研究課題/領域番号 |
21K04670
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26030:複合材料および界面関連
|
研究機関 | 福井工業高等専門学校 |
研究代表者 |
古谷 昌大 福井工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (30737028)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
|
キーワード | 接着 / 擬態分子構造 / 2-ヒドロキシピリジル基 / メタクリラート / 異種材 / ラジカルUV硬化反応 / 熱解体 / 再接着 / アクリラート / 再結晶 / 有機溶媒フリー / 極性 / 2位置換ピリジン類 / 万能型 / 解体性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,2位にメルカプト基等の置換基を有するピリジン類を基本骨格とする「擬態分子構造」の接着界面・接着層中への導入を提案する.接着強度の測定と分子レベルの解析を関連付けながら研究を進め,新たな接着原理の構築を目指す.本研究の構成は,大まかには,①2位置換ピリジン類を基本骨格とする「擬態分子構造」モノマーの合成,②同モノマーを用いた接着シートの作製,③接着試験の実施と接着層中・接着界面における「擬態分子構造」の分子状態調査となる. 本研究は,近年需要が高まっている複合材料工業製品や,持続可能社会・物質循環を志向した工業製品の中で使用するための,万能型解体性接着材料への展開を見据えている.
|
研究実績の概要 |
本研究課題の2年目である令和4年度においては,接着材料の主要構成要素であるモノマーの改良を検討した.周囲の環境に応じて化学構造を変化させ相互作用を最大化させる「擬態分子構造」としては,2-ヒドロキシピリジル基を選択した.この構造を分子内に有するメタクリラートモノマーを合成したところ,中程度の収率で得ることに成功した.重合性官能基として,アクリロイル基よりも反応性がやや小さいメタクリロイル基を採用したことで,精製中の副反応を抑えられたと考えている.興味深いことに,同モノマーは無色透明液体であることがわかり,これは今後「擬態分子構造」を高密度に含んだ光接着材料を開発するにあたって有利な性状である.光ラジカル開始剤とともに作製した光接着材料を用いて,ガラスとガラス,あるいはガラスと異種材(銅,ステンレス,アルミニウム,ポリプロピレン)を,ラジカルUV硬化反応により接着させた.使用波長は365 nm,照度は2.9 mW/cm2,露光エネルギーは1 J/cm2として光接着を行ったところ,最大で約6 MPaの剪断応力を達成できた.ガラス-ガラス光接着試料において,約110℃に加熱することで熱解体することを確認した.さらに,解体後の基板どうしを圧着させ70℃で加熱し室温に戻すことで,再接着することも確認した.以上のように,光接着材料中で用いることができる新たな「擬態分子構造」を見出すことに成功した. 一方,ガラス-異種材光接着試料においては,主にガラス基板側に接着層が残るかたちで破断が起こった.異種接着材料としては好ましくない結果ではあるが,本研究課題項目の一つである「接着シートの作製」に向けた予備的実験と位置付けられた.また,接着層をまとまった形で自立膜として回収することができるため,接着層の熱物性や分子状態測定につなげられる成果として前向きに捉えている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の第1段階であるモノマー合成では,「擬態分子構造」として2-ヒドロキシピリジル基を選択し,重合性官能基を工夫することで新たなモノマーを得ることができた.今年度の結果より,2位置換ピリジンの2位の官能基としては,メルカプト基(酸化体)とヒドロキシ基の2種類を実現できたことになる.幸運なことに同モノマーは無色透明液体であり,「擬態分子構造」を高密度に含んだ接着層の実現に大きく前進した. 本研究課題の第2段階である接着シートの作製についても,予備的ではあるが成功した.当初測定を予定していた赤外吸光分光(IR)や紫外可視吸光分光(UV-Vis),X線光電子分光(XPS)のほか,示差走査熱量(DSC)測定にも使用可能と考えられる. 本研究課題の第3段階である接着・解体試験および分子状態調査では,今年度新たに得られた接着モノマーを用いて,異種材の光接着を実現できた.また,その熱解体や再接着についても明確に確認することができた.分子状態調査においては,接着モノマーの希薄溶液のUV-Visスペクトルを測定することで予備的な知見が得られた.バルク中の分子状態については加熱試料の放冷時のFT-IRスペクトル測定を試みたが,現状の設備では正確な測定ができないことがわかった.高額な装置を次年度以降に準備することは予算的に厳しいため,測定方法を工夫するしかないと考えている. 以上のように,今年度はどの項目においても一定の成果が得られ,研究は前進したと考える.総合的に見ても良好な進捗状況であると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は3つの項目から構成される.3年目は研究期間の真ん中であり,すべての項目について万遍なく取り組む時期と位置づけている.第1の項目である『含「擬態分子構造」モノマーの合成』では,さらなる化学構造の探索を行っていく.ピリジン環の2位の官能基の種類のみならず,官能基の位置の影響についても検討していきたいと考えている.また,メルカプト基については,酸化体を還元した状態で接着モノマーを得る方法について検討する予定である. 第2の項目である『接着シートの作製』では,今年度得られた2-ヒドロキシピリジル基を含む接着層を切り出し,IR,UV-Vis,XPS,DSCなどの各種測定を行い分子状態の調査を行っていく.他の接着モノマーについても合成でき次第,接着シートの作製を試みる予定である.接着シートの脆性が認められた場合は,市販のメタクリラートを混合し組成を変えることで解消を試みる. 第3の項目である『接着・解体試験と分子状態調査』では,熱解体および再接着試験を丁寧に繰返し行い,データの信頼性を高めていく予定である.また,解体温度や再接着強度に対して,「擬態分子構造」の化学構造や接着層中における密度がどのように影響してくるかということについて,系統的に調査することを考えている.走査型電子顕微鏡(SEM)による破断面表面の観察や,XPS測定による化学状態分析などを随時実施して,接着原理についての考察を深めていく.
|