研究課題/領域番号 |
21K04789
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分27040:バイオ機能応用およびバイオプロセス工学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
勝田 知尚 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (50335460)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 昆虫細胞 / 細胞周期 / 同調培養 / 細胞周期阻害剤 / 遺伝子導入 / 真核細胞 / 微細藻類 / 生物化学工学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,研究代表者らがこれまでに微細藻類の培養で見出した,培養温度の制御によって細胞の生理状態が制御できるという知見に基づき,遺伝子が核膜で保護されている真核細胞を外来遺伝子の受容しやすい生理状態に導き,遺伝子導入の効率化を図ることを検討する.そこでは,細胞培養によるワクチン生産などに利用される昆虫細胞,ならびにCO2から有用色素を生産できる微細藻類を対象とし,本手法の適用を試みる.
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研究実績の概要 |
本研究では,研究代表者らが緑藻の培養で見出した,培養温度を適切な範囲で周期的に変化させると培養液中の細胞間で細胞周期が同調するという知見に基づき,真核細胞の細胞周期を同調させて核膜の消失から再構成される間にあわせて外来遺伝子を導入することにより,その核内移行,ならびに核 DNA との接触を促進させて,遺伝子導入の効率化を図ることを目的としている. 令和 4 年度は,昨年度から引き続き,子宮頸がんやインフルエンザ,さらに新型コロナウイルス感染症のワクチン生産に用いられている昆虫細胞に注目し,組換えタンパク質の高発現を期待できるとされる Trichoplusia ni BTI-TN-5B1-4 (High Five) 細胞を対象として実験を行った.培養温度をプログラム制御したインキュベーター内で連続的にモニタリングされた細胞密度の増加とともに,培養中に経時的に収穫したサンプルのフローサイトメーター分析による細胞内の核酸含有量の変化から,細胞周期の同調の観察を行った. はじめに,細胞周期阻害剤の添加により,細胞周期の進行を所定の期で停止させたときの細胞内核酸含有量の経時的変化を調べた.G2/M 期で停止させる阻害剤では細胞内核酸含有量のピークに無添加条件からの変位は生じなかったが,G1/S 期で停止させる 2'-デオキシ-5-フルオロウリジン (FdUrd) では無添加条件のピークよりも低含有量側にピークが変位することを見出した.つぎに,培養温度を最適温度の 27℃ より低下させたときの細胞内核酸含有量の経時的変化を調べた.その結果,培養温度 17℃ では,FdUrd と同様に,無添加条件のピークよりも低含有量側へのピーク変位が見られた. 以上のことから,High Five 細胞では多くの細胞が G2 期にあり,またそれが長時間維持されることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までのところ,昆虫細胞 High Five の細胞周期を同調させるために好適な条件は明らかにできていないものの,細胞周期阻害剤で処理した細胞と無処理の細胞に対して緑色蛍光タンパク質の遺伝子を保持するプラスミドをそれぞれトランスフェクションし,発現性の比較を試みた.その結果,コルヒチンや FdUrd で処理した細胞では生細胞数の減少が生じたものの,発現細胞が全細胞に占める割合は無処理と同等であった.このことは,細胞周期を穏やかな処理で同調することができれば,トランスフェクションの効率化が期待できることを示すと考えられる. しかしながら,High Five 細胞では当初の予想に反し,多くの細胞が G2 期にあり,またそれが長時間維持されることが分かった.このことは,M 期への移行の制御が High Five 細胞の細胞周期を同調する上で最も重要であることを意味する.しかし,FdUrd を用いて細胞周期の進行を G1/S 期で停止させると,G1 期にある細胞に由来するピークとともに G2 期にある細胞に由来するピークも同程度の大きさで見られたことから,M 期への移行は厳密に調整されていることが示唆された.令和 4 年度には,こうした厳密な調整を制御できる操作条件を見出し,High Five 細胞の細胞周期を同調することに成功できなかったため,上記のように評価した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では,令和 5 年度には,核膜が消失しない閉鎖型の有糸分裂を行う真核細胞として,単細胞性緑藻においても昆虫細胞と同様の手法でトランスフェクションの効率化の可能性を検討する予定であった.しかしながら,High Five 細胞による組換えタンパク質発現に広く使用される無血清培地中では,多数の細胞の細胞周期が予想に反して G2 期にあることが分かり,一方,細胞周期の同調は,培養温度を周期的に変化させる方法と細胞周期阻害剤の添加のいずれによってもまだ成功していない.High Five 細胞以外の昆虫細胞では,当初想定していたような細胞周期の進行を示すことが報告されているものもあるが,High Five 細胞は高い増殖性や無血清培地への順応性,組換えタンパク質の高発現といった優れた特性を有しており,さらに子宮頸がんワクチンの生産に利用されているという実績もある.そこで,今後も High Five 細胞を中心として,細胞周期を同調することのできる操作条件の検討を行う予定である. そこでは,FdUrd を用いて G1/S 期で停止させたときにも細胞が顕著な割合で G2 期に留まったことに注目し,フローサイトメーターによる細胞内核酸含有量の分析を細胞密度の連続モニタリングと併用することで単一の期で細胞周期の進行が止まる条件を調べられるようにし,低温側の培養温度の条件検討をより詳細に行う.そして,無血清培地中で High Five 細胞に細胞周期の同調を促し,緑色蛍光タンパク質の発現を指標としてトランスフェクション効率の検討を行う.こうして,細胞周期の同調を促すことにより遺伝子導入の効率化を図る手法の確立を目指してゆきたい.
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