研究課題/領域番号 |
21K04724
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26050:材料加工および組織制御関連
|
研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
王 栄光 広島工業大学, 工学部, 教授 (30363021)
|
研究分担者 |
佐藤 裕樹 広島工業大学, 工学部, 教授 (20211948)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | ハイエントロピー / 電析 / 有機溶媒 / 複雑反応 / 耐食性 / 硬さ / 酸素発生触媒 / 耐摩耗性 / ハイエントロピー合金 / 薄膜 / マルチパルス電析法 |
研究開始時の研究の概要 |
ハイエントロピー合金(HEA)は、高強度、優れた耐食性、高温安定性や電磁気特性を示し、合金種の創製や機能性発見に多角に研究されている。一方、省資源、軽量化の薄膜合金の作製は、現行の定電圧制御電析法では薄膜中の各種元素含有量の制御が困難である。本研究では、無水塩有機溶媒浴液中での単元素の電析電位や多元素の共析挙動を調査し、優れた耐食性と耐摩耗性をもつHEA薄膜をマルチパルス電析法によって創製する。
|
研究実績の概要 |
有機溶媒DMF‐CH3CN中にCrCl3、 MnCl2、FeCl2、CoCl2、NiCl2などの金属塩を溶かして浴液とし、銅板にダブル電位パルス法(高電位EH、低電位EL)で電析を種々の条件下で行った。その後、電析膜の表面形態、成分、硬度および酸素発生触媒活性を調べた。得られた結果は、以下の通りである。 1.銅基板に印加した電位は、-0.2Vvs.SSEより卑であれば電析電流が、それより貴であれば溶解電流が流れる。従ってダブルパルス電析には、高電位EHは-0.2Vと0Vの場合では皮膜の形成が良くないが、EHは-0.8Vと-1.0Vの場合では銅基板を全面的に覆う皮膜が形成できた。また、低電位ELは-3.0V、高電位EHは-0.8V、パルス幅は30msで得た皮膜の厚さは約2.0μmであり、定電位-3.0V電析のそれ(0.6μm)より顕著に厚い。 2.低電位ELは-3.0Vでは、(1)高電位EH:-0.2Vと0V、パルス幅3000ms、(2)高電位EH-0.8V、パルス幅300msと30msおよび(3)高電位EH-1.0V、パルス幅3000msなどの条件下で、ほぼ均等な金属元素の組成をもつハイエントロピー皮膜が得られた。EDS分析によると、いずれのパルス電析条件下で得た皮膜に、多くの酸素(42-67atom%)と炭素(9-24%)が含まれている。 3.皮膜にダイナミック硬さを最大押し込み荷重40mNまで測定した。EH=-0.8VでEL=-3.0V/30ms、EL=-3.0V/300msとEL=-2.5V/300msで、いずれの硬さは銅板と相当である。 4.上記で得られたハイエントロピー皮膜を陽極としてアルカリ性水溶液中で酸素発生活性を測定したところ、酸素発生過電位は市販の酸化ルテニウムとほぼ同等かそれ以上の触媒活性が確認された。 5.アルカリ性水溶液中でリニアスイープボルタンメトリー(LSV)分極曲線から、酸素発生するまでに溶解挙動が認められなかったので、十分な耐食性を有すると判断できる。また、分極測定後の表面に目立った変化がないので、酸素発生触媒としての長寿命は実現が有望である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の計画に従って、種々の実験、解析および考察が進んできた。 前年度の結果に基づき、サポート電解質LiClO4を使わずに有機溶媒DMF‐CH3CN中にCrCl3、 MnCl2、FeCl2、CoCl2、NiCl2などの金属塩を溶かし、さらにモレキュラーシーブを用いて除水して電析浴液とした。浴液の温度は313±1Kとし、窒素ガスによる脱気しながら、印加電位や間隔時間を種々変化してダブル電位パルス法で電析を所定の時間で実施した。銅基板への皮膜形成は、パルスの高電位に大きく依存し、-0.2V vs.SSEより卑に設定する必要があることが確認された。 電析膜の表面形態および成分はSEMとEDSで、電析皮膜の硬さはダイナミック硬度計で調べた。5つの電析条件からは、Cr、Mn、Fe、Co、Niをほぼ均等的に含有させるハイエントロピー皮膜が作製できた。また、ダイナミック硬さからは、電析皮膜はある程度の耐摩耗性を有すると推測している。次年度では、各種皮膜の耐摩耗性をボールオンディスク法で評価する予定である。 皮膜の酸素発生反応(OER)に関する触媒活性は、アルカリ性水溶液中でリニアスイープボルタンメトリー(LSV)曲線を用いて評価した。ハイエントロピー皮膜に高い触媒活性が確認されたとともに、金属の溶解挙動が殆ど認められなかったので、十分な耐食性を有すると判断できた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果を踏まえて今後は、ダブル電位パルス法で得たハイエントロピー電析皮膜の結晶構造を調べ、その耐食性と耐摩耗性を調査する。さらにダブル電位パルス法の条件を組み合わせて多重パルスを設計し、電析皮膜の耐食性、耐摩耗性および触媒活性を高める。また、有機溶媒をDMF-CH3CNからDMSOに変更し、浴液中の水分や溶存酸素による電析膜への影響を調査する。 また、最終年度として、有機溶媒中での(1)遷移金属の電析プロセスと電析皮膜への酸素や炭素の含有メカニズム、(2)電析膜の成分、元素結合状態と結晶構造、(3)電析皮膜の硬さ、耐摩耗性、耐食性、触媒活性などをまとめる。これによって、各項目間の関連をより明確にし、元素間の共析挙動(皮膜形成)や協働作用(機能性)に知見を導く。
|