研究課題/領域番号 |
21K05096
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
高尾 俊郎 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (00313346)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | アンモニアの活性化 / N-H結合切断 / C-N結合形成 / 三核ルテニウム錯体 / アニリン合成 / 三核錯体 / 三重架橋スルフィド配位子 |
研究開始時の研究の概要 |
アンモニアとベンゼンによる直截的なアニリン合成は未だに達成されていない重要な課題の一つである.本申請課題では,架橋スルフィド配位子を有する電子不足な多金属反応場の特徴を存分に活かし,アンモニアのN-H結合の切断と芳香族分子へのアミド基の付加,さらに多金属反応場からの水素化によるアニリンの脱離といった直截的なアニリン合成ルートを開発するとともに,その機構解明と触媒反応への展開を目指す.
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研究実績の概要 |
これまでに三重架橋スルフィド配位子を有するカチオン性ベンザイン錯体とアンモニアとの反応により、三核反応場上でのN-H結合の切断に続くC-N結合の形成によって三重架橋フェニルイミド錯体が得られることを明らかにした。三重架橋フェニルイミド錯体をプロトン化し、S8を作用させることで三核錯体上からアニリンが定量的に遊離することは確認できたが、錯体の配位飽和性のために水素化によってアニリンが脱離しない点が課題であった。本年度は硫黄と親和性が高い銅をスルフィド配位子上に導入することで水素との反応性の向上を試みたが、イミド配位子をもたないスルフィド錯体 [(Cp*Ru)3(μ3-S)(μ-H)3] は[CuI(PPh3)]4とは反応するものの、イミド配位子を導入した場合には反応しないことが明らかとなった。この結果は銅錯体が立体的に空いているヒドリド配位子側には配位できるが、硫黄配位子のπ電子がRuとの相互作用に用いられているために銅とは相互作用しなかったこと示唆するものであった。そこで硫黄配位子のメチル化について検討したところ、ソフトな求電子剤であるメチルカチオンを用いることで硫黄配位子がメチル化されたカチオン性三重架橋メチルスルフィド錯体の合成に成功した。この結果はイミド錯体のプロトン化が選択的にRu上で進行したことと対照的であった。X線構造解析からは、硫黄がメチル化されることでRuから硫黄への逆供与が促進され、RuとSの結合はより強固なものになっていることが示唆された。しかし、プロトン化で得られたカチオン性のフェニルイミド錯体と同様に、カチオン性メチルスルフィド錯体も水素とは反応せず、水素化によってアニリンを遊離させることはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベンゼンとアンモニアとの反応による多核錯体上でのアニリンの合成手法の開発に向けて、最後の段階である水素化によるアンモニアの脱離方法を探索してきたが、三重架橋スルフィド配位子と三重架橋イミド配位子の高い電子供与性のためにクラスターの配位飽和性が高まり、三重架橋イミド錯体の水素化は容易に進行しない。スルフィド配位子上に酸化還元活性な銅錯体を導入することで水素との反応性の向上を試みたが、スルフィド配位子は多核骨格と強く結合しているために、硫黄上に銅を導入することはできなかった。一方でソフトな求電子剤であるメチルカチオンは選択的に硫黄配位子と反応し、カチオン性の三重架橋メチルスルフィド錯体が得られることを明らかにした。X線構造解析の結果から正電荷は硫黄上に局在化し、その結果、硫黄配位子への逆供与が促進されRu-S結合はより強固になっていることが示唆された。一方で、Ru-N結合は弱くなっているものと期待されたものの、これまでのクラスターと同様に三重架橋メチルスルフィド錯体も水素とは反応しなかった。本年度は三重架橋メチルスルフィド錯体のプロトン化を検討し、ジカチオン性錯体とすることでRu-N結合へのプロトン化による架橋アミド錯体への変換、つづくアニリンの脱離について検討する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度はアニリンの脱離経路の探索に主眼を置いて研究を遂行してきたが、本年度はC-N結合生成の段階について、中間体の単離と機構の解明を目指す。これまでに三重架橋フェニルイミド錯体を2電子酸化することで、中間体と類似の骨格を有するジカチオン性のアザジルテナアリル錯体が得られることが確認されているが、ジカチオン性錯体の単離とともに脱プロトン化による中間体の合成を目指す。また、昨年度に合成したカチオン性三重架橋メチルスルフィド錯体のプロトン化について検討し、Ru-N結合のプロトン化による架橋アミド錯体の合成と水素化によるアニリンの脱離反応の開発を目指す。 トリス架橋カルベン錯体の光反応では、金属中心から炭素三員環への電子移動によって生じる多核励起種が、アンモニアのN-H結合の切断に活性を示し、同時にC3部位にイミド基が挿入することでアザルテナシクロペンタジエン骨格が一段階で形成されることを明らかにしている。ベンザイン錯体の光特性にも注目し、光照射下でのアンモニアとの反応についても検討する。
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