研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、高難度反応のひとつである芳香族炭化水素の直接官能基化が可能となる新しい金触媒の開発である。金のサイズをナノ粒子よりも小さなクラスターとすることや金粒子の土台との強い相互作用を形成することで、従来の金ナノ粒子にはない触媒特性の発現をねらう。担持金クラスター触媒調製の手法として、乾燥や焼成にマイクロ波照射を用いる。芳香族炭化水素の直接官能基化においても、マイクロ波加熱を用いることで、従来加熱では実現できなかった反応の進行を目指す。
金触媒による芳香族炭化水素の直接官能基化を実現するため、δ+サイトを有する金触媒の開発を行った。1)金のサイズをナノ粒子よりも小さなクラスターとすることや2)金粒子の土台(担体)との強い相互作用(SMSI)の形成で増える金表面のδ+サイトによる触媒特性の発現をねらう。1)担持金クラスター触媒調製の手法として、マイクロ波照射を用いる検討を行った。担体としてマイクロ波吸収効率の低い金属酸化物を用いた場合は、マイクロ波照射により迅速乾燥させることで、金クラスター触媒が得られている。一方、マイクロ波吸収効率の高い金属酸化物では、従来法よりは小さいものの、焼成後の粒子サイズは大きくなった。そこで、担体として酸化マンガンを用い、乾燥とともに還元処理までマイクロ波照射により行うことを試みた。マイクロ波照射時の最高到達温度に応じて、Au(0)に還元される割合が高くなったが、金の粒子サイズも大きくなる傾向が見られ、さらなる検討が必要である。2)ハイドロキシアパタイト(HAP)を担体とすると、他の還元性酸化物担持触媒と異なり、酸素雰囲気下で担体による金粒子の被覆、水素雰囲気下で担体層の後退が可逆的に起こる。この酸素雰囲気下で生じたSMSIにより金表面のδ+性が増大することが知られている。HAPのカチオンやアニオンを置換したHAPを担体としても酸素雰囲気下でSMSIが生じ、δ+性が増大することが確かめられた。SMSIによる被覆層の厚さは置換HAPの種類や熱処理温度、時間によって変化した。得られた金触媒を、香料となる脂肪族エチルエステルの合成に適用したところ、金粒子径が3.5 nm以下、且つ、金表面が担体により薄く被覆されると高い触媒活性を示すことを見出した。これにより、金粒径のみならず、担体の構造自体も触媒活性を制御する一因となることが明らかになった。
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