研究課題/領域番号 |
21K04417
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23030:建築計画および都市計画関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
吉川 徹 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (90211656)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 期待利用者数 / 離散選択モデル / 地域施設 / 公共施設 / 最適施設配置 / アクセシビリティ / ロジットモデル / 多摩ニュータウン / 利用距離 / 消費者余剰 / 利用確率 |
研究開始時の研究の概要 |
我が国では,既存建築ストックを活かした,少子高齢化やライフスタイルの多様化に対応する地域施設のあり方が求められている.本研究課題は,この観点から地域施設再編成計画に使えるツールとして,施設建築ストックの価値を,希望者だけが利用し,利用確率が利用距離の増加に従って減衰する需要を前提として,配置の効率性と公平性のバランスに配慮して,定量的に評価する手法の開発を目指す.このため,利用距離,消費者余剰,利用確率の3種の指標を対象として,効率性と公平性のバランスの観点から社会的意義を理論的に検討し,最適施設配置にもとづく地域施設再編成計画を市街地で立案して,それを比較評価して適切な指標を検討する.
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研究実績の概要 |
我が国では,戦後に大量に建設された地域施設の既存建築ストック(以下,施設建築ストックと呼ぶ)を活かした,少子高齢化やライフスタイルの多様化に対応する地域施設のあり方が求められている.本申請課題は,この観点から地域施設再編成計画に使えるツールとして,施設建築ストックの価値を,希望者だけが利用し(以下,希望者利用型と呼ぶ),利用確率が利用距離の増加に従って減衰(以下,距離減衰と呼ぶ)する需要を前提として,配置の効率性(社会の総効用が大きいこと)と公平性(効用の利用者間格差が小さいこと)のバランスに配慮して,定量的に評価する手法の開発を目指す.このため,利用距離,消費者余剰(経済学で用いる効用の指標),利用確率の3種の指標を対象として,(1) 効率性と公平性のバランスの観点から社会的意義(指標の最適化がもたらす利益は何であり,それを誰が享受するのか)を理論的に検討し,(2) 最適施設配置にもとづく地域施設再編成計画を市街地で立案して,(3) それを比較評価して適切な指標を検討する. 本年度は,この目的に向け,下記の研究を行った.第一に,上記の3指標の社会的意義に関する課題を解決すべく,理論的に検討した.申請者は既に,公平性を分析するために,ジニ係数を既往研究がある利用距離以外にも試行的に適用した.しかしジニ係数は集計値なので,上述の課題である地区間の公平性は分析できないという問題がある.そこで本年度は,消費者余剰,期待利用者数について,利用距離が大きくなるのに従った指標値の減少の激しさを比較することによって,両指標の特性を原理的に明らかにした.まず,定義式からの理論的検討によって,消費者余剰が常に利用確率よりも相対的に大きい値になることを示した.合わせて数値シミュレーションによって,距離減衰のパラメータの違いが両指標の比較結果にもたらす影響を観察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際の対象地域への適用については,これまでに構築した,簡易に計算が可能なシステムを改良して,多くの撤去シナリオに簡単に対応できるように整えた.合わせて上記の通り,定義式からの理論的検討のフレームワークを構築し,公平性を含めた両指標の挙動を原理的により的確に把握できるようになった.これによって,次の成果が得られている. 消費者余剰を分子,期待利用者数を分母とする比率を求めると,これは距離が増加するにつれて単調減少して極限値は1であるから,消費者余剰は利用確率より大きく,距離が大きくなると両者の値が近くなる.これを踏まえて,数値計算により,距離減衰のパラメーターを変化させながら利用確率と消費者余剰の距離による挙動の違いを観察した.その結果,下記のことが判明した.パラメータが同じ場合には,消費者余剰は利用確率より大きい.また無差別距離(利用するかしないかが等しい確率になる距離)が増加するに従って急速に違いは小さくなる.無差別距離より利用距離が小さい場合には,両指標には大きな違いがあるが,無差別距離より利用距離が大きい場合には違いが小さくなる.従って,消費者余剰を最大化する最適配置は利用確率より施設に近い利用者を重視することになる.ただし,二次元空間では一定の距離の利用者数がその距離に比例して増加することによる最適配置への影響も考えられる.そこで,指標と距離を掛け合わせて数値計算によって挙動を観察したところ,類似の結果が得られた.以上をまとめると,消費者余剰は,最適配置の指標としては,利用確率より施設に近い利用者を重視する指標となる.これは,これまでの公平性に関する即地的分析の結果を説明する有力な理論的な根拠となることが期待される. この成果については,2022年9月に日本建築学会大会学術講演会にて発表し,質疑応答で有益な討論を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
(1)3指標による最適施設配置にもとづく地域施設再編成計画を市街地で立案 多摩ニュータウンの最初期開発地である東京都多摩市諏訪・永山地区を対象市街地とする.ここは,本研究課題の先行研究となる研究代表者等による研究によって小学校・中学校の統廃合の実態を長期的に把握してある地域である.さらに,3指標による効率性を追求した最適施設配置を具体的に求めて比較した実績がある.また,この対象市街地については,小学校の校舎を使用したコミュニティ施設の最適施設配置を算出するための計算システムを開発してある.そこでこれを発展させ,まず上記の理論的検討,数値計算の結果を踏まえて,3指標をどのように加工して最適施設配置の目的関数を構成すれば,効率性と公平性のバランスに配慮できるかをさらに検討する.続いて,これを用いた最適施設配置による地域施設再編成計画を立案する.このため,地方公共団体の統計書・地図収集と統計データ導入を行う. (2)得られた地域施設再編成計画を比較評価して適切な指標と評価手法を検討 上記(1)で得られた地域施設再編成計画を,これまで得られた3指標の社会的意義に関する知見を適用して,比較評価する.この際には,例えば順次建築物を撤去してゆく際にどのように評価すべきかなどの観点が含まれる.この観点の整理については,ゲーム理論を適用したモデルの援用についてシステム開発を開始したので,それを発展させる.これによって,3指標による地域施設再編成計画ごとに,それぞれの施設建築ストックの持つ価値が明らかになる.これを精査することで,適切な指標を選び,それを用いた施設建築ストック評価手法をまとめる. (3)成果のとりまとめと公表 成果をとりまとめ,学会発表およびウェブサイトなどを経由した社会への公表を行う.学会発表については,国際会議での発表が受理されたので,その機会を生かして有益な討論を行う.
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