研究課題/領域番号 |
21K05205
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
池田 進 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (20401234)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 有機半導体 / 分子動力学シミュレーション / 薄膜 / 核生成 / 結晶成長 |
研究開始時の研究の概要 |
有機半導体の基板表面における吸着、拡散、核生成から薄膜成長に至る全過程を途切れなく分子動力学(MD)シミュレーションによって再現し、各素過程を支配する物理的要因を連続的、包括的に理解することを目指す。具体的には、シミュレーションのソフトウェア、ハードウェアともに最新のものを導入し、空間的、時間的に幅広く計算できる環境を実現して、全過程を連続的にシミュレート可能な技術構築を図る。分子が自発的に立つ瞬間を見ることができるかが第一の鍵であり、各素過程を連続的につなげることができるかが第二の鍵となる。これらのマイルストーンを着実に達成しつつ、シミュレーション技術を高め、ゴールを目指す。
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研究実績の概要 |
研究期間の2年目となった2022年度は、初年度に整備した分子動力学(MD)シミュレーションシステム(ハードウェア、ソフトウェア)、ならびにそれを用いて行った予察的シミュレーション結果を基に、より詳細な条件でのMDシミュレーションを実施した。具体的には、表面を疎水性官能基で修飾したアモルファスシリカ基板上における有機半導体ペンタセン分子の寝た状態から立った状態への分子再配向過程を様々な温度条件のシミュレーションで確認し、メカニズム解明に注力した(棒状有機半導体分子は孤立している状況において基板表面に寝て吸着するが、成長後の薄膜中では立っているという普遍的な現象があり、寝た状態から立った状態への分子再配向をシミュレーションで再現し理解することが、本研究課題の最終目標である核生成・薄膜成長全過程包括シミュレーションを達成するための鍵になると考えられる)。初年度の予察的シミュレーションにおいて、立った分子からなるクラスターを予め初期構造モデル中に配置すると、周囲の寝た分子や分子クラスターが再配向して立つ場合があるという結果が得られていたため、同様の初期構造モデルを出発点とし、245 Kから520 Kという幅広い温度範囲(25 Kきざみ)でシミュレーションを行い、再配向現象を考察した。シミュレーション結果の動画より、既に立っている分子クラスター近傍の寝た分子クラスターが一気に立ち上がる様子が再現性良く確認されたが、熱的、速度論的な考察から、高分子の再配向で見られる協同運動とは異なり、1分子が立つ際のエネルギー障壁程度のトリガ(立った分子クラスターと寝た分子・分子クラスターの間のエネルギー的相互作用)によって、複数分子からなるクラスターであっても同期現象的に立ち上がることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度整備したMDシミュレーションシステムを用い予察的に得られた知見を踏まえ、2年目となった2022年度において、本研究課題達成の鍵となる分子再配向のシミュレーションによる再現とメカニズムの解明を進め、成果を国内学会で発表するとともに、査読付き国際誌に論文として発表した。これは当初の計画通りであり、研究がおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間のMDシミュレーションによって、基板表面に寝て吸着していた分子が立ち上がる過程を(立った分子クラスターが共存する条件下において)再現できるようになり、そのメカニズムの理解が進んだことを踏まえ、3年目においては、本研究課題の最終目標となる核生成・薄膜成長全過程包括シミュレーションの実現に向けて研究を進める。立った分子からなるクラスターが引き続き供給される分子を取り込んで薄膜成長が進む過程に関しては過去の研究において一部成功しており、壁となるのは、立った分子からなる核生成の初期段階であると予想される。これまでに得られた結果は、立った分子からなるクラスターが予め近傍に存在した場合に、それがトリガの働きをして周囲の寝た分子や分子クラスターが立つというものであり、最初の立った分子クラスター出現をシミュレートすることには成功していない。10分子以上の立ったペンタセン分子からなるクラスターが出現すると、それ以降は供給される分子を取り込んで安定的に成長できることをこれまでに明らかにしているが、この「最初の立った分子クラスターの出現」は恐らく確率論的現象であり、本来であれば、マイクロメートルオーター、マイクロ~ミリ秒オーダーの大きな空間・時間スケールの中で追跡していくべきものであると考えられる。現在使用しているMDシミュレーションシステムでは、そのような大きさの空間・時間スケールを扱うことは困難であり、物理的な意味を失うことなく計算を効率化できる技術的手段を検討するなどして、この問題を解決していく。
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