研究課題/領域番号 |
21K05208
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 群馬大学 (2022) 千葉大学 (2021) |
研究代表者 |
田中 有弥 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (90780065)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 有機半導体 / 極性分子 / 配向分極 / エレクトレット / 有機EL / 振動発電 / センサ / 巨大表面電位 / 有機エレクトロニクス / エネルギーハーベスティング / 極性有機分子 |
研究開始時の研究の概要 |
エレクトレットはセンサやマイク,発電素子など様々なデバイスの根幹を成す材料であるが,その作製には絶縁体への荷電処理が必須であった.近年我々は「自発的に配向する極性有機分子は,荷電処理が一切不要なエレクトレットとして機能する」ことを実証した.これは上記デバイスの低コスト化につながる新しいエレクトレットであるが,光に対する表面電位の安定性は低く,従来の評価手法の時間分解能が秒オーダーと低いことも相まって,その電位消失機構は完全には理解されていない.そこで本研究では時間分解能を高めた補償電荷測定法を構築する.本手法を用いて表面電位の安定性の制限因子を明らかにするとともに,長寿命化を実現する.
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研究実績の概要 |
近年我々は,自発的に配向する極性有機分子を利用することで,荷電処理が一切不要なエレクトレット型振動発電素子を実現した.これら自発的な配向分極を示す極性有機分子群を自己組織化エレクトレット(SAE)と呼ぶ.SAEはセンサやマイクといった様々なエレクトレットデバイスの低コスト化を実現しうる有望な材料であるが,光に対する表面電位の安定性は低い.この電位消失機構を解明するため,本研究では新しく補償電荷測定法を構築する.本手法を用いて表面電位の安定性の制限因子を明らかにするとともに,長寿命なSAEを実現することを本研究の目的としている. 本研究を開始した2021年度は,構造を変えたサンプルの表面電位測定から着手した.その結果,基板の種類によっては光照射しても表面電位は減少しにくく,大気中においても高い安定性を示すサンプルが作製できた.そこで二年目の2022年度はこの現象の再現性を確認するとともに,修正した補償電荷測定法を利用して帯電機構の解明にも取り組んだ. 修正した補償電荷測定法を利用することで,SAEのイオン化エネルギー以下の光を照射した場合であっても,サンプルに電圧が印加されている場合,電子が外部へ放出されることがわかった.さらに絶縁体上に成膜した極性分子からなるサンプルに光照射と電圧印加を行うことで,この電子放出が高い表面電位安定性を実現する重要な過程であることを見出した. “新しい手法を構築して電位減衰機構を解明,その後長寿命化の検討を行う”という提案時の計画通りには進まなかったものの,当初提案した補償電荷測定法と類似した評価システムを導入することで,結果として安定性の高いサンプルの帯電機構の解明につながる知見を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では新たな評価手法を構築し,それを用いて表面電位の減衰機構を調べ,最終的には長寿命な自己組織化エレクトレット(SAE)の実現を目的としている.研究を開始した2021年度は,単色光をサンプルに照射し,その波長を掃引しながら光電流を測定することで,電子・ホールの生成機構,及びそれらによる分極電荷の中和過程を評価する補償電荷測定法を構築する計画であった.ただし研究開始直後に,構造を工夫すれば光照射しても表面電位がほぼ減少しないサンプルを実現できることがわかった.そこで二年目の2022年度ではこの現象の再現性を確認するとともに,その機構解明に関する研究を行った. 極性有機分子として1,3,5-tris(1-phenyl-1H-benzimidazole-2-yl)benzene(TPBi)を使用した.光を照射しながら,ITO上,もしくはSiO2上に成膜したTPBiの表面電位を測定した.その結果,ITO上に成膜したサンプルでは表面電位が数時間で初期値の20%程度にまで減少するが,SiO2を使用した場合1時間程で初期の40%程度に減少するものの,その後電位はあまり変化せず,20時間経ってもほぼ一定であった.この起源を調べるため,光照射下でサンプルに流れる電流を測定したところ,TPBiのイオン化エネルギーよりエネルギーの低い光を照射した場合でも,電圧印加時にピコアンペア程度の微小電流が流れていることがわかった.これは光照射によって発生した電子とホールは,TPBiの分極電荷を補償するだけではなく,一部の電子は外部に放出されていることを示唆している. 当初の計画通りに研究が進んだわけではないが,表面電位の安定性が高いサンプルが作成でき,修正した補償電荷測定法を利用することで,機構解明につながる知見を得ることができたため,進捗状況は区分(2)の「おおむね順調に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2023年度は,前年度に作製した表面電位の安定性が高い極性分子エレクトレットの帯電機構について,より深く検討を行う予定である.特に2022年度までに光照射時の印加電圧も重要な要素であることがわかっているため,作製したサンプルの電位と外部から印加した電圧の関係について調べる.サンプル帯電の原因が単に放出した電子によるものであれば,サンプルの表面電位と外部電位は一致すると予想されるが,実際は外部電圧よりサンプルの表面電位の方が低いことがわかっている.そこで表面電位の制限要因に注目して評価・解析を進め,サンプルの表面電位をどこまで増加させることができるか検討を行う予定である. 並行して,前年度まで得られた知見をもとに,国内外の学会や学術論文で成果発表を行っていく.
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