研究課題/領域番号 |
21K04875
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
遠藤 理 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30343156)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
|
キーワード | 有機金属界面 / X線吸収分光 / ホール / トップコンタクト / 軌道トモグラフィー / ホール注入 / p型有機半導体 / ペリレン / ハロゲン / 軌道トモグラフィ― |
研究開始時の研究の概要 |
有機半導体は柔軟性や軽量性などの特質を有することから近年様々なデバイスで応用されている。有機半導体の電流の担い手(キャリア)は分子間をホッピングする電子やホールである。p型半導体であるペリレン分子にキャリアとなるホールを導入するためには最高被占軌道(HOMO)の電子を一つ取り除く必要がある。本研究ではハロゲンによってHOMOから電子が失われる過程の分子レベルでの機構を明らかにすることを目的とする。貴金属単結晶基板に作成した薄膜を試料とし、ハロゲン導入時に起こる構造と電子状態の変化をX線吸収分光や光電子分光、走査トンネル顕微鏡によって明らかにする。
|
研究実績の概要 |
近年有機半導体の性能向上のためにドーピングによるキャリアの増大が再注目されている。p型有機半導体に対するホールドープは分子のカチオン化(酸化)であり、アクセプターとなるドーパント分子の最低非占有軌道(LUMO)準位が半導体の最高占有軌道軌道(HOMO)準位よりも深い場合に整数電荷移動機構であるイオン化が生じると考えられるが、LUMO準位がより浅い場合にもイオン化が生じるケースがあり、分子レベルの詳細な機構の解明が必要である。これまで金単結晶表面においてペリレン単分子層に臭素を導入するとペリレン層の下に挿入された臭素が仕事関数を増大させ、金のフェルミ準位がペリレンのHOMOよりも深くなる結果カチオン化することを炭素K吸収端近傍X線吸収微細構造分光(C K NEXAFS)による1s→半占有軌道(SUMO)への遷移の観測により報告した。この時臭素がどの程度アニオン化しているかをBr K NEXAFSにより解析した結果、空状態を示す1s→4p遷移が観測されたことから臭素は1価のアニオンではないと分かった。このことからペリレンの電子は臭素に留まらず金に受容されたと考えられる。実際のデバイスではしばしばトップコンタクト電極が用いられるため、臭素ペリレン薄膜に金を蒸着しC K NEXAFSによる解析を行った。金蒸着前の臭素ペリレン薄膜では単層と同様のSUMO遷移を観測したが、単結晶表面において観測されたものとエネルギーが若干異なっており、空状態の由来が異なっている可能性が示唆される。さらに金を蒸着したところバルク内部では変化が見られなかったが表面付近ではSUMO遷移の減少が見られた。このことはトップコンタクト金電極近傍でホールの存在が抑制されていることを示しており、実際のデバイス駆動時に余分な電圧が必要となる可能性が示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は高エネルギー加速器研究機構によるC K NEXAFS測定において研究協力者の雨宮教授の元、シリコンドリフト検出器(SDD)が導入されたため蛍光X線収量法による測定を行うことができた。これにより臭素ペリレン薄膜試料においても1s→SUMO遷移と類似の遷移が観測され、C K NEXAFSがドープによる電荷移動を追跡する有力な手法であることが確認できた。また、表面敏感な電子収量法と比較的検出深さが深くなる蛍光X線収量法の同時測定を実施した結果、電子収量法ではSUMOへの遷移が小さく、また経時変化により減少することが分かった。この結果は有機層表面近傍ではドーパントの脱離が生じやすく、電子収量法では観測が難しいことを示している。これまでのホールがドープされた有機半導体試料のNEXAFS測定でSUMO遷移に関する報告が少ない理由と考えられる。バルクの臭素ペリレン系でのSUMO遷移は単分子層ペリレンよりもやや高エネルギーに観測された。電荷移動が整数電荷移動ではなくバンド間の電子の共有である部分電荷移動機構あるいは電荷移動錯体形成機構であるとすると空状態の準位端はより高エネルギーになると考えられる。 ペリレン単分子層のドープによる構造変化解析のため走査トンネル顕微鏡観察(STM)を行う予定であった。このための試料作成槽を研究協力者である国際基督教大学(ICU)田教授から装置の提供を受け、試料加熱機構およびスパッタリング機構の整備を行った。清浄表面の作成と有機物蒸着を行い、前年度までの作成していた真空を保持したまま試料を移動する機構を介してSTM観察室へ移送し観察を行うことができたが、良好な測定結果を得られる前にSTM本体のピエゾ駆動機構の経年劣化のため探針のアプローチができなくなった。また同時期に試料作成チャンバーのターボ分子ポンプが故障したため、試料作成も頓挫し研究に遅れが生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究室既設のSTM装置の修理が当面不可能であることから、ICUのSTMを使用し観察を行う。ICU田研究室既設のX線光電子分光(XPS)装置および低速電子線回折(LEED)を備えたチャンバーの準備室において金基板清浄化およびペリレン蒸着を行い、両手法で試料形成を確認したのち大気を経由してSTM測定装置へ移送する。ペリレン単分子層の観察を行った後STM準備室において臭素を導入してドース量に伴う配列変化を追跡する。臭素ドース量が少ない時は分子配向は変化せずC K NEXAFSにおいて吸収端の低エネルギーシフトが生じることが分かっている。この時臭素がペリレン上に吸着し部分電荷移動が起こっていると考えられる。部分電荷移動は分子軌道の重なりにより生じると考えられているため、臭素とペリレンの相対位置関係が解明できれば、より詳細な電荷移動機構の理解につながると期待される。また、臭素吸着量が増えるとペリレン分子が分子面をflatにした配向から傾けた配向に変化させ臭素が金表面に直接吸着する状態となることが分かっているが、この時の面内の分子配列に規則性があるかどうかについて確証のあるデータを得ることを目的とする。 C K NEXAFSによる有機半導体のホール解析法をさらに発展させるため、高分子半導体であるポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)のC K NEXAFS測定を行う。ドープにより生じると考えられるSUMOへの遷移を観測し、ドープ量に依存する最低非占有軌道(LUMO)への遷移とのエネルギー差などからSUMO準位の位置を決定するためのデータを蓄積する。
|