研究課題/領域番号 |
21K05004
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 義明 京都大学, 理学研究科, 助教 (60402757)
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研究分担者 |
吉野 治一 大阪公立大学, 国際基幹教育機構, 教授 (60295681)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 有機熱電材料 / 分子性導体 / 超分子化学 / フォノンエンジニアリング / 振電相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
PGEC、低次元性、強相関電子系、振電相互作用の観点から、熱電材料開発が行われているものの、これら全ての観点から有機熱電材料の開発は行われていない。本研究では、低熱伝導率、低次元、強相関電子系という特徴を持つ有機物に着目し、熱電材料を開発する。具体的には、超分子結合部位を有するπ共役分子を用いて細孔構造を構築する。この場合、π共役分子の積層により導電経路が形成され、細孔に対イオンや溶媒分子等のゲストが取り込まれる。ゲストの複合化・置換を行うことで、フォノン散乱による格子熱伝導率の低減、π共役分子の化学修飾による振電相互作用の制御を行うことができ、熱電特性の制御機構を内在した有機熱電材料を開発する。
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研究実績の概要 |
低熱伝導率、低次元性、強相関電子系という特徴を持つ有機物に着目し、有機熱電材料の開発を目的として、主に以下の成果を得た。 1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)をN-アルキル化したCnDABCO (Cn = CnH2n+1)カチオンを対成分とするTCNQラジカルアニオン塩の開発を行い、すでに合成した(C6DABCO)(TCNQ)2を含め、(CnDABCO)(TCNQ)2 (n = 4-7)、(C8DABCO)2(TCNQ)5、(C8DABCO)4(TCNQ)9を得た。X線構造解析の結果、これら全ての塩においてTCNQ分子は1次元積層カラムを形成していた。一方CnDABCOカチオンは、CnDABCO (n = 6-8)の場合は、アルキル基がTCNQ積層カラムに平行になるように配列し、C4DABCOの場合は、アルキル基がTCNQ積層カラムに垂直になるように配列していた。また、C5DABCOの場合は、アルキル基がTCNQ積層カラムに平行なものと垂直なものが存在する混合型となっていた。(CnDABCO)(TCNQ)2 (n = 4-7)では、TCNQ積層方向の1周期がn = 5以外の場合は4分子であるのに対し、n = 5の場合は6分子であった。(C5DABCO)(TCNQ)2では、結晶構造が複雑化し、TCNQ積層方向の周期が長くなっていることにより、熱伝導率の低減が期待できる。(CnDABCO)(TCNQ)2 (n = 4-7)は半導体的導電挙動を示し、室温導電率は、0.1-10 S cm-1程度の比較的高い導電性を示した。また、これらの錯体の磁化率は、1次元交互ハイゼンベルグ鎖様、または、キュリー様の振る舞いを示した。以上より、これらの錯体は、低次元強相関電子系であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、超分子相互作用や振電相互作用を制御することにより高い性能を有する有機熱電材料の開発を目的としている。また、物質開拓、構造解析、基礎物性評価を研究代表者の中野、熱電特性評価・解析を研究分担者の吉野が担当する。 今年度は、昨年度終盤の吉野の異動に伴う熱電特性評価装置の移設作業を行ったため、熱電特性評価を行うことができなかった。しかしながら、移設先での熱電特性評価装置の立ち上げはすでに完了しており、熱電特性評価を行う準備はできている。 物質開発の面では、様々なN-アルキル化DABCOとTCNQの新規ラジカルアニオン塩、(CnDABCO)(TCNQ)2 (n = 4-7)、(C8DABCO)2(TCNQ)5、(C8DABCO)4(TCNQ)9等を作製し、それらが比較的高い導電性を有する低次元強相関電子系であることや、熱伝導率の低減が期待される結晶構造を有することを明らかにしている。特に(C5DABCO)(TCNQ)2では、結晶構造の複雑化により、TCNQの積層方向の周期が(C6DABCO)(TCNQ)2に比べて長くなっていることから、熱伝導率のさらなる低減が期待される。これらの結果は、得られたTCNQラジカルアニオン塩が有機熱電材料として有望な物質群であることを示している。 以上、熱電特性評価装置の立ち上げが完了し、有機熱電材料として有望な物質群が得られていることから、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
超分子相互作用や振電相互作用の異なる分子を用いて有機熱電材料の開発や熱電特性評価法の改良を行う。また得られた知見を総合的に解析し、有機熱電材料の設計指針を確立する。具体的には、以下の研究を推進する。 (1)N-アルキルDABCOカチオンと超分子結合受容部位としてシアノ基を有し、電子アクセプター分子であるTCNQ、F2TCNQ、F4TCNQから成るラジカルアニオン塩を作製し、結晶構造、バンド構造、熱電物性を明らかにする。(CnDABCO)(TCNQ)2 (n = 4-7)、(C8DABCO)2(TCNQ)5、(C8DABCO)4(TCNQ)9については、結晶構造や基本的な物性が明らかになっており、熱電特性評価を順次行っていく。F2TCNQ、F4TCNQのラジカルアニオン塩は、同じCnDABCOカチオンを用いても、TCNQラジカルアニオン塩とは異なる結晶構造になることが明らかになっており、TCNQへのフッ素化が結晶構造、熱電物性、振電相互作用に及ぼす影響を明らかにする。 (2)熱伝導率の測定では200 K以上で、試料と周囲の熱輻射のやりとりによる誤差の影響が増大する。特に熱電材料に適した物質の場合、試料の熱伝導率が低いので、熱輻射によって室温付近の熱伝導率が顕著に増大したように誤って観測されるなどの悪影響がある。また、温度差測定に用いる極細熱電対を介した熱の出入りも全測定温度域で比較的大きい誤差を与える。最終年度では、これまで改良を重ねてきた熱伝導率、熱電能、電気抵抗率の同時測定法の熱伝導率測定法をさらに発展させて、これらの誤差をさらに低減させる手法の開発に引き続き取り組む。
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