研究課題/領域番号 |
21K05279
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37010:生体関連化学
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022-2023) 大阪府立大学 (2021) |
研究代表者 |
伊藤 智子 大阪公立大学, 大学院獣医学研究科, 客員研究員 (80372910)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 抗腫瘍免疫治療 / 細胞外小胞 / 結核菌抗原 |
研究開始時の研究の概要 |
抗原性の弱い腫瘍に対しても有効に抗腫瘍細胞性免疫を惹起する、ヒト臨床に応用可能な安全な「微生物抗原提示細胞外小胞」製剤の創製を目的とする。 本研究では培養細胞に免疫原性の高い結核菌抗原遺伝子を導入して発現させることで疑似感染状態の細胞を作成し、免疫活性化機能の高い「微生物抗原提示細胞外小胞」を調製する。その免疫活性化挙動、抗腫瘍免疫誘導のメカニズムを解明し、in vivo、ex vivoで高い抗腫瘍免疫を誘導する安全な細胞外小胞製剤を創製し、動物臨床研究を経て、ヒトへの臨床応用を検討する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は抗原性の弱い腫瘍に対しても効果的に抗腫瘍細胞性免疫を惹起させる「細胞外小胞製剤」を創製することにある。 腫瘍関連抗原は一般に免疫原性が低く、抗腫瘍免疫が誘導されにくい。我々は、抗原性の高い結核菌抗原、ESAT-6の遺伝子を腫瘍細胞に導入し、抗腫瘍細胞性免疫を効率よく誘起する新しい免疫治療システムを開拓し、その効果を報告してきた。その治癒機構として「遺伝子導入した腫瘍細胞がESAT-6抗原を含んだ細胞外小胞(EVs)を分泌し、これを捕食した樹状細胞(DCs)が「外来危険信号」と認識して成熟し、抗腫瘍免疫を誘導する」という機構を提唱した。これを立証するために、培養細胞から調製・単離したESAT-6含有EVsを培養DCに加えたところ、有意な成熟が観察された。 細胞性免疫を効率よく誘導するためには、免疫原性の高い抗原の存在とともに、マクロファージ(Mφ)などが自然免疫系のサイトカインを分泌してDCs、ナチュラルキラー細胞(NK)などを活性化することが有効である。そこで、培養細胞にアデノウイルス(Ad)を感染させて、細胞のウイルスセンサーを刺激してIFNを誘導する因子を含んだEVsを分泌させ、これ用いて抗腫瘍免疫を活性化する戦略を試みた。 免疫系細胞、腫瘍細胞、正常細胞由来の様々な培養細胞にAdを感染させ、培養上澄みから採取したEVsを培養DCに加えた。非増殖型のE1、E3を除去したAdを用いたにもかかわらず、いずれの細胞も高いIFN-α分泌を誘導するEVsを分泌した。さらに、Adゲノム、またはその一部をコードしたDNAを導入した細胞も同様にIFNを誘導するEVsを分泌した。 これらのEVsは担癌マウスにおいて著しい抗腫瘍効果を示し、自然免疫系サイトカイン誘導による新たな抗腫瘍EV製剤の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mφだけでなく、免疫系細胞、腫瘍細胞、正常細胞由来の様々な培養細胞がE1、E3を除去したAdの感染によって自然免疫系サイトカイン、IFN-αの分泌を促進するEVsを分泌することを確認した。また、E1、E3を除去したAdゲノムをコードしたDNAを導入した細胞も同様にIFNを誘導するEVsを分泌した。これらの結果から、アデノウイルス感染細胞はウイルスタンパクに依存せずにIFN誘導EVsを産生することが見いだされた。 E1、E3欠損型アデノウイルス遺伝子が導入する産生物としては、ポリメラーゼIIIによって転写されるVA-RNAが考えられる。そこで、VA-RNAをコードしたDNAを細胞に導入したところ、同様にIFN誘導EVsが得られ、新たな自然免疫活性化の戦略の可能性が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
一般にプラスミドDNAによる遺伝子導入では、DNAのサイズが小さいほど遺伝子発現の効率が良く、また、細胞毒性も低減される。VA-RNAは短い(160 塩基)RNAであるため、これをコードしたDNAも非常に短いものが可能である。 一方、これまでの細胞への遺伝子導入は比較的大きなプラスミドDNA(>2000 bp)を用いた研究がほとんどであり、このような小さな核酸のin vivo、in vitroでのデリバリーの方法は確立されていない。 研究代表者らはこれまで、培養細胞で長期高発現するDNA複合体、生体内で(特に腫瘍で)高発現するDNA複合体の開発、ならびにそれを用いた遺伝子治療システムの研究を行ってきた。短鎖DNAは一般に導入効率が高く、また同じコピー数であれば毒性が低いなどの利点がある。 今後はVA-RNAをコードしたこの短いDNAの効率の良いデリバリー方法を追求し、より治癒効率の高い治療システムを構築するとともに、抗腫瘍効果及びESAT-6遺伝子との相乗効果を詳細に調べ、このような微生物遺伝子を用いたガン免疫治療の機序を解明し、システムの最適化を図る。
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