研究課題/領域番号 |
21K04720
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26050:材料加工および組織制御関連
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
野瀬 正照 富山大学, 工学部, 工学部シニアアドバイザー (70269570)
|
研究分担者 |
松田 健二 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 教授 (00209553)
畠山 賢彦 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 准教授 (30375109)
青井 芳史 龍谷大学, 先端理工学部, 教授 (70298735)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
|
キーワード | ナノコンポジット膜 / 窒化物膜 / PVD法 / 機械的性質 / 高温酸化 / 微細組織 / ナノ複相構造膜 / 拡散 |
研究開始時の研究の概要 |
高温の金属と接する硬質保護膜が金属元素と反応しない安定な結合状態を有する、炭窒化ケイ素 (SiCN)非晶質相と微結晶の遷移金属窒化物相からなるナノ複相構造膜の創製を目指す。そして、最終的には刃先温度1000℃の高温切削にも耐える硬質保護膜として、超耐熱性・超耐酸化性ナノ複相構造膜を開発する。 それらを実現するために、非晶質相の結合状態および複合膜の微細組織と、高温における金属基板との反応性との関係を調べることにより, ナノ複相構造膜の高温劣化機構を解明する。ついで、非晶質相の結合状態と遷移金属窒化物相の分散状態(微細組織)を制御することにより、高温でも化学的に安定な複合組織を得る。
|
研究実績の概要 |
本研究の成膜に、対抗ターゲット式スパッタ法およびPLD装置を用いた。 まず、Si基板上に、窒素雰囲気下でSi-C-N間の様々な結合状態を有するSiCN膜を作製した。その結果、窒素濃度が比較的低い約20at%N程度のSiCN膜において、成膜状態での機械的性質が基板温度(Ts)の上昇とともに向上した。特に、基板温度700℃以上で、HIT ≧ 30GPa、HIT/E*≧ 0.13を達成し、SiCN単相膜で高硬度高靱性の膜を得ることができた。(HIT:インデンテーション硬さ、E*:実効ヤング率) このSiCN膜の耐酸化性を調べたところ、Si基板上に成膜した膜では、800℃×1hの大気中加熱でもHITはほとんど変化が見られなかった。他方、高速度鋼基板上に成膜したSiCN膜(Ts=400℃)では、Si基板を用いた時とは異なり、800℃ ×1hの真空中加熱により著しく機械的特性が低下した。これは、SiCN膜が基板のFeとの反応により分解してFeSi化合物が形成されたためであり、高速度鋼基板上での化学的安定性には劣ることをTEM観察などにより解明した。窒素濃度が約50%のSiCN膜と上記窒素濃度約20%のSiCN膜とを比較すると、窒素濃度が高いほど鉄鋼基板との反応性が低く化学的安定性に優ることも分かった。他方で、窒素濃度が高いほど、機械的性質、とくにHITが低下する傾向を示した。つまり、化学的安定性と機械的性質は二律背反であることが分かった。 しかし、窒素濃度が約50%でもCrN/SiCN複合膜の場合は、Feとの反応が著しく、結晶粒の粗大化が見られた。その反応機構を詳細に調べた結果、「Feとの反応によりSiCN相が分解されると同時にSiCN膜中のCがCrNと反応してクロム炭化物を形成し、SiCN相の分解が促進される。」という反応メカニズムを電子顕微鏡観察およびXPS分析等により解明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では、「初年度において成膜装置にはPLD(パルスレーザー堆積)装置およびECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタ装置を主として用い、比較のため対向ターゲット式スパッタ装置を適宜用いる。これらの装置を用いて広範な組成のSiCN/CrNナノ複相構造膜を各種金属基板上に非晶質SiCN膜を作製し、結合状態や微細組織を調べる。ついで,それらの熱処理を行うとともに組織観察及び結合状態分析等を行う。これらを総合してナノ複相構造膜の高温劣化メカニズムを解明する。」ことを計画していた。 実績では、装置の故障などによりECRスパッタ装置を使用した実験は実施できなかったが、他の2つの装置を用いて「広範な組成のSiCN/CrNナノ複相構造膜を各種金属基板上に非晶質SiCN膜を作製し、結合状態や微細組織を調べる。」ことは達成し、窒素濃度が高いほど鉄鋼基板との反応性が低く化学的安定性に優ることが分かった。 加えて、窒素濃度が高い場合でもCrN/SiCN複合膜の場合には、膜とFeとの反応が激しく、膜の結晶粒の著しい粗大化が見られた。その原因は、SiCN相がFeにより分解されると同時にSiCN膜中のCがCrNと反応してクロム炭化物を形成することにより、SiCN相の分解がより一層促進されるためであることが電子顕微鏡観察およびXPS分析などから明らかになった。以上のことから、「計画以上に進展」に近い「概ね順調に進展」と言えると自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、耐酸化性に優れるだけでなく、より化学的に安定なSiCN単相膜の条件と、化学的安定性を達成できるSiCN/MNナノコンポジット膜の基本組成の選定を目指す。 800℃において鉄鋼基板との反応性が低くSiCN相を分解しない化学的安定性および耐酸化性と、成膜状態での優れた機械的特性を両立するために、SiCN膜の窒素濃度と結合状態の最適化を行う。このためにPLD法に加えECRスパッタ法を活用して様々な結合状態と窒素濃度のSiCN膜を作製する。これらの膜の成膜状態での機械的性質の評価、耐酸化性および鉄鋼基板との反応性を調べるために、熱処理前後の機械的性質の変化、TEMによる微細組織の変化およびXPSによる結合状態の変化などから、上記の目標達成に最適な微細組織と結合状態を探求する。 ついで、CrNに代わる遷移金属窒化物相の候補(M元素)を選定するための基本原理を熱力学的な観点から検討し、化学的安定性を達成できるSiCN/MNナノコンポジット膜の基本組成を数種類に絞り込む。そしてそれら数種類のSiCN/MNナノコンポジット膜をSi基板および鉄鋼基板上に成膜する。成膜状態のままでの機械的性質に加え、各種雰囲気下での熱処理前後の機械的性質および微細組織の変化を調べることにより、耐酸化性、鉄鋼基板との反応性を比較検討するとともに、TEM、XPS等を駆使して反応メカニズムを解明する。これらの結果を基に、SiCN/MN膜の基本組成を選定する。 最終年度(令和5年度)には、選定した基本組成について、M元素の濃度を変化させた場合の機械的性質、組織、耐酸化性、Feとの反応性などを総合的に評価して、最終的な目標である高硬度で耐酸化性と耐反応性(化学的安定性)に優れた硬質保護膜の獲得を目指す。
|