研究課題/領域番号 |
21K05223
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小島 隆 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70333896)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 粒子 / アルコキシド法 / 水和酸化物 / 反応性 / 多孔性 / 温水 / 水熱 / 結晶化 / 低温 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、反応性・溶解性を任意にコントロールした“水和(含水)酸化物”を原料に用い、新奇な形状や機能をもつ粒子の低温合成を試みる。まず、金属アルコキシドの加水分解を穏やかに行うことにより、化学的な反応性に優れる水和酸化物を得る。得られた水和酸化物を純水または金属イオン水溶液中に浸すことで、結晶性の粒子へ変換する。水和酸化物の溶解特性や内部への金属イオンの拡散挙動を制御できれば、特異的な構造をもつ粒子の低温合成が可能となる。
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研究実績の概要 |
本研究では、様々な水和酸化物の化学的安定性を積極的にコントロールし、その特異的な溶解性や結晶化挙動、反応性を活かした、無機微粒子の合成手法の確立と汎用化を目指している。令和4年度においては、主に以下の様な成果を得た。 (1)金属アルコキシドの加水分解により得た析出物を、アルコールに浸漬することで調製した多孔性の水和チタニア粒子について、その乾燥状態が結晶化挙動に与える影響を詳細に検討した。未乾燥で重縮合度の低い水和チタニアを温水や熱水中に保持(温水・水熱処理)することで結晶化したところ、乾燥した粒子を結晶化した際と比べて明らかに結晶格子が歪んでいた。また、この歪みの導入は光触媒活性を向上させる傾向にあった。これは、水和酸化物を原料とした場合に特徴的な現象であり、本手法の有効性を示す成果である。 (2)(1)の反応系に金属粒子を共存させることで、金属コア-水和チタニアシェル粒子の合成を可能とした。この際に用いる溶媒種と、粒子の核生成状況を制御することで、高分子系の分散剤を用いずにコアシェル粒子化を達成できた。得られた粒子を温水処理することで、微構造を維持したままシェル層の結晶化も可能であった。今回の成果は、市販の金属粒子を用いて分散剤を使用せずにコアシェル構造を得たことに意義があり、本手法の高い汎用性が示された。 (3)チタニア系と同様の手法で多孔性の水和酸化タンタル粒子を調製し、未乾燥のまま水熱処理することで、棒状の酸化タンタル結晶が成長したウニ状の粒子を得ることができた。通常、純水中での水熱処理ではこのような形態は得られないことから、水和酸化物の反応性が、特徴的な微構造につながった好例であると考えられる。ウニ状の形態は容器等に充填した状態でも粒子間に空間が残りやすく、触媒等への応用に非常に有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、水和酸化物の反応性を活かした、機能性粒子合成手法の確立を目指している。特に令和4年度は、 (1)水和酸化物の乾燥状態(重縮合度)が、温水または熱水中での結晶化時に与える影響を検証した。その結果、研究実績の概要で述べたように、特に重縮合度が低い水和酸化物を原料とした際に、得られる結晶の格子に明確な歪みが確認された。この歪みは、結晶子径以外に起因する格子欠陥に由来していることも判明した。これた結果は、本研究で予測していた水和酸化物の特異性を実証している。一方、結晶化過程の検証についてはラマン分光法などを用いて追跡は試みたものの、市販の装置では強度・分解能が不足していたため、検証は不十分な状況である。 (2)本研究で用いている水和酸化物の析出手法を応用し、汎用性の高いコアシェル粒子の調製法について検証した。結果として研究実績の概要で述べたように、市販の金属粒子をコアに用いてもコアシェル化を達成することができた。一方、チタン等の水和酸化物を異種金属水溶液中で加熱することで、中空の複合酸化物粒子が調製できる条件も明らかになりつつあり、当初の予想を超えた成果も得られている。 (3)水和酸化物の調製条件が、結晶化後の形状に与える影響を精査した。結果として、水和酸化物の乾燥状態の違いによって生成する結晶子径、結晶子の数が大幅に変わり、結晶子間の空隙に由来するメソ孔のサイズ制御も可能となることが判明した。この結果は水和酸化物表面部における核生成状況を制御できることを示しており、当初の期待通りの成果と言える。 以上の様に、今年度は合成手法の展開および合成対象の機能向上については大きな進展が見られたことから、研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。次年度は、予測の範囲内ではあるが進展の思わしくない、結晶化過程に関する検証に注力する。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、特に以下の研究を中心に遂行する。 (1)特に重縮合度が低い水和酸化物を温水・水熱処理すること得られる歪んだ結晶子について、詳細な検討を行う。また、この検討を通して水和酸化物の結晶化過程における特異性について検証する。これまでは詳細な結晶化過程の追跡は困難であったが、各種分光法を専門とする研究者の協力を受ける体制を整えている。また、格子に導入された欠陥の導入機構およびその影響についても精査する。また、水和酸化物の熟成による精密な重縮合度の調整も試みる。 (2)水和酸化物の反応性を活用し、特異的な微構造を有する粒子の調製に関する検討をさらに進める。先ず、水和酸化物を温水・水熱処理した際に生じるメソ孔の広範囲なサイズ制御を試みると共に、良好な結晶性の両立も試みる。また、コアシェル粒子に関しては、シェル層の単なる結晶化のみならず、異種金属イオン水溶液中での水熱処理による、複合酸化物への変換を行う。異種金属イオン水溶液中での結晶化では、生成物が中空化する現象を利用した機能性粒子の合成も試みる。 (3)合成した粒子の触媒活性向上に関する検討を行う。これまでの検討により、触媒活性に良好に寄与する粒子の形態制御や比表面積向上手法についてはかなり進捗している。令和5年度では、チタニア系については(1)の検証結果をフィードバックしながら光触媒活性に最も有益な欠陥種、欠陥量について検証する。また、酸化タンタル系については、ウニ状の形状を保ったままでの窒化および部分窒化条件を詳細に検討し、触媒能の向上を目指す。 以上の様に令和5年度では、水和酸化物を原料とする機能性粒子合成手法について、基礎的な反応機構についての解明を試みる共に、本手法を活用した微粒子材料の機構向上に関する指針の提示を目指す。
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