研究課題/領域番号 |
21K05234
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
津野 孝 日本大学, 生産工学部, 教授 (00217358)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 錯体 / 光学活性 / 白金 / ホウ素 / 亜鉛 / X線解析 / 円偏光発光 / DFT計算 / 共結晶 / 複核 |
研究開始時の研究の概要 |
有機化合物の共結晶は,薬理作用を示す難溶性経口製剤などの溶解度の改善,不斉物質の単離など広く知られている。一方,金属錯体間の組合せによる共結晶の可能性は無限にあるが,それらに関する研究は金属自体の毒性の問題もあり,それ程多くは行われていないのが実情である。金属錯体は様々な機能特性を有した物質として知られている。本研究では,金属錯体へ新たな付加価値として光学活性を導入し,更に,複数の金属錯体で構成される光学活性複核型金属錯体共結晶を創製することで,もともとの個々の金属錯体が有していた物理・化学的特性を複核型になることによりマルチパーパス型特性の発現と新規の機能特性の発現を見出していくことである
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研究実績の概要 |
光学活性Shiff塩基を有する亜鉛錯体は,溶液常体で二つの亜鉛中心で発現する二つのジアステレオマー混合物として存在するが,晶出させると一方のジアスレオマーとして得られることを明らかにした。溶液とKBrペレット固体状態におけるCPLについて検討した結果,一方のジアステレオマー過剰と予想できるKBrペレット固体状態のglum値が向上することを明らかにした。金属中心に発現するキラリティー変化伴うCPL制御の可能性を本研究より明らかにした。 4配位サレン型キラル白金錯体の合成とそれらの構造解析ともに円発光特性(CPL)について検討を行った。これら錯体はDMF溶媒中で黄色からオレンジ色のCPLを示した。円発光効率を示すglum値は,10-3程度であることを明らかにした。また,配位子にポリエチレングリコール鎖を導入することで融点を下げ,液状化白金錯体の創製に成功し,この錯体が液状でCPLを示すことを明らかにした。このCPLは,励起三重項状態からの誘起されていることを,DFT計算ならびにりん光スペクトルから確認した。三重項由来の液状金属錯体のCPLの発現はこれまで知られておらず,本研究は世界最初の例であり,発光材料の特性の見地から極めて意義深い。 更に本研究を遂行していく過程で多くの光学活性配位子を創製し,これら配位子を用いて外部刺激CPL応答性ホウ素錯体,CPL発光液状化ホウ素錯体,光学活性二核ホウ素錯体の創製にも成功した。特に二核ホウ素錯体は,固体状態で溶液よりも高いCPL特性を発現する事を見出した。 これらの研究結果は,当該年度に欧文論文7報,総合論文1報,学会講演発表10件を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を通して白金,亜鉛,ホウ素を中心核とする複数の錯体を合成し,それらのキロプティカル特性を明らかにした。光学活性二核ホウ素錯体は,高い発光量子収率(> 0.99)を示すとともに,KBr固体ペレット状中で溶液状態よりも高いCPL特性を示すことが明らかとなり,複核型にすることで,本研究を遂行する意義を深める結果を得ている。更に本研究を進める過程において,側鎖にエチレングリコール鎖を導入することで,融点を下げ,融点が41℃となる白金錯体の創製に成功した。この錯体は,一旦溶融させると固体になるまで時間を要し,液体状態を維持し,この状態でCPLりん光発光を示すことを見出した。申請者が知る限り液体状態でCPLりん光発光を示す世界最初の化合物である。 既に同じ光学活性二座配位子を二つ有する,白金およびパラジウム錯体の創製とX線単結晶構造解析に成功している。構造解析に結果より,同じ配位子で構成される白金とパラジウムのそれぞれの錯体は,同じ空間群とほぼ同じ格子定数を有していることを見出している。複数の擬鏡像関係となる,白金錯体とパラジウム錯体との混合溶液を調製した。そのいくつかの溶液から単結晶が晶析し,これら結晶に対してX線単結晶構造解析を行った。その結果,白金錯体とパラジウム錯体の1:1で構成されるラセミ様共結晶であることが明らかとなった。現在,共結晶が得られていない白金‐パラジウム錯体組合せに対し晶析溶媒を変え共結晶の作成を行っている。 更に光学活性三核ホウ素錯体の創製に成功している。この錯体の構造は,ベンゼン中でラセミ体として晶析させることで明らかにできたが,鏡像体に間にベンゼンが包摂されている事が明らかとなった。新たな包摂型共結晶の知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
白金‐パラジウムの共結晶錯体に関する結晶構造を明らかにしていくとともに,共結晶状態にける白金錯体の発光特性について検討する。また調製した錯体のDFT計算を行い,特に白金の錯体のエネルギーレベルに基づいた発光波長との相関性と中心金属の平面性の歪に基づくCPL特性について明らかにする。一方,複数の置換サレン型白金錯体のCPL発光特性についても明らかにしており,この研究内容については,当該年度中に論文として報告する。同じ配位子を用いて同族の金属核を有する錯体の単結晶は,本研究で同一の空間群とほぼ同一の結晶パラメータであることを本研究で見出している。当該年度では,異なった族の金属核とする錯体同士の共結晶の錯体創製を試みる。特に,亜鉛とコバルトを中心核の錯体から調製される共結晶は,コバルトの磁性特性と亜鉛錯体の発光特性を兼ね備えた物質として期待できる。上述した光学活性三核ホウ素錯体の包摂機能は,現時点ではベンゼン分子の包摂のみであるが,サイズ的に他の分子の包摂も可能であることから,物理特性を有した分子の包摂結晶を作成し,その構造と物理特性について検討を行う。 これまでの配位子作成の過程で,芳香環上の特定の位置に置換基を有すると融点が他の置換錯体より低くなることが判明しており,この特定の位置にエチレングリコール鎖を導入した,CPL発光を示す新奇常温液体光学活性錯体の創製についても検討を行う。特に液状化ホウ素錯体のCPL特性については既に明らかにしており,論文として報告する。 多核金属を繋ぐことができる配位子を合成し,光学活性複核型錯体の創製を行う。この配位子には光応答可能な配位子とし,外部刺激による,結晶のキロプティカル特性のON-OFF制御できる本研究の核となる高次機能共結晶の作成に向けて展開していく。
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