研究課題/領域番号 |
21K05115
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
神崎 亮 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (50363320)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 電解質溶液 / リチウムイオン二次電池 / 電解質高分子 / 水系電池電解質 / 反応熱力学 / 酸解離平衡 / 電解質溶液論 / 濃厚電解質溶液 / 溶液化学 / イオン液体 / イオン強度 / ナノ粒子表面 |
研究開始時の研究の概要 |
液体は水,有機溶媒,電解質液体,および液体金属の4種類に分類できるとされる.化学反応を制御するために,この4分類を自由に組み合わせ,最適な性質を持った液体を溶媒(反応場)として選択することができる.しかし実際には,限られた一部分の組み合わせの知見と実用例があるに過ぎない.本研究申請は,水-液体電解質混合溶媒について,その実用化に向けた基礎を築くものである.近年,自然界や化学工学における新しい反応場として超濃厚電解質溶液が注目されており,従来の希薄溶液ベースの電解質溶液論はアップデートの必要性がある.将来的に水-有機溶媒-液体電解質混合溶媒を“面”として捉えた溶液化学を構築する第一歩でもある.
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研究実績の概要 |
現代の化学において,電解質溶液中における電解質の効果は,Debye-Huckel理論またはこれを展開したモデルで扱われる.しかしながら電解質が高濃度になると,電解質そのものが溶媒として溶媒和に寄与するだろう.このような条件下において,目的イオンがどのような状態で溶存しているかを明らかにする必要がある.本研究課題では,超濃厚条件を作り出すことができる電解質であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTf2N)水溶液中における反応熱力学量から,反応媒体としての特性にアプローチした. 自己解離平衡,酢酸の電離平衡およびポリアクリル酸の電離平衡における反応熱力学量を,希薄電解質水溶液から濃厚(20 mol/kg,モル分率0.265)まで測定し,水溶液中と比較した結果,希薄水溶液中との違いは以下に集約された:(1)内部エネルギー的に高い酸性,(2)イオン化による溶媒和エントロピー低下の低減,および(3)電離したpAA近傍への陽イオンの濃縮,の3点である.(1),(3)に関しては,水和リチウムが実質的なプロトンキャリアとして作用することを考えると理解しやすい.このことは,濃厚LiTf2N水溶液中で実質的に「自由水」が枯渇していることと整合性がある.(2)の帰属が難しいものの,エンタルピーと相殺することによって,見かけのpKaは水溶液中とあまり変化していない事実も明らかとなった.一方,これら以外の酸塩基性および溶媒和熱力学はほぼ水溶液中と同じであり,濃厚LiTf2Nの溶媒としての性質はほとんどが陽イオンに依存することが示された.反応媒体としての濃厚電解質のデザインのエネルギーベースの指針となるだろう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.水・LiTf2Nの部分モル体積:超濃厚LiTf2N水溶液を水-LiTf2N混合溶媒とみなし,それぞれの部分モル体積を見積もった.高濃度領域におけるモル分率依存性は,以前報告されていた接触イオン対(CIP)の生成分率と良く一致し,(溶媒分離イオン対)よりも高エントロピー状態であることが示された. 2.自己解離平衡:超濃厚LiTf2N水溶液中における自己解離定数はDebye-Huckelから予想される依存性とは逆転していた.この現象そのものは,一般的な電解質溶液でも観測されるが,ギブスエネルギーおよびエンタルピーのLiTf2N依存性を定量化した. 3.溶媒の酸性度:白金黒水素電極により水素イオンの活量係数を見積もった.自己解離定数のLiTf2Nモル分率依存性との比較から,LiTf2Nの存在によってH+キャリアが[Li(H2O)4]+であること,およびこのことによって,酸性度が増加していること,さらに塩基性度は変化していないことが示された. 4.イオンの溶媒和構造:酢酸イオンの電離熱力学量測定から,水溶液中との陰イオンの溶存状態の違いが見出された.水溶液中において電解質は溶媒和によって周囲の水分子を強く束縛し低エントロピー状態となるが,濃厚LiTf2N溶液中では陰イオンのエントロピー低下が緩和され,水素イオンに関してはほとんどエントロピー低下しなかった.おそらく,高濃度LiTf2N条件下において水分子ネットワーク構造が破壊され,酢酸イオンの溶媒和が希薄水溶液中ほどには溶媒を構造化しなかったか,イオンの生成が別の溶媒間相互作用の無秩序化を誘起したと考えられる. 5.ポリアクリル酸の電離平衡:超濃厚LiTf2N水溶液中におけるポリアクリル酸の電離平衡および電離エンタルピーから,高分子電解質の電離反応に対する共存電解質効果を見積もった.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られた知見は,濃厚LiTf2N水溶液中における水分子はそのほとんどがリチウムに水和しており,バルク水(自由水)が枯渇しているという,従来から言われている主張と整合性があるうえで,このような定性的な描像から一歩進み,その影響の起源をエネルギー的観点から定量化することができた.熱力学的な効果は,構造論からは得られない,電解質を評価する上で重要な情報であり,本研究手法の有用性が明らかとなった.一方,いくつかの点であいまいな部分が残っており,最終年度はこれらを解決し,結論を確固たるものにしていきたい. 1.動的効果:本研究の動機の1つに,濃厚LiTf2N水溶液中において酸化還元窓が広がるメカニズム解明がある.本研究課題のこれまでの結果は,これを定性的に説明する一方,静的効果だけでは十分でないことを定量的に示した.重要な要素として,動的効果,すなわちリチウム酸化還元反応の速度論に取り組む必要がある.このことがリチウム過電圧に関係する. 2.陽イオンの溶媒和効果:本研究では酸塩基反応,すなわち水素イオン授受反応を通して溶媒の性質を評価した.酸塩基反応は溶液中においてイオンの関係する最も基本的な反応であるから,このこと自体は普遍的な情報を与えるが,これに加えてリチウムイオンの活量を決定するような分析方法を確立したい. 3.他の濃厚電解質との比較:本研究課題は,濃厚電解質溶液中における水素電極を用いた自己解離定数の決定や,熱量滴定を用いた反応エンタルピー・反応エントロピーの決定,高分子電解質の電離平衡の量的解析など,詳細な熱力学的測定手法を適用してきた.このことが本研究課題の重要な知見である一方で,これまでの電解質溶液論では十分に知見が蓄積されていない課題も見出されてきた.比較・検証のためには,古典的な無機電解質に関するデータ収集が必要である.
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