研究課題/領域番号 |
21K04680
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26030:複合材料および界面関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
遠山 岳史 日本大学, 理工学部, 教授 (40318366)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 噴霧乾燥 / スプレードライヤー / 酸化亜鉛 / シリカ / 球状中空粒子 / マイクロカプセル / 組成傾斜 / 形態制御 / 噴霧乾燥法 / 中空粒子 / テトラエトキシシラン |
研究開始時の研究の概要 |
酸化亜鉛(ZnO)は紫外線吸収能を持つことから,プラスチックのフィラーや化粧品添加剤などとして広く用いられている。ZnO粉体の機能性向上のためには粒子の「形状,大きさ,分布」を制御する「形態制御」が重要であるが,従来のZnO合成は乾式合成が主であり,形態制御が困難である。 本研究は湿式合成によるZnO粒子の形態制御を目的としており,二酸化炭素を用いてZnO粒子を可溶化させ,さらに噴霧乾燥法により粒径1~5μm程度の球状マイクロカプセルを作製するものである。さらに,ワンプロセスでZnO球状中空粒子内部にシリカ層を形成させ,機械的強度に優れたZnO/SiO2系組成傾斜型粒子の作製を目指している。
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研究実績の概要 |
ZnO粒子の用途の拡大のためには粒子の形態制御が有効であるが,ZnOの溶解度は低いため困難である.そこで,本研究ではZnO懸濁液にCO2を吹込むだけの簡便なプロセスでZnOを溶解させ,その溶液を噴霧乾燥することにより球状かつ内部に空洞を持った球状中空粒子の作製を目的としている.しかし,球状中空粒子は機械的強度に劣り容易に崩壊する.そこで,Znを含む水溶液にシリカ分(SiO2)を添加した水溶液を噴霧乾燥することにより,外殻にZnO層,内部に保持層としてSiO2層を組成傾斜させたZnO/SiO2系球状中空粒子の作製条件について検討を行った. 前年度まではSiO2源として水溶性のケイ酸カリウムを用いてZnO/SiO2系組成傾斜型球状中空粒子の作製について検討を行ったが,組成傾斜を確認することはできなかった.そこで,SiO2源としてテトラエトキシシラン(TEOS)を用いて検討を行った. TEOS水溶液にCO2ガスを吹込みTEOSを加水分解させた.さらに,CO2を吹込みながらZnOを添加することでZnO/SiO2前駆水溶液を得た.この混合水溶液を噴霧乾燥温度100℃で噴霧することで炭酸水素亜鉛/SiO2前駆粒子を得た.その後,この粒子を400℃で1時間加熱処理を行うことで粒径2~3μm程度のZnO/SiO2球状中空粒子を得た.得られた粒子をエポキシ樹脂で包含後,ミクロトームにて試料を切断し100nmの薄片を得た.この薄片に対しEDXライン分析を行ったところ,粒子表面はZn,粒子内部にはSiが組成傾斜した球状中空粒子であることが確かめられた.また,粒子1粒の圧縮強さはTEOS添加量の増加に伴い増大し最大20MPaを示した.紫外線吸収能について検討を行ったところ,一定濃度のTEOS添加量まではZnO粒子と同じ390nmの波長を吸収したが,高濃度では紫外線吸収能は著しく低下した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまでの研究成果として,1)CO2吹き込み法による高濃度Zn2+水溶液の調製法の確立,2)TEOS水溶液の酸加水分解反応にCO2を用いる新規手法の開発,を行った.これら手法は亜鉛系化合物及びケイ酸塩化合物の液相合成に対して,新たな手法となりうる可能性を有している.とくに,TEOSの酸加水分解はHClなどを用いて行うのが定石であるが,反応後の中和,洗浄を必要とするのが問題である.しかしながら,CO2吹き込みによる加水分解反応では反応後に不純物は残存しておらず,水溶液を加熱し液中のCO2を系外に放出させることで中和反応が不要であることが大きな特徴である. 一方,これら方法により作製した混合水溶液を噴霧乾燥することにより,3)噴霧乾燥法によるZnOおよびZnO/SiO2系球状中空粒子の作製法を明らかにしている.さらに,EDX分析の際にミクロトームにて100nmの薄片を作製することで,一般的なEDX分析装置にて200~300nm程度の薄い中空壁の組成傾斜を観察することに成功している. さらに,4)得られたZnO/SiO2系組成傾斜型球状中空粒子の強度試験,5)紫外線(UV)吸収特性,6)化粧品粉体としての塗布特性,についても明らかにしており,おおよそ当初の研究計画通りの研究成果が得られたと言える. しかしながら,本研究の革新的テーマである「組成傾斜」の観察法を見出し成功したのが年度末近くであり,学会発表および論文化がなされておらず,研究成果の国際学会での発表は次年度(令和6年度)8月までずれ込んでしまった.このため,以上を総合的に判断して,現在までの進捗状況の評価は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究成果として,紫外線吸収能を有するZnO/SiO2系組成傾斜型球状中空粒子の作製条件,得られた粒子の物性,粒子の微構造観察について目的通りの研究成果を得ており,本研究の大筋は終了したともいえる.しかしながら,研究が完了したのは令和5年度末であり,学会発表および論文作成は未だなされていない状況である.このため,令和6年度は8月にハンガリーで開催される14th International Conference on Ceramic Materials and Components for Energy and Environmental Systemsにて研究成果を発表し,論文として投稿する計画である. また,中空粒子の組成傾斜観察はきわめて困難であり,論文化のためにはさらにクリアで明確な画像を得ることが重要であると考えている.このため,継続して組成傾斜観察を行うとともに,粒子表面を薄い酸で溶解させ,順次ICPにて化学分析を行う手法により,別の視点からの組成傾斜の証明を行うこととしたい. 当初の計画通りに研究が進まなかった際の対応策として,周期表にてSiの一つ下に存在するGeを用い,さらにZnの代替として最外殻電子(4s2)が同じCaを用いたCaCO3/GeO2系組成傾斜型球状中空粒子の作製法について並行して検討を行った結果,GeO球状中空粒子の作製法の確立,および新規ゲルマン酸カルシウムの合成法を明らかにし,学会にて報告することができた.次年度は引き続きこれら材料の合成条件の検討を行うとともに,論文作成を行う計画である.
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