研究課題/領域番号 |
21K04979
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 貴洋 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (70294155)
|
研究分担者 |
飯山 拓 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30313828)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | 分子ふるい材料 / 柔粘性多孔質結晶 / 過渡的ゲート吸着機構 / 金属有機構造体 / 蒸気吸着速度 / 拡散 / 活性化エネルギー / 活性化エントロピー / 金属有機複合体 / 分子ふるい / 吸着分離材料 / 多孔性配位高分子 / 柔軟性多孔質結晶 / 吸着速度 |
研究開始時の研究の概要 |
高効率・高選択的な分子分離技術は、次世代エネルギー戦略である水素利用技術を支える重要な基盤技術の一つである。特に、従来の分子ふるい材料では分離が困難な分子サイズや化学特性がよく似た類似化合物を、効率的かつ選択的に分離可能な新しい分子ふるい材料の開発が急務である。本研究課題では、柔軟性多孔質結晶の架橋配位子の動的な構造ゆらぎが引き起こす「過渡的なゲート開放機構」(過渡的ゲート機構)を利用し、吸着分子サイズに拠らず、吸着分子の平均速さの違いで類似化合物をふるい分ける新しい分子分離法の確立を行う。
|
研究実績の概要 |
柔粘性多孔質結晶の一種であるZIF-8([Zn(C4N2H5)2]n;Zeolitic Imidazolate Framework-8)の気体吸着機構として見出された「過渡的ゲート機構」は、吸着分子の開口部への衝突と架橋配位子の動的揺らぎが協同して吸着分子のゲート通過を可能にする新しい吸着機構である。本研究課題では、ZIF-8の吸着速度を支配している因子を精査し、架橋配位子の動態を制御することで、吸着分子の平均速さによって分子をふるい分ける新しい分子ふるい材料への展開を目指す。 令和5年度は、π電子を有する分子系に対して効果的にC-H/π相互作用を行う2-メチルイミダゾール環を架橋配位子にもつZIF-8に対し、ベンゼンおよび6員環脂環式化合物の吸着速度の温度依存性を検討することにより、分子サイズ効果とπ電子の影響がZIF-8への吸着挙動に及ぼす影響について考察した。その結果、拡散の活性化パラメーターのうち、活性化エネルギーは吸着分子の分子厚みに対してV字型の変化を示したのに対し、前置因子は分子厚みに対して強い相関を示すことが明らかとなった。これより、吸着分子の拡散係数は、吸着分子と架橋配位子に起因する活性化エントロピーの減少分に支配されることが示唆された。更に、開口部を通過する吸着分子のポテンシャルエネルギーをモンテカルロ・シミュレーションで評価した結果、拡散活性化エネルギーは吸着分子の平均分子径によって決まることがわかった。この分子サイズ依存性は、開口部の直径を大きくする架橋配位子の熱反転運動に起因すると考えられる。また、DFT計算により架橋配位子と吸着分子間の分子間相互作用を評価した。その結果、イミダゾール環のCH結合またはCH3基と吸着分子のπ電子との間のCH/π相互作用が、2つ以上のπ結合を持つ分子の局所構造を決定する上で極めて重要であることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、過去2年間の研究成果に基づき、ZIF-8が示す特異的な分子ふるい効果を支配する要因を、吸着速度の側面から攻究してきた。その結果、拡散係数を支配する因子として、遷移状態における活性化エントロピーが重要であることが明らかとなった。また、6員環開口部を形成する架橋配位子との分子間相互作用において、支配的に働く相互作用がCH/π相互作用かvan der Waals相互作用かによって、吸着選択性が現れる可能性を明らかにした。この事実は、メチルシクロヘキサン/トルエン系に代表されるように、同程度の動的分子径をもつ炭化水素分子のZIF-8への吸着挙動において、飽和炭化水素分子よりもπ結合を持つ不飽和炭化水素分子の方が低い活性化エネルギーを示し、動的に有利であることを説明できる結果であり、研究計画は概ね順調に進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度、ZIF-8に対するベンゼンおよび6員環脂環式化合物の吸着速度の温度依存性から明らかとなった分子間相互作用に関する重要な知見に基づき、ZIF-8が示す飽和/不飽和炭化水素類の特異な分子ふるい効果を支配する要因について明らかにした。これらの成果を学会発表することはできたが、論文としてまとめるには時間的余裕が足りなかった。令和6年度は、本研究成果を論文としてまとめ、国際ジャーナルへ投稿することを目指す。
|