現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の当初の目標では、(1)ダイレクト・アブイニシオ分子動力学法を微視的溶媒和クラスター反応系へ拡張すること、および、(2)そのプログラムをテスト計算することの2つ課題が、2022年度の目標であった課題(1) 、および(2)は終了し、すでに、2023年度の目標である反応系への応用がスタートしている。特に、(a)「過酸化水素(H2O2)の光化学反応への微視的溶媒和の効果」について研究を行い、アメリカ化学会総合化学誌(ACS Omega)への公表を行った [Yamasaki and Tachikawa: Intracluster Reaction Dynamics of Ionized Micro-Hydrated Hydrogen Peroxide (H2O2): A Direct Ab Initio Molecular Dynamics Study, ACS Omega 2022, 7, 33866.] 。この研究により, 電池中のプロトン移動のモデルとなることが示された。 また、(b) 「安価なナトリウム(Na)を用いた水素の貯蔵機能を持つ分子デバイスの理論設計」の研究が順調に進行し、水素エネルギー関連科学誌(Hydrogen)への公表を行った:[H. Tachikawa et al. Hydrogen Storage Mechanism in Sodium-Based Graphene Nanoflakes: A Density Functional Theory Study, Hydrogen 2022, 3, 43.] 。 この研究により, 新規な水素貯蔵デバイスの理論開発が可能となった。 以上のことより,「研究の目的」の達成度として「当初の計画以上に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究課題として,(1)「SN2反応ダイナミックスへの微視的溶媒和の効果」,および(2)「微視的溶媒和された一酸化窒素 (NO)の光反応の解明」を行う.テーマ1の求核的2分子置換反応(SN2反応)は,有機反応の中の基本反応一つである. しかしながら,その動的なメカニズムについて,ほとんどわかっていない. 特に微視的溶媒和の化学反応への動的効果(影響)についての情報は皆無に近い。本研究では、ダイレクト・アブイニシオ分子動力学法により,求核イオンによるSN2反応:SN2反応X- + CH3Cl (X=ハロゲン、および分子),および、その溶媒を含む反応X-(H2O)+CH3Clを研究する.解明する点は,「微視的溶媒和(水分子,および水クラスター)の存在は,反応ダイナミクスへどのような影響を及ぼすか. たとえば、反応速度が加速するか, 減速するか?(抑制効果)を明らかにし,新たな反応を理論的に予測する. これまで、微視的溶媒和された一酸化窒素 (NO)が光反応により活性ラジカルになることを理論的に予測した.具体的には、水分子に微視的溶媒和されたNOが,光照射によって,活性ラジカル(HONO radical)になることを理論計算により明らかにした. 本年度は,この研究を発展させ,この活性ラジカルの反応性,および微視的溶媒和による安定化のメカニズムを解明する.さらに、一酸化炭素(CO)への拡張を行い、大気化学反応への微視的溶媒和の効果を一般化する。
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