研究課題/領域番号 |
21K05084
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝義 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (80249953)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 自然分晶 / キラリティ / 対称性の創出 / エナンチオ結晶 / 優先晶出 |
研究開始時の研究の概要 |
物質の光学活性の起源や自然界のホモキラリティの発現は、現代科学の重要な未解決問題のひとつである。本研究では、不斉要素を持たない有機配位子と金属塩から成るキラルな金属錯体の中から、結晶化する際に単一のエナンチオマー結晶のみを選択的に生成する極めて珍しい現象である「絶対自然分晶」を示す新たな物質群を探索し、その特異な結晶化挙動の発現条件を詳細に調査する。また、類似構造を持つ化合物の種結晶を用いた結晶化や、析出したエナンチオマー結晶を用いたラセミ混合物の優先晶出を検討することにより、結晶化に際して分子のキラリティが発現および伝播される機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
物質の光学活性の起源や自然界のホモキラリティの発現は、現代科学の重要な未解決問題の一つである。本研究では、不斉要素を持たない有機配位子と金属塩からなるキラルな金属錯体が、結晶化する際に単一のエナンチオ結晶のみを選択的に生成する極めて珍しい現象である「絶対自然分晶」の発現条件を詳細に調査し、その発現機構と結晶表面におけるキラリティ伝播のメカニズムを解明することを目的としている。生成する結晶のキラリティは、X線結晶構造解析及び固体CDスペクトル測定により確認している。 本年度の研究では、三脚状有機配位子が結合した遷移金属(Ⅱ)ーランタノイド(Ⅲ)ー遷移金属(Ⅱ)型三核錯体のうち、ニッケル(Ⅱ)イオンを含む錯体を用いたキラリティ伝播について詳細に調査した。ニッケル(Ⅱ)とテルビウム(Ⅲ)からなる上記三核錯体(以下、NiTbNiと示す)は自然分晶を示さずラセミ結晶として析出する。このラセミ結晶を、「絶対自然分晶」が発現する類似の亜鉛(Ⅱ)三核錯体(以下、ZnTbZnと示す)の飽和溶液に種結晶として加えると、NiTbNi錯体と同形構造を有し、通常の条件では析出しないZnTbZn錯体のラセミ結晶が析出した。このことから、結晶表面でのキラリティ伝播は結晶構造が異なる類似の三核錯体種間でも発生することが明らかとなった。 さらに、絶対自然分晶を発現する三核錯体の結晶化において、遷移金属イオン種の異なる類似三核錯体が溶液内不純物として加わる影響についても調査を開始した。上記したZnTbZn錯体の溶液に、物質量20:1の割合でNiTbNi錯体の溶液を加えて結晶化を試みたところ、純粋なZnTbZn錯体溶液からは得られなかったΔ型のエナンチオ結晶が一部得られた。このことから、遷移金属(Ⅱ)イオンも絶対自然分晶の発現に決定的な影響を与えていることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、物質が結晶化する際に片方の光学異性体のみが選択的に生成する「絶対自然分晶」の発現機構の解明と、その特異な現象の新たな物質合成への応用を目的としている。当該研究課題では、遷移金属(Ⅱ)イオンとランタノイド(Ⅲ)イオンにより形成される一連の三核錯体の中に、この絶対自然分晶を示すものがあることから、その金属イオンの組合せに注目し、各々の錯体についてその結晶化挙動を順に調査することを計画している。 これまでの研究において、亜鉛(Ⅱ)イオンと(通常の実験室では扱いが困難なプロメチウム及びツリウムを除く)全てのランタノイド(Ⅲ)イオンを含む錯体系列、及びマンガン(Ⅱ)、鉄(Ⅱ)、コバルト(Ⅱ)、ニッケル(Ⅱ)とテルビウム(Ⅲ)イオンを含む三核錯体について検証を行った。ランタノイド(Ⅲ)イオンが有する4f電子数の偶奇性と絶対自然分晶発現の関連に加えて、遷移金属(Ⅱ)イオン種と生成する結晶の結晶系(自然分晶の有無を含む)の関係について考察することができた。 一方、種結晶を用いた優先晶出実験では、同形結晶構造を持つ錯体結晶間でキラリティの伝播が起こり、通常の結晶化条件では絶対自然分晶のために得ることができなかった掌性の単結晶を得ることに成功した。また、新たに合成及び構造解析に成功したニッケル(Ⅱ)イオンを含む三核錯体を用いた場合、結晶系の異なる錯体間でもキラリティの伝播を伴う異常結晶の優先晶出に成功した。特に後者は、キラルな単分子磁石挙動を示す化合物の創成に向けた研究の進捗に大きな成果をもたらした。 本研究は、化合物の結晶化実験と発現する結晶キラリティの検証に多大な時間と労力を必要とするため、上記した実験研究の進展はおおむね順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
一連の遷移金属(Ⅱ)ーランタノイド(Ⅲ)ー遷移金属(Ⅱ)型三核錯体に対する結晶化挙動に関する研究について今後は、通常の条件下ではラセミ結晶を析出する鉄(Ⅱ)、コバルト(Ⅱ)、ニッケル(Ⅱ)イオンを含む錯体、及びそれらと絶対自然分晶を示す亜鉛(Ⅱ)、マンガン(Ⅱ)イオンを含む錯体との混合物について調査し、絶対自然分晶の発現における遷移金属(Ⅱ)イオンの役割を明らかにする。また、金属イオンの種類以外の実験条件、すなわち温度、結晶化溶媒、光照射や電場・磁場の影響について、さらに詳細な調査を繰り返し、この特異な現象の根本的な発現理由の解明に迫る。 キラリティ伝播に関する研究では、上記したコバルト(Ⅱ)、ニッケル(Ⅱ)錯体の結晶化に際して、絶対自然分晶により析出した亜鉛(Ⅱ)錯体のキラル結晶を種結晶として加えることで、キラリティの伝播によりキラル結晶が析出するかを実験的に検証する。この方法でキラル結晶が得られれば、以前に報告されているラセミ結晶中のコバルト(Ⅱ)ーランタノイド(Ⅲ)ーコバルト(Ⅱ)型三核錯体が単分子磁石挙動を示したことから、絶対自然分晶を利用したキラルな単分子磁石の創成が可能になる。さらに、ランタノイド(III)イオンとしてユウロピウム(III)を用いることで、同様の方法で高強度の円偏光発光特性を示すことが予想されるキラル三核錯体をエナンチオ選択的に合成することが可能となり、本研究の目的の一つである絶対自然分晶を用いた新たな有用物質合成への応用につなげることができる。
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