研究課題/領域番号 |
21K04407
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23030:建築計画および都市計画関連
|
研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
田中 正人 追手門学院大学, 地域創造学部, 教授 (40785911)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 孤独死 / コミュニティ / 社会的孤立 / 応急仮設住宅 / 災害公営住宅 / 東日本大震災 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,被災地に再建された生活空間のデザインが,被災者の孤立や「孤独死」問題を引き起こす重大な要因であることを実証する。第1に,県警捜査第一課からのデータ提供に基づき,「孤独死」の実態を把握する。第2に,従来の標準的な設計ではないデザインが採用された災害公営住宅を対象に,入居者と空間の関わりの実態を,質問紙やインタビューによって明らかにする。それらを通して,空間デザインがどこまで被災者の孤立を抑え,「孤独死」を食い止め得るのか,その可能性を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究は,東日本大震災の応急仮設住宅および災害公営住宅における「孤独死」の発生実態をふまえつつ,その防止に向けて展開された居住空間デザインの試みが果たし得た役割と意味を読み解くものである。3年にわたる研究期間のうち令和4年度は2年目に当たる。今年度の実績として以下の4点(5編)がある。 第1に,『都市住宅学会研究発表論文集』に投稿した「被災地の公的住宅セーフティネットにおける「孤独死」の実態と空間特性の影響――阪神・淡路大震災と東日本大震災の事例を通して」である。昨年度に公表した中間的な報告(日本建築学会梗概集)をふまえた査読付論文である。 第2に,『住宅会議』に寄稿した「災害公営住宅は被災者の孤立にどうアプローチすべきか?」,「災害復興における住宅政策の課題――「Build Back Better主義」をいかに乗り越えるか?」の2つの論考である。これらは過去に公表した論文をベースに,復興政策全体における住宅復興政策の位置づけを見直す必要性について述べたものである。 第3に,東日本大震災の被災地で開催されたシンポジウム「みやぎボイス2022」の記録として編纂された報告書である。「空間とコミュニティ形成」というテーマに関し,住宅セーフティネットにおける居住空間の果たすべき役割について孤独死問題を通して論じた。 第4に,『追手門学院大学地域創造学部紀要』に投稿した「自然災害と原発災害、それぞれの住宅政策の課題――災害復興過程における居住地選択機会はなぜ縮小するのか?」である。孤独死問題の根底には居住地選択機会の喪失があるという知見に基づき,新たな論点を導く試みとして自然災害と原発災害を対比的に考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,①「孤独死」に関するデータベースの構築,②同データベースに基づく「孤独死」の発生実態の分析,③現地目視調査による災害公営住宅の空間特性の把握,④入居者への質問紙調査による住棟内での人的接触機会の分析を経て,最終的に⑤居住空間デザインが果たす役割と意味を考察する。 ①については,データの入手および1次的なデータベースの構築が完了した。非公開の文書情報へのアクセスとなるため,また情報漏洩リスクを回避するためE-mailを使用しないなど,これまでと同様,きわめて慎重な手続きが求められた。岩手県警察本部捜査1課の多大な協力のもと,貴重なデータを確保し,それに基づき,②についても試験的な分析に着手している。 並行して,④についても,釜石市まちづくり課の協力を得て市中心部(東部地区および上中島地区)のすべての災害公営住宅での質問紙調査を完了した。前年度に終えていた5団地に新たに12団地を加え,169 票(回収率26.4%)の有効回答を得た。うち被災者以外の一般入居は13件あり,被災者のデータ数としては156件となった。このデータをもとに基礎集計作業を行い,前年度に引き続き,市まちづくり課,生活応援センター職員,ならびに市リージョナルコーディネーターの3者への結果報告と意見交換を実施した。意見交換では,各団地において入居者の接触が見受けられる具体的な共用空間の情報が得られたため,③の空間特性把握のポイントを改めて整理したい。今年度,目視でのプレ調査までは完了したが,次年度,対象団地すべての詳細な観察調査を実施する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は,本研究課題の最終年度となるため,成果のまとめと公表に向けた作業を進める。第1に,災害公営住宅入居者への質問紙調査の分析と考察である。釜石市中心部に供給された災害公営住宅における入居者の生活再建の実態について,今年度,共用空間の特性について詳細な観察調査を追加実施し,その結果を活用した分析を行う。生活再建過程における被災者の孤立は,人的な交流機会の減少ではなく,各々の「生活構造」が維持されないことに,より本質的な要因があることを指摘する。特に団地内の空間特性が,どのように従前の生活行動の再現に寄与しているのか/いないのかを明らかにしたい。まずは中間報告として,今年度の日本建築学会大会での口頭発表用論文を提出する。さらに学会での議論をもとに,精度を高め,査読付き論文として公表する。 第2に,仮設住宅および災害公営住宅における「孤独死」の分析である。すでに岩手県警察本部の検視報告書に基づくデータベース作成は完了しているため,仮設住宅,災害公営住宅,それぞれの孤独死の実態と背景について,論文を執筆する。さらに,過去に入手した宮城県警察本部のデータおよび阪神・淡路大震災のデータとの統合を図り,孤独死の発生動向の時間的・空間的差異の分析を行う。 第3に,調査結果全体を総括し,公的住宅セーフティネットの居住空間デザインが被災者の生活再建に果たす役割と意味を考察する。なお,この点については本研究課題終了後に継続して行うことになる。
|