研究課題/領域番号 |
21K05207
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
唐津 孝 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (70214575)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 超長寿命りん光 / 有機結晶 / 固体発光 / キラル結晶 / ラセミ結晶 / π-π相互作用 / 水素結合 / 光化学 / キラリティー / ラセミ体 |
研究開始時の研究の概要 |
有機物の結晶を含む固相で観測される超長寿命かつ低エネルギーな位置に観測される新たなリン光現象(いわゆるこれまでの無機物での蓄光に相当)について,その機構を解明し、材料科学へ展開する。 単結晶X線構造解析による分子構造解析・結晶構造解析や分子間相互作用の解明を図る。発光能と構造との相関関係や,単結晶,蒸着膜を含めた固体作製方法依存性,摩砕(すり潰し)など外部刺激の影響の検討により発光原理を解明する。特に鏡像異性体の作る単一鏡像体結晶と鏡像異性体の混合(ラセミ体)結晶の差異について重点的に解明する。
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研究実績の概要 |
採択前年度に見出した1,1-ジフェニル-1-エタノール(DPE)誘導体の固体超長寿命りん光(固体状態において励起光遮断後の発光強度減衰時間が長寿命であること)発現の機構解明を行った。この現象ではアキラルなジフェニルメチル基が結晶中でキラルな構造を取っており擬似的なラセミ対(鏡像異性体の対)を形成していること、またそのラセミ対が密な結晶構造形成につながり、ひいては分子運動の低減により無輻射失活を抑えて、発光強度増強と長寿命化を達成していることを明らかにした。 初年度に検討した不斉炭素原子を有するDPE誘導体3種類それぞれについてR体、S体、およびR:S=1:1のラセミ体、計9種類の単結晶を作成し、その発光スペクトルを溶液、溶液を低温がガラス化した状態、結晶状態で観測した。その結果、りん光スペクトルの発光極大はガラス状態と結晶状態で0.76eVの非常に大きな差があることが分かった。単結晶X線構造解析により求めた分子構造やその構造に対して密度汎関数法を用いて2分子間相互作用を見積もった結果、りん光スペクトルの差異は結晶中では三重項エネルギーが少なくとも20分子の間にもわたって非局在化していることが示唆された。そこで研究2年度である今年度はDPEの3種の類縁体であるモノアシル化ヒドロベンゾインの長寿命りん光の発光特性調査を行った。置換基により異なる結晶状態を生成すること、さらに長寿命りん光の発光効率が影響を受けることを明らかにした。それぞれのラセミ結晶で発光効率が大きく異なる結果が得られ、結晶構造を詳細に検討したところ、発光効率の低い1種類はラセミ結晶中で2つの鏡像異性体が異なるコンフォーメーションを取っており、励起状態が関与するLUMO(最低空軌道)で分子間の相互作用が分断されているという興味深い結果が得られた。 今後、発光原理の更なる解明や発光の調色などに取り組んでゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子設計として芳香環の選択によるπ電子系の拡張、分子間相互作用を得るための水素結合部位の位置と方向制御などの検討から、結晶状態でのりん光のエネルギー準位は対象物質により多少はばらつきがあるものの、概ね非常に低いエネルギーを取ることが確認された。 研究2年目の秋から千葉大学共用機器センターの単結晶X線構造解析装置が不具合で十分な測定が行えなかった。年度末に新しい装置が導入されたので、最終年度はライセンスを修得して遅れを取り返す。 発光能の普遍性を探るための物質化学的な物質構造の選択、その準備のための合成化学的手法の検討は計画通りに進んでいる。高い発光効率を示すものとそうでない物の差異はある位程度わかりつつあるが決定因子は明確にできた訳ではない。一方で芳香環の選択や、置換基としてメトキシ基やアミノ基などの電子供与基の導入により励起エネルギーを調整し発光色を調光することの予備的な実験は有効であった。例えば芳香環をベンゼン環からナフタレン環、およびピレン環に拡張したところ長寿命りん光は観測されなかった。本現象が芳香環を選ぶ理由はまだ定かではないが長寿命りん光を発現できるかを決定するかなり重要なファクターであることが分かった。長寿命りん光を示すインダノール環にアミノ基を置換したところ、発光色が青色から黄色に変化することが分かった。 第一原理計算による励起エネルギーの非局在範囲の検討は特色のある研究手法であると考えられるが、専門家の助言や支援を得て着手する。 成果の学会発表は既に何件か行っているので、今後さらに増やしてゆく。論文発表はこれまで無いが、現在1~2年度の成果を発表するための投稿段階に1報、執筆中に1報、準備段階に2報がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度である今年度は不斉炭素原子を有するフェニルエタンジオールの誘導体に加えて、モノアシル化ヒドロベンゾイン類のR体、S体、およびR:S=1:1のラセミ体の3種類の単結晶を作成し、その発光スペクトルを溶液、溶液を低温がガラス化した状態、結晶状態で観測した。その結果、数百ミリ秒を超える長寿命な発光を観測する。 発光原理の更なる解明や発光の調色への取り組みでは、フェニル基を1-または2-ナフチル基さらに1-ピレニル基を有する1-エタノール誘導体を合成したが、長寿命りん光を観測できなかった。そこで芳香環の候補として世界で最初に長寿命りん光が報告された、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、トリフェニレンの4種に立ち返って1-エタノール誘導体とし発光挙動を調査する。単結晶X線構造解析により求めた分子構造やその構造に対して密度汎関数(DFT)法を用いて2分子間相互作用を見積もることで評価してきたが、計算方法を第一原理計算も用いて、結晶中での三重項エネルギーの非局在化状況について検討を加える。 個別の長寿命りん光発現原理の理解を深めること、さらに研究対象物質の拡張により帰納法的に原理を考察すること、などを通して研究を総括する。
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