研究課題/領域番号 |
21K04622
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26010:金属材料物性関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
中西 良樹 岩手大学, 理工学部, 教授 (70322964)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 超音波計測 / 近似結晶 / 結晶場 / 磁気弾性効果 / 温度磁場相図 / 逐次磁気相転移 / 構造相転移 / 複数相転移 / 磁場角度分解 / Yb化合物 / 準結晶 |
研究開始時の研究の概要 |
強相関電子系における多電子集団励起は電子同士の電子相関に加え、周期的に空間原子配列した格子系と電子間との相互作用:電子-格子相互作用も極めて重要な役割を担う。特に一電子的な描像で理解できる多電子系の量子現象は、並進対称性を有した原子配列の下でコヒーレント成分が増強された。しかしながら近年、並進対称性が消失し、回転対称性のみ有した準結晶系で多電子系のコヒーレント成分に起因する各種量子現象が報告された。本研究では原子配列と極めて関係が深い物質の弾性特性に注目し、格子歪みの線形応答である歪み感授率を超音波計測により測定する。並進対称性と回転対称性が及ぼす多電子系への影響の相違を微視的に明らかにする。
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研究実績の概要 |
本申請では, 希土類を含む準結晶・近似結晶, 関連物質に着目し, 超音波計測による物質の弾性率, 超音吸収係数測定を通して系のエネルギー散逸過程を評価し, 希土類を含む準結晶およびその類似クラスター構造をもつ近似結晶の電子状態, 低エネルギー励起状態に関する微視的物理量の決定を主目的とする。特にこれまで申請者の研究実績が豊富なYb系を主とし, 通常結晶と同様な振る舞いを示す量子臨界的挙動との比較から, 回転対称性のみ残存する系で電気四重極モーメントを主とする多重極モーメントがどの様な状態で残留するか?という基本的かつ本質的な点に主眼を置き,準結晶・近似結晶に特徴的な新規量子現象の発現機構解明に迫った。本年度は主に一般式RCd6(R:希土類)で記述される近似結晶について重点的に超音波計測を実施した。特にR=Gd、Tbについて、広い温度、磁場領域で弾性率、超音波吸収率を測定し、以下の結果を得た。 =GdCd6=超音波計測により広い温度・磁場領域において弾性率を測定した。構造相転移に伴う顕著な弾性軟化前駆現象、ならびに低温領域における磁気逐次転移に伴う弾性異常とその磁場依存性を明らかにした。これらの結果を基にGdCd6の温度磁場相図を決定した。 =TbCd6=超音波計測により広い温度・磁場領域において弾性率を測定した。構造相転移に伴う顕著な弾性軟化前駆現象、ならびに低温領域における磁気逐次転移に伴う弾性異常とその磁場依存性を明らかにした。これらの結果を基にTbCd6の温度磁場相図を決定した。更には、構造相転移温度以下で僅かな弾性軟化を逐次転移温度以上で観測し、Tbイオンの結晶場基底状態に起因したものである可能性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近似結晶RCd6(R:希土類)の温度磁場相図を超音波計測による弾性率に出現する弾性異常の結果を基に、広い温度・磁場領域で決定したところ予想以上に磁気相図が複雑であることが判明した。詳細に解析したところ本系のRイオンが局所的に形成しているTsai型クラスター内でのRイオンの磁気モーメントの相関が磁性に極めて重要な役割を果たしていることが明らかになった。Rイオン12個で構成しているクラスター内で、低温領域においてRイオン間の相互作用が発達し、Rイオン二量体あるいは三量体を形成している可能性を指摘した。興味深い点は、磁気モーメントに最も敏感な帯磁率に比べより明瞭な弾性率に異常が出現し、複数の磁気モーメントが複合的に磁気クラスターを形成している可能性が考えられる。今後、この点を更に深掘りし、明らかにすることが望まれる。 複雑な温度磁場相図に関する微視的な情報・知見を得るため、ドレスデン強磁場施設のパルスマグネットを用いて50Tまでの磁場領域における強磁場下での超音波計測を実施し、縦波弾性率の磁場変化を測定した。本テーマは当初の計画にはない項目である。その結果、構造相転移温度とも相関関係があるように見える新しい磁場誘起相を発見した。今後は他の基本結晶軸に磁場を印加して温度磁場相図を作成し、磁気異方性を検討することと、横波弾性定数についても同様の測定を行い、縦軸弾性定数の比較を行うことで本系の温度磁場相図のそれぞれの相について明らかにする研究を推進する。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、当初予定していなかった新たな実験テーマが本系で複数見出された。その課題と今後の推進方策(解決策)を以下に列挙する。 =GdCd6=(1)温度磁場相図の個々の相について、微視的に明らかにする。また磁場方向による温度磁場相図の相違を比較し、その起源を明らかにする。(2)温度磁場相図の高磁場領域について、引き続きドレスデン強磁場施設を利用して強磁場超音波計測を実施する。特に本系の構造相転移と低温磁気逐次転移の相関について明らかにする。(3)本研究は超音波計測のみ実験手法として推進してきたが、磁化測定、帯磁率測定、比熱測定も新たな実験手法として取り込み、温度磁場相図の多角的な解明を目指していく。 =TdCd6=(1)温度磁場相図の個々の相について、微視的に明らかにする。また磁場方向による温度磁場相図の相違を比較し、その起源を明らかにする。(2)GdCd6同様、TbCd6についてもドレスデン強磁場施設を利用して強磁場超音波計測を実施する。特に本系の構造相転移と低温磁気逐次転移の相関について明らかにする。(3)本研究も超音波計測のみ実験手法として推進してきたが、磁化測定、帯磁率測定、比熱測定も新たな実験手法として取り込み、温度磁場相図の多角的な解明を目指していく。(4)本系はGdCd6と異なり、有限の軌道角運動量をもつため、Tbイオンの四重極モーメントが低温物性更には構造相転移に重要な役割を担っている可能性がある。この点を本系の結晶場基底状態決定も含めて、関連付けて解明に迫る。
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