研究課題/領域番号 |
21K05260
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高瀬 聡子 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (60239275)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 水電解 / 金属錯体 / フタロシアニン錯体 / 水電解触媒 / 複合金属錯体結晶 |
研究開始時の研究の概要 |
太陽光や風力発電の出力変動に対応する蓄電技術として、高い電力変換効率と起動停止耐久性を有する固体高分子膜型水電解セルによる水素生成が注目されている。しかし、広く利用されるためには、電解質の酸性条件下で耐久性を示し、安価で高活性な触媒が必要である。 本研究では、高効率で安価な水電解セルの構築を目的として、耐酸性を示す金属フタロシアニン錯体の分子結晶が中心金属種に依存した様々な触媒活性を示すことに着目し、複数種の金属フタロシアニン錯体の結晶中の分子配列精密制御や電荷移動錯体化を行う。さらに、触媒活性向上と有効活性点を増加させる触媒担持法の開発を行う。
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研究実績の概要 |
高効率な酸性水電解セル用低コスト触媒の開発を目的として種々の遷移金属錯体結晶作製を試み、得られた結晶触媒の機能評価を行った。主としてマンガンを中心金属とするフタロシアニン錯体を用いて金属複合化、及びアクセプターイオンとの分離積層結晶の作製方法の条件探索を行い、得られた結晶触媒をグラッシーカーボンディスク電極に設置して硫酸酸性溶液中での分極測定を行い、水電解反応の過電圧と電流値が示唆する反応速度を測定した。その結果、マンガンと銅、マンガンと亜鉛のフタロシアニンの複合結晶をα相として得ることに成功した。また、マンガンフタロシアニンだけでは高導電性を示すヨウ素との分離積層体は得られず、絶縁体の交互積層体であったが、コバルトフタロシアニンと複合化することで分離積層体が得られた。得られた触媒の分極曲線から、α相のマンガンフタロシアニンを亜鉛または銅の複合系とすることでカソードの水素生成反応に対する触媒活性が向上することを見出した。中でも亜鉛との複合系が低い過電圧と高電流密度を示した。いずれの金属の単独系は低い触媒活性であった。一方、アノードの酸素発生に対する触媒活性では、単独金属フタロシアニン(中心金属;マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛)の検討では過電圧には差がなかったが、マンガンが比較的高い電流密度を示した。さらにマンガンフタロシアニンと他の遷移金属との複合α相結晶の触媒では、コバルトと複合化した時に活性の向上が見られた。さらにマンガンとコバルト複合系のヨウ素との分離積層結晶触媒を用いることで、低い過電圧での酸素発生が可能であることがわかった。これは、分離積層結晶とすることで、電荷移動速度が向上したためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々のα相のマンガンフタロシアニンとの複合系結晶が得られ、これらを比較することができ、亜鉛フタロシアニンとの複合化による触媒活性向上効果を明らかにすることができた。触媒評価法として、チタンメッシュなどの電極材料や触媒担持法、及び回転電極や定電位電解法などの活性評価法の条件などを検討し、アノード条件での耐腐食性や電解生成物の除去などが課題となり、最終的には多くの研究者が行っている方法としてグラッシーカーボン電極を回転して分極測定を行うことで、触媒の過電圧と反応速度の指標としての電流を測定し評価を行うことができた。今後、生成物の定量を可能とする系の構築が必要と考えている。 触媒合成については、研究開始前まではマンガンフタロシアニンを中心とした複合系の結晶作製は行っておらず予測できていなかったが、多様な複合系結晶が得られたコバルトフタロシアニンと結晶形成挙動が大きく異なり、金属とマンガンとの複合系分離積層体結晶はコバルト系のみ得られた。そのため、マンガン系の分離積層体結晶触媒の触媒特性の系統的な検討ができなかった。また、事前実験で高い水素発生触媒活性を示していた銅フタロシアニンの活性が確認できなかったために、銅系の触媒の探索が進まなかった。触媒担持法や触媒中の分子の積層状態やその状態に依存した電気的特性の違いが原因と考えており。改善方法を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
水電解触媒として錯体触媒の導電性を改善することが触媒活性の向上に寄与することが示されたので、導電性分離積層体作製法の検討に比重を置いて研究を進める。α相ではマンガンフタロシアニンと亜鉛フタロシアニン系の複合化により水素生成反応に対して触媒活性向上が見られたが、この複合系を高導電性のヨウ素との分離積層体として得ることに成功しておらずヨウ素の濃度や溶液中の化学種を制御することで再挑戦を行う。さらに亜鉛フタロシアニンを軸とした金属複合系フタロシアニン結晶の作製法を検討する。ほかに銅、鉄、ニッケルを中心金属とするフタロシアニンとの複合系およびアクセプター種として臭素イオン、フッ化ホウ素(BF4-)、フッ化リン(PF6-)などを検討する。中心金属種によって中心金属の酸化されやすさや電子供与性が異なることを実験結果から系統的に考察し界面析出法による導電性分離積層結晶作製法を確立する。 一方、水電解性能は電極構造や触媒の担持方法にも大きく影響を受けるので、反応場の親水性制御、多孔質化による反応面積の拡大、担持材料と電極材料の選択を行い、水電解反応場の最適化を行う。最適化した反応場を構築し電極触媒評価法と高効率水電解系の確立を行う。確立した系を用いて水電解反応の生成物の定量を行い反応速度と水素生成の定量的な議論を行う。
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