研究課題/領域番号 |
21K05102
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
和田 亨 立教大学, 理学部, 教授 (30342637)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 二酸化炭素 / 還元 / 光触媒 / レニウム錯体 / 遷移金属錯体 / レニウム / ルテニウム |
研究開始時の研究の概要 |
持続可能な社会を実現するためには、太陽光エネルギーを用いて二酸化炭素を高付加価値の化合物へ変換する触媒が必要である。本研究は可視光照射によって二酸化炭素を四電子以上の多電子還元する二核遷移金属錯体触媒を開発することを目的とする。独自に開発した二核化配位子で架橋した二核レニウムおよびルテニウム錯体を用いて、二酸化炭素の二重活性化あるいは二重ヒドリド移動による多電子還元を実現する。さらに、二核光増感剤によって一光子励起二電子移動を効率化し、これらを組み合わせた高活性な触媒系を構築する。
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研究実績の概要 |
本研究では、アントラセン等で架橋した二核レニウム錯体を触媒とする光、または電気化学的な二酸化炭素還元により、二酸化炭素の多電子還元を実現することを目的とする。21年度までに、アントラセン架橋二核レニウム錯体を合成し、その酸化還元挙動を解明した。トリエタノールアミン(TEOA)/DMF=1/4を溶媒に用い、1,3-dimethyl-2-aryl-2,3-dihydro-1H-benzo[d]imidazole(BIH)を犠牲試薬とした光化学的な二酸化炭素還元反応に対して、二核レニウム錯体は、対応する単核レニウム錯体の5倍の触媒回転数(TON)を示し、選択的に一酸化炭素を生成した。しかし、目的とする四電子還元によるホルムアルデヒドの生成は確認できなかった。そこで22年度は、二核レニウム錯体の還元体と二酸化炭素の反応について検討を行った。電気化学的に二核レニウム錯体を二電子還元すると、Re-Re結合が生成することが明らかになった。この二電子還元体に二酸化炭素を作用させても反応は進行しなかったが、そこへ可視光を照射すると二酸化炭素との反応が進行することが分かった。現在、構造解析を行っているが、Re-Re結合間に二酸化炭素の挿入反応が進行したものと考えている。今後は、この生成物の反応性について検討を行い、二酸化炭素の多電子還元反応へ展開したい。また、この二核レニウム錯体の比較対象として、アントラセンが結合した単核レニウム錯体を合成したところ、二核レニウム錯体を上回る触媒活性を示した。この単核錯体の光物性について検討したところ、室温でアントラセンのリン光が観測された。このことは、分子内での励起エネルギー移動が起きていることを示唆しており、これが触媒活性が向上した原因だと考えている。今後は、この単核錯体の過渡吸収スペクトルを測定することにより、内部励起エネルギー移動過程を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
22年度中には触媒反応として二酸化炭素の多電子還元には至らなかったものの、二核レニウム錯体を二電子還元することによりRe-Re結合が形成され、さらに二酸化炭素雰囲気下で二電子還元体に光照射することにより、二つのレニウム間に二酸化炭素の挿入反応が進行することを見出した。この結果は、光電気化学的な二酸化炭素の多電子還元の可能性を示すものである。今後、二酸化炭素が挿入したレニウム錯体の構造を解明し、酸化還元挙動について検討することにより、光電気化学的な二酸化炭素の多電子還元反応を目指す。また、比較対象として合成したアントリル基を有する単核レニウム錯体が、これまでに報告されているレニウム錯体の中で最高のTONを示すことを明らかにした。この高活性の原因が、分子内励起エネルギー移動にあることを示唆する証拠を得ることが出来た。これまでに、配位子と金属中心の間の励起エネルギー移動に関する報告は幾つかあるが、光増感剤としての報告にとどまっており、光触媒活性へ結びつけた例はない。本研究の成果は、二酸化炭素還元反応ばかりでなく、多くの光化学反応の触媒開発に、あたらしいアプローチを提案することができると考えている。以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、アントラセンで架橋した二核レニウム錯体に光化学的に二酸化炭素が挿入することを完全に解明する。Re-Re結合を有するレニウム錯体は、800 nm以上に特徴的な光吸収帯を示す。Kasha則により化学反応は最低励起状態から進行するので、この二酸化炭素挿入反応は非常に低エネルギーの光照射によって進行するものと考えられる。従って、Re-Re結合を有するレニウム錯体に対する二酸化炭素挿入反応の照射光波長依存性について明らかにする。同時に、二核レニウム錯体の構造を、単結晶X-線構造解析やIRスペクトル測定を用いて解明する。単離した錯体の酸化還元挙動を、サイクリック・ボルタンメトリなど電気化学測定を用いて解明し、二酸化炭素の多電子還元反応の可能性について検討する。それらの結果を踏まえて、触媒的な二酸化炭素多電子還元反応を目指す。中間体として生成することが考えられるRe-Re錯体に、二酸化炭素が挿入する反応が長波長励起で進行するのなら、定電位電解と光照射を同時に行うことによって、触媒的な二酸化炭素多電子還元が可能になると期待している。次に、アントリル基を有する単核レニウム錯体の、分子内励起エネルギー移動機構を解明する。これまでに測定した吸収・発光スペクトルから、フェルスター型エネルギー移動だと推測している。発光寿命測定と過渡吸収スペクトル測定を行うことによって、エネルギー移動過程を解明する。これらの成果は、それぞれ国際的な論文誌に報告する予定である。
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