研究課題/領域番号 |
21K05235
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
須磨岡 淳 東京工科大学, 工学部, 教授 (10280934)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 酸化セリウム / ナノ粒子 / 核酸 / DNA / ゲノム / 加水分解 / ペプチド核酸 / エピジェネティクス |
研究開始時の研究の概要 |
個々の細胞はそれぞれの細胞の特性を保っており,遺伝子の塩基配列の変化を伴わない情報記憶と発現の機構(エピジェネティックな制御の機構)が存在している。この機構の一つとして,DNAの核酸塩基のメチル化が知られている。さらに,核酸塩基は酸化などの様々な損傷も受けており,これらの修飾を受けた核酸塩基がゲノムDNA中のどの領域にどれだけ存在するかを正確に分析することが,エピジェネティックな制御機構を解明する上では非常に重要である。もし,直接ゲノムから対象となるDNA領域を簡便に切り出し,これを回収して精密に分析することができれば,ゲノム医療にも大いに貢献できるものと期待される。
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研究実績の概要 |
本研究で開発を目指す「酸化セリウムナノ粒子を触媒としたゲノム解析キット」は、DNAの切断活性を持つ酸化セリウムナノ粒子(CeO2 NPs)と塩基配列を認識するペプチド核酸(PNA)から構成されている。 本年度は、基質DNAを昨年度のオリゴマーやPCR産物から、プラスミドDNAへと鎖長を伸ばして検討を行った。また、CeO2 NPsに関しても、昨年度まで使用してきた市販のCeO2 NPs(PNs-1)に加えて、文献に従い調製したCeO2 NPs(PNs-2)およびVacancy-Engineered Nanoceria(NPs-3)の合計3種類を用いた。 各CeO2 NPsに関して動的光散乱法により粒径を測定した結果、粒子径はNPs-3 > NPs-2 > NPs-1の順であった。この結果は、走査型電子顕微鏡の測定結果とも矛盾しないものであった。また、X線回折法でNPs-2および調製NPs-3を測定したところ、結晶子サイズに関してはNPs-2 > NPs-3であった。さらに、比表面積は、NPs-3 > NPs-2 > NPs-1の順であった。次に、アガロースゲル電気泳動を用いてプラスミドDNAの切断活性の評価を行った結果、各種のCeO2 NPsでDNAの切断活性に大きな差はないことが明らかになった。現状では、より活性の高いCeO2 NPsを見出すには至っていない。 PNAに関して、これまでの結果からPNAの末端をある種のシアニン色素で修飾すると、特定の条件下において二本鎖DNAとPNAの複合体が安定化すること、しかしながら、その安定化能は応用のためには不十分であることが明らかとなっていた。そこで、今年度は構造の異なるシアニン色素のモノマーの合成を試みた。しかしながら、モノマーの合成に手間取ったこともあり、十分な検討を加えることができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまで我々が開発してきた人工DNA切断酵素では、触媒として均一系のCe(IV)/EDTAを使用していた。この触媒は、一本鎖DNAには活性があるが二本鎖DNAはほとんど活性がないという点が重要である。この性質を利用して、PNAが二本鎖DNAの標的部位に結合して形成される一本鎖部分を切断することで二本鎖DNAの選択的な切断を実現していた。 昨年度まで研究により、市販の酸化セリウムナノ粒子(CeO2 NPs)の切断活性が、一本鎖DNAと二本鎖DNAとでわずかに異なっていることを明らかにしている。しかし、より長鎖のDNAを基質とした場合には、その選択性が不十分であることが明らかとなってきた。また、その切断活性を向上することもキット化には必要である。これらを解決するために、新たに調製したCeO2 NPsでDNA切断実験を行うとともに、CeO2 NPsのキャラクタリゼーションを行い、CeO2 NPsの構造と切断活性・選択性との相関を明らかにすることを試みたが、これまでのところ十分な結論が得られていない状況である。 また、二本鎖DNAに対するPNAの選択的な結合効率を上げることも重要であり、シアニン系の色素が、結合効率向上にある程度は有効であることをこれまでに明らかにしている。そこで、類似の色素で新たなPNAのモノマーを合成し、効率の向上を試みたが十分な成果が得られていない状況である。 以上のように、「酸化セリウムナノ粒子を触媒としたゲノム解析キット」を実現するためには、キットを構成するCeO2 NPsとPNAの両方に対して、もう一段階の改善が必要となり、進捗が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きこれまでに得られた結果を設計にフィードバックし、種々のカチオン性の色素やアミンで修飾したPNAを合成して二本鎖DNAへの選択的な結合効率の向上を図る。特に、PNAの主鎖のγ位への化学修飾を重点的に検討する。これは、この位置への修飾がDNAとPNAの二重鎖を安定化することが報告されているからである。さらにキット化するにあたって、ビオチンをペプチド核酸の末端に結合し、ビオチン-アビジン結合を利用したビーズにより目的DNA断片のみを選択的に回収する手法についても検討する。 また同時に、酸化セリウムナノ粒子(CeO2 NPs)を種々の方法で合成し、DNAの切断活性の向上を図る。これは、リン酸モノエステルやトリエステルの加水分解に対して、CeO2 NPsの調製法によりその活性が異なることがすでに報告されているからである。また、XPSなどの分光学的手法も用いて、粒子の形状だけではなく酸化状態とDNAの切断活性の相関を明らかにする。さらに、他の金属(例えばプラセオジムなど)をドープしたようなセリウムナノ粒子の活性についても、そのDNA切断活性を評価する。以上のような検討を総合して、ゲノム解析キットに最適なナノ粒子の開発を行う。
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