トレンチフォトダイオード間に溝を掘るデバイス構造も検討する。信号電荷の隣接画素への漏出は画像にじみの主な原因となるので、このような画素間の溝の形成といった対策例の検討は必要である。 また、現状の試作トランスインピーダンスアンプは原因不明の雑音が信号に乗っており、SN比の改善が課題である。推測段階ではあるが、電源系の安定化や電磁遮蔽筐体やプリント基板上の実装形態などを見直さなければならない。あるいは高スルーレートや高利得帯域幅積を持ちつつ、低雑音なオペアンプを選定する必要がある。既にいくつかの候補とするオペアンプを選定しており、簡易的に評価回路を組み、模擬γ(X)線検出信号を発するパルサーを用いて事前評価を行って最適なオペアンプを選び出し、センサーなどとともにプリント基板へ実装して本評価を行う。
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