研究課題/領域番号 |
21K04793
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分27040:バイオ機能応用およびバイオプロセス工学関連
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
吉本 則子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (40432736)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | antibody drug conjugate / イオン交換クロマトグラフィー / 疎水クロマトグラフィー / 抗体薬物複合体 / antibody / chromatography |
研究開始時の研究の概要 |
本課題では、クロマト固定相において、抗体への低分子量薬物の付加反応を立体選択的に進行させ、同時に修飾抗体の高純度化を行うプロセスを構築する。抗体はアフィニティー、静電・疎水相互作用により担体と規則的に結合する。これにより抗体分子の配向性と溶媒への露出面積が規定される。液本体の薬物は抗体の特定アミノ酸残基に付加するため、単一構造をもつ修飾抗体が生成する。固液界面に生成した修飾抗体は、巨大分子の吸着・移動現象に基づいて高純度化する。申請者らが構築した機構モデルを援用して、修飾抗体の収率と純度を最適化する。以上より、単一固定相を用いた抗体-薬物複合体の連続製造・高純度化プロセスを構築する。
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研究実績の概要 |
抗体タンパク質に分子量1000~10000のPEGをスペーサーとして導入し、モデル薬物としてフルオレセインを用いて、抗体薬物複合体(ADC)の合成を実施し、今年度は下記の検討を実施した。 1. 抗体薬物複合体の薬理活性は、薬物修飾数(DAR)に依存して変化することが知られており、DARの分析やDARごとに分離されることが望ましい。タンパク質結合後の薬物数を分光学的に解析するためには、結合後のモル吸光係数を事前に知る必要がある。しかし、薬物として用いられる化学物の多くは、周辺環境によって、吸収特性が変化する可能性がある。本研究で用いたフルオレセインは、その吸収特性は荷電性官能基の解離状態によって変化し、中性条件ではdiアニオン、monoアニオンが共存する。このため、各pHでdiアニオンとmonoアニオンの吸光係数を調べ、280、450、490 nmの3波長での吸光度の比と合わせて、抗体結合時の荷電状態と吸光特性を求める方法を構築し、これらに基づき、クロマトカラムから溶出される各ピーク中のADCのDARを決定した。 2.分離基材としては、前年度は、分析用の疎水クロマト担体を用いてきたが、今年度は、分取に用いられる粒子サイズが大きな疎水クロマト担体を用いて、分離の検討を行った。分取用の担体上では、ピーク幅のブロード化がみられたが、線状構造の疎水性リガンドを用いた場合、各溶出ピーク間の分離が向上し、1.2以上の分離度が達成できた。 3. モデル薬物、スペーサー修飾モデル薬物のlogP値をそれぞれ求めた結果、スペーサー修飾薬物のlogP値はPEGの分子量が小さいの場合はむしろ大きくなる結果となったが、分子量5000以上のPEGではlogP値の低下が見られた。凝集試験の結果、logPの小さいスペーサー修飾薬物は凝集が低減された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で実施したマルチ波長での吸光度測定を用いた結合数の測定は、非破壊的にinlineで簡便に実施可能である。このため、反応解析や実際の分離プロセスなどでの、迅速かつ大量数の測定が求められる場合で有用であると考えられる。 また、今年度は、スペーサーに用いるPEG鎖の長さが、ADCの分離に及ぼす影響について検討を実施したが、クロマトグラフィーでの分離のされ易さはPEGの分子量が長い方が向上することが明らかになった。分離担体との結合に影響をおよぼす修飾構造を導入し分離度を向上させることで、分離性能の低い分取レベルの担体でも分離が可能であると考えられる。 また、疎水度の高い薬物の疎水性も、PEG鎖の分子量が高い方が低下することがlogP値より明らかとなり、凝集試験においても凝集しにくくなることが明らかとなった。抗体修飾後の安定性については、未検討ではあるが、ADCの安定性にも寄与することが期待される。 これらの結果は、本研究で目的としている抗体薬物複合体の分離プロセスの開発において重要な知見をもたらすものと考えられ、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、より合理的かつ堅牢な分離プロセスの開発を目的とし、以下の検討を実施する。 1. 昨年度に使用した各疎水クロマトグラフィーに加えていくつかの疎水クロマトグラフィーリガンドを加えて、溶出実験を行い、溶解度に基づいた担体への分配モデルを用いて、溶出挙動の解析を行う。モデルパラメータとリガンド構造の関係性を調べる。これらの結果と物質移動特性の解析も加え、様々な分離条件での分離を予測し、ステップ溶出、等組成溶出などの溶出法や移動相条件などの、最適な分離条件の探索に用いる。 2. モデル薬物として、疎水度の高いものを採用し、スペーサーとして用いたPEGの影響について、さらなる解析を実施する。 3. ADCの合成工程および分離工程の各操作条件における各分子の安定性について、各分子の二次構造、三次構造などの詳細な構造解析を、凝集形成過程も含めて検討を実施する。とくに、内部のジスルフィド結合を還元剤で切断して修飾を行う場合、構造安定性の維持が重要となるが、分離操作条件、特に移動相中の塩濃度の変化や疎水担体との接触時間などの操作条件が、どのようにその安定性に影響するのかについての解析を実施する。
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